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都合のいい相手

「誰かにとっての居場所として、都合のいい男になろう」

そう思うようになったのは、僕がまだ大学生だった20歳のこと。

3年間付き合っていた当時の彼女を親友に寝取られ凹んでいた頃に出会ったのが、バイト先の常連だった5歳年上の女性だった。

不思議と彼女とは気が合った。

話のテンポ、年齢差を感じさせない居心地の良さ。

それでいて、オトナの余裕。

年上の女性に惹かれたことは初めての経験だったが、彼女に会えることが楽しみになっていった。

そんなこんなで、プライベートでも遊びに行くようになった。

基本的には平日夜。彼女の仕事終わり。

いつでも呼び出されたら喜んで出かけていった。

そんなある日のドライブに連れて行ってもらった帰り道。

コンビニに車を止めた彼女が、ふいに僕にこう言った。

「葵くん、私が忘れさせてあげる。って言ったら?」

ー忘れさせるって?

心拍数が一気に上がったことを何とか隠そうと、すっとぼけて笑って聞き返そうとした。

その瞬間。

彼女に唇を奪われた。

なんと大胆な、と思ったけど、それからは、ただ一心に彼女を求め続けることしかできなかった。

彼女は何も言わず一通り僕を受け入れた後、何も言わずに煌びやかなネオン街に向けて車を走らせた。

堂々と、それでいてそっと隠れるように。

2人でその中の1つに吸い込まれていった。

◇◇◇

彼女に彼がいることを聞いたのは、この関係を2年ほど続けた頃。

ふいに告げられた彼女からの「今日で会うの、最後ね?」という言葉の理由を尋ねた時だった。

「私、来週結婚するの。」

今度は上がった心拍数を抑えることは難しかったが、「そうなんだ、おめでとう」としか言うことができなかった。

聞けば、僕と出会った当初は彼とうまくいっていない時期だったそうだ。

セックスレスに悩み、喧嘩も増えていた頃にたまたま僕と出会い、刺激が欲しくなったのだと。

ダメージは大きくなかった。と言えばうそになるが、妙に納得してしまう自分もいた。

ありがとう。楽しかったよ。

そう言って車を降りてバイバイと手を振った後、冬の夜風にあたりながらなんとなく、元カノを思い出した。

"彼女も、同じような感じだったんだろうな。"

そんなことを考えながら、家まで1人歩いて帰った。

◇◇◇

以降、誰かの1番になりたいと思わなくなった。

僕自身がそうだったように、誰かに無償に甘えたいときは誰にだってある。

ちょっと背伸びをしてみたい時だってあるし、刺激が欲しい時だって来る。
誰かとうまくやっていくために、そういう相手が必要な時だってある。

正直、褒められた話ではないし、できれば確実に通らないほうがいい道だと思う。

それは、わかってる。わかってるけど。

そんな気分をふと、発散したくなったから言葉にしてしまった。

お目汚し、申し訳ない。

ここまで読んでくださった方、ありがとう。

こんな僕の心の中を、少しずつ言葉にしてみようと思ってます。



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