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一編
一編
君は作家になり、
僕は売れない詩人になった。
「君の人気は大変なものだね」
「月夜の晩に、少し歩いて来ただけで、
たくさんの人が振り向いていたよ」
「君は本をたくさん貸してくれた」
「予報通りなら、
どこかで温かいものを食べて、
朝雨が止んだら行こう。雨露で、
木々や果実が輝いていれば、
君の名前入り原稿用紙もきらきら光り、
僕を嫉妬させるだろう」
「僕の詩を、
ねだったりせがんだりする
編集者さんや読者さんは一人もいない。
近頃は、
僕の詩の
どこがいけないのでしょうかと、
有名な詩人の家々を
訪ねて行きたい気持ちでした」
「一時間も二時間も
机に向かって作った詩は一つもなく、
合間合間を見つけて
作ってゆくのが恰度良い」
「だから何の心配もいらない。
僕はどの方へ行っても構わない
君の行きたい所にお店に行こう。
今晩も、僕は売れない詩人さ。
君に黙って付いてゆく。
そして君からたくさんのことを学ぶ。
一編。
きらきら光る一編の詩を、
僕は、
どうしても作らねばならないんだ」。
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