【読書メモ】忘れられた巨人/カズオ・イシグロ

ノーベル賞作家カズオ・イシグロの本を読みました。
2番めに新しい作品です。
以下ネタバレします。

【あらすじ】

舞台は5~7世紀のイギリス。世は亡きアーサー王によって平定され、ブリトン人とサクソン人、2つの民族が協力しあって生活している。世界はいつの間にか忘却の霧につつまれており、人々は過去の記憶の大半を失っている。
物語の主役であるアクセルとベアトリスはブリトン人の年老いた夫婦で、二人はささいなきっかけにより、村を出て愛すべき息子を探し求めて旅に出ることを決意する。
一夜の宿を求めて立ち寄ったサクソン人の村で、老夫婦はサクソン人の戦士ウィクソン、鬼に噛まれて忌避された子供エドウィンと出会う。4人は次の目的地である高名な僧侶のいる修道院までの道をともにすることになる。
修道院までの道すがら、アーサー王の甥、ガウェイン卿と出会う。戦士は卿に敬意を払い、忘却の霧の原因が雌龍クリエグの息であること、戦士の目的がその龍を斃すことにあることを打ち明ける。

【てきとうな感想】

わたしを離さないでは面白かったので読んだ。相変わらず改行が全然なくて読むのが大変だけどすごく引き込まれる文章で面白かった。山査子だけが友達でひたすらエドウィンを呼び続けるクリエグちゃんかわいい。かわいいか?
エドウィンが台車のまわりをグルグル回る場面とか鬼が死んでる沼の場面とか、老夫婦が川でおばあちゃんと小妖精に襲われるシーンが良くわからなかった。

【メモ】


「忘れられた巨人」barried "giant"は、民族の記憶のメタファー(はっきりとタイトル回収される)で、物語的にはクリエグの息によって覆い隠されたブリトン人によるサクソン人の虐殺を指している。

クリエグはガウェインによって守られていたが、寿命とサクソン人の戦士(霧による魔法が効かず、ブリトン人へ強い恨みを持つ)によって斃され、記憶の蘇ったサクソン人による、ブリトン人への復讐の始まりが予言される。

忘れられた巨人のモチーフは普遍的なものだ。世界中の虐殺、迫害、侵略があったところに巨人は存在する。日本にも、南京大虐殺や韓国との歴史問題があるが、大多数の中韓日の人々は日常的にそのことで争ったり議論をけしかけたりすることはほとんどない。
しかし、一部の韓国人は日本への巨大な憎悪を抱いているし、その人達は物語中の戦士のように、子孫にその憎悪を継承しようとするだろう。

現実世界にはクリエグがいない。その役割を果たすのはおそらく時間だろうか。物語中のクリエグはすでに寿命でヨボヨボだったが、クリエグに術をかけたマーリンはクリエグは寿命で死ねば霧によって奪われた記憶が永遠に失われるようにしていたのかもしれない。

また、巨人のモチーフとともに同じく息によって忘却されていた若きベアトリスの不貞と、それに起因する息子との別離という老夫婦(個人の記憶)が対比されている。
アクセルは終盤「忘却の霧があったからこそ、夫婦の絆はここまで強くなれた」という趣旨の発言がある。
身も蓋もない言い方をすれば、前に進むためには忘れることも重要だということか。しかし、最後に二人の前に立ちはだかる、「本当に愛するもの同士だけが一緒に渡ることのできる島」へ案内する船頭による口頭試験が問題提起となる。
二人は真実の愛で結ばれていると言えるのか。二人を「サクソン人とブリトン人」に置き換えると?……これはちょっと、渡れないかも……

また、最後のシーン、船頭は死の国への案内人で、ベアトリスは死に瀕した状態であるとも解釈できる。二人の息子はすでに死んでいて、その墓が島にあると言われていることや、何人も住んでいるはずなのに住人は自分しかいないと言うという島の設定も、そのことを示唆しているようにみえる。

最後に船頭の声かけにも耳を貸さずに歩いていったアクセルは、死に場所を求めてサクソン人とブリトン人の戦いに身を投じることにしたのかも、と想像するのも面白いかも

おわり



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