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古事記の神話 #001(藤沢 衛彦)

一 天地開闢てんちかいびゃく

 古へ天地未だ剖かれず、陰陽分れず、万物未だ成らざりし時の状は、譬へば、浮べる雲の大海原の面に漂うて、かかるところもない如く、渾沌として鶏子の黄白の散り乱れて混れるやうに、形状もなければ、また区別もつかず、溟滓して牙を含むの態であつた。

 然る後に、軽く清める気は、漸く登りて、清陽なるに及び、薄く靡いて、天と為り、重く濁れる物は自ら沈んで、濃く滞つて、地と為つた。

 其はじめに成りたる天を高天原といひ、後に定まれる地を国といふ。天地の間に大虚ありて、空しく懸る。

 天地開闢けしはじめ、国なほ稚く、砂土浮きただようて、海月の海水に泳げるがやうに、浮脂の水の上に漂へるが如く、未だ固まらざりし時に、葦牙のやうなる物、自ら其中に成り出でて、此物の萠騰りて大虚の中に発りたるによつて、高天原に化生でたまへる最初の神を、天譲日天狭霧国禅月国狭霧尊あめゆづるひあめのさぎりくにゆづるつきのくにのさぎりのみことと申し奉る。天祖と称したてまつるは此御神である。

 然る後に、高天原に、自ら化生でたまへる神たちの中に、独りづつ化生でたまへるを、独化天神と申し、二柱倶に化生でたまへるを、倶生天神と申し、男神と女神と共に化出でたまへるを、耦生天神と申したてまつる。また、別に化生でたまへる神を、別天神と申したてまつる。

#002 へ続く(👈リンクあり)

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