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なんと罪深いことをさせているのだろう。〜銀河英雄伝説 Die Neue These (23)感想

推 し が 死 ん だ \(^o^)/
 2クールの最後に死ぬよという情報がなければこの死に方がしんどすぎて反ローエングラム陣営に与するところだった

 キルヒアイスは謀反の疑いをかけられるとか、手ずからラインハルトが処罰するか、製造物責任法でオーベルシュタインが粛清するものだと思っていた。キルヒアイスは死に、ラインハルトは彼から自由になるのだと。まだ、キルヒアイスはラインハルトから自由になるのだと。
 だけどこの死に方は、より一層二人の関係を結びつけてしまうもので、ラインハルトは死者にとらわれることになるし、キルヒアイスはその言葉でラインハルトの人生を支配していくことになりそうだ。


キルヒアイス?

 今までの銀英伝DNTのなかで一番凄かった回を上げろと言われたら迷わずこの回をあげる。正確にはキルヒアイスが死んだシーンを。

 今までパンパカパーンと散々うるさく鳴っていたBGMが途絶えた不安になるくらいの無音、暗転しての「キルヒアイス……?」は凄かった。
 「キルヒアイス!」という大声ではなくて、怯えたような震えるような、かすれるような、闇に囚われていくような、確かめたくない事実をそっと確かめるような「キルヒアイス……?」が……もうね、あぁぁぁぁぁぁ

 キルヒアイスが目覚めて反応した後にようやくラインハルトは血が通ったように大騒ぎするのだが、その時の声とセリフが視聴者の私でさえ罪悪感を覚えるほどだった。声変わり直後みたいな幼い声がともかく耳にこびりついて離れない。宮野真守は天才です。

「もうすぐ医者が来る。こんな傷すぐに治る、治ったら、姉上のところに勝利の報告に行こう、な? そうしよう」
「医者が来るまで喋るな!」
「嫌だぁ! 俺はそんなこと伝えないッ! お前の口から伝えるんだ! お前自身で!! 俺は伝えたりしないぞ、いいか、一緒に、姉上のところに行くんだ!」
「嘘をつくなミッターマイヤー、卿は嘘をついている。キルヒアイスが、私を置いて先に死ぬわけないんだ!」

 このは本当に幼い子供だった。

 オーベルシュタインやミッターマイヤーやロイエンタール、ビッテンフェルトたち「大人」は、このまだ姉離れができない男の子の、頑是ない背中に知らず識らずのうちに「名誉欲」とか「焦土戦」とか「核攻撃」とか重いものをどんどん乗せて、自分たちはなんら責任を取らずにいると突きつけられたシーンだった。

 このシーン、「すみません……君の人生を視聴して楽しんじゃってすみません……ラインハルト君……」ってなる。年齢的にはまだ大学三年生なんだよなあ……

 親友を失いゆくラインハルトの声があまりに幼く、ローエングラム元帥府の人はラインハルトとキルヒアイスの才能を搾取してきたのだ、と残酷なことを示唆された気がした。天賦の才能ある少年を二人捕まえ、大人たちがその彼らの天才的な頭脳を存分に使って自分の欲のために戦って、なんらフォローもせず、そして、ついにはおとなしくて従順な方を使い潰して死に至らせたのだ。
 だからこそラインハルトはキルヒアイス以外のローエングラム元帥府の人間に冷徹の仮面をかぶって心開くことはないし、キルヒアイスもやはり、大人という仮面をかぶって他者と線を引いていたんだろうか。

 ラインハルトが一生懸命被ってきた冷徹の仮面が剥がれた時の脆さと幼さに、ローエングラム元帥府の人たちは呆然とするしかなかった。

メンタルケア(※荒療治)

 キルヒアイスの棺桶の前で完全にかわいそうな状態になっているラインハルト。不謹慎だけど茫然自失としている姿がすごい美人。色気がある。

 わりかし大人なミッターマイヤーがラインハルトの心の傷を理解し、オーベルシュタインがメンタルケア(※荒療治)に奔走しているのに安心した。

 だが、ロイエンタールは全くもってラインハルトの人格面や心の傷を見ない。まだ21歳の青年が、自分のせいで親友を目の前で失ったということの重みを、彼は全く理解しないまま、ラインハルトの才能だけを望んでいる。
 この間から気になってたけどロイエンタールはなんなんだろう。鬼部下すぎる。面白お兄さんというだけではなくなってきたな。……嫌な予感がする。

 オーベルシュタインの苦しそうな表情が胸にくる。彼はたぶん陣営の中ではかなりの大人で、だからラインハルトやキルヒアイスの幼さは理解していた(のでわざと引き離す方策をとったんだと思われる)だろうが、やはりラインハルトとキルヒアイスの関係の根深さをこの時に知ったのだ。おそらく。

 あのう、……オーベルシュタインのメンタルケアが荒療治すぎる。
①閣下に癒しのカウンセラーを呼べ!→姉ちゃん
②閣下がワクワクするような出来事を作れ!→宰相リヒテンラーデ逮捕
③ ご褒美で閣下のやる気をあげよう!→御璽奪取
 ボロ泣きでしょぼしょぼしているラインハルトのメンタルケアのために逮捕されたリヒテンラーデ、ご苦労様です

姉上の幸せも……

 大事な存在の喪失を受け入れられないラインハルト。
 切なすぎてゲボ吐きそうになる~……

 オーベルシュタインはわざわざアンネローゼに連絡してくれるし、キルヒアイスの意志を引き合いに出してラインハルトを奮い立たせる。……いい人だ。保父と言って差し支えない。ロイエンタールは見習ったほうがいい

 ラインハルトが姉と通信するためにキルヒアイスの遺体が安置されている部屋から出た時、オーベルシュタインは一人でキルヒアイスと対峙している(たぶん)。何を語ったのだろうか。セリフの端々や表情から、オーベルシュタインはキルヒアイスの死に関して自分の痛恨のミスだと実感している可能性が高い。
 ラインハルトと引き離すのに失敗して、戦闘でもないのに優秀な提督を一人失ったのだから。今までのドロンとした感じとは打って変わって、奇妙にラインハルトに優しいのは、キルヒアイスの死が響いている印象がある。「ヴァルハラ(あの世)でキルヒアイスが情けなく思う
ってラインハルトを焚きつけるオーベルシュタインは、鬼部下ロイエンタールを見た後だと、かなり優しいなあとしんみりしてしまった

 姉上の言葉、「慈母」ではなく、「姉」だった。

 一家でその人生を弄び、挙げ句の果てに死なせた青年に対する責任を感じた。あんな悲惨な境遇にいて、被害妄想だけに取り憑かれてもおかしくないし、ラインハルトに過度に依存してもおかしくないのだが、経済的にはともかく精神的にはものすごく自立している。皇帝が愛するのも宜なるかな。

生き方が違うのだから。

 姉は、「親友の人生を弄んだ末に、親友を殺した」という取り返しのつかない罪を犯したラインハルトにけっして同情することはない。そしてそれに自分が加担してしまっていたことも自責している。キルヒアイスに「弟と仲良くしてね」と言わなければ、キルヒアイスは過度に責任を感じてラインハルトに人生を委ねることはなかった。
 姉上は、ラインハルト、自分同様、キルヒアイスの人生に対しての責任を自覚している、と思い込んでいたのではないだろうか。弟はもう少し与えられたものに対して真摯に感謝できるという風に、思っていたのではないだろうか。だから、口を酸っぱくして何度もキルヒアイスを大事にしろといっていたのだ。
 でも、弟は与えられた物を真摯に感謝する発想に欠けていた。いや、真摯に感謝して恩に報いれば組織が崩壊するような場所に身を置いていたのだ。
 だから、それを面と向かって責めることはできない。
 だって政治のことはよくわからず、弟とキルヒアイスの幸福だけを願う彼女と、銀河を背負う弟は、「生き方が違うのだから」。自分の考えや価値観を銀河を羽ばたく弟に強要するわけにはいかないのだ。

「私たちはお互いの他に、もう何も持たなくなってしまった」
「私には過去があるだけ。でも、あなたには未来がある」

 姉上にはラインハルトとキルヒアイスしかいないし、それでいいと考えている。おじいちゃん帝に悪感情は抱いていなかったろうが、宮廷生活で搾取され尽くし、そしてキルヒアイスを失った身としては、もうこれ以上未来に希望を置くことはできなくなったのだ。ラインハルトはおそらく、自分の知らないところで、少しずつ慎ましやかに仲を深めていただろうキルヒアイスと姉の幸福な未来さえも殺してしまったのだ。
 でも、姉上の人格者たるところは、「お前も死ね」とは決して言わないことだ。ラインハルトはキルヒアイスの死を乗り越えて、もっと未来をみなければならないと叱咤激励しているところだ。
 「姉上はキルヒアイスを愛していたのか」と聞かれた姉上の表情が今までにないくらい「グッサリ」と刺さったような表情をしている。「私は本当にジークを愛していたのかしら、利用していたんじゃあないのかしら」って自問していませんか……?

 私は思うんだけど、クソデカパレス(小さな家)シュワルツェンの館をもらった時、弟に「幸せになってください」と言われて、アンネローゼは何を考えただろうか。彼女は一瞬考え込み、微笑んでいる。

 作画崩壊()だったらアレなのだが、その言葉の後、弟ではなくキルヒアイスの方を見ているし、キルヒアイスが妙に変な笑顔を浮かべている。

 アンネローゼはおじいちゃん帝から全て搾取され、手元に何も残っていない。古臭い帝国の価値観では愛人稼業をやっていたなんて穢れているとかいわれて結婚もできないだろうし、ずっとおじいちゃん帝の機嫌ばかりとり続けてきたわけで、それ以外の生き方を知らない。皇帝の子供を身ごもっていれば少し違っただろうが、子供はできなかった。
 経済的にも、「グリューネワルト伯爵領」からのアガリに頼るしかない。(フランス王の公妾として有名なポンパドゥール侯爵夫人は、実際アルナック・ポンパドゥールというコミューンを領有し、ポンパドゥール城という城を下賜されていた)。弟に家の手配を頼んでいるあたり、家を買うとか家を見つけるとかいう、実生活的な知識にも欠けているのだろう。親に大学まで行かせてもらえたヒルデガルドとは違い、アンネローゼは「ないないづくし」なのだ。

 そんな彼女は言葉選びから察するに、ヒルデガルドやヤン、ラインハルトやオーベルシュタインとは全く違った類の、哲学者や文学者的に聡明なタイプなのだと思う(でもヤンさんとは話が合いそう)。

 キルヒアイスも死んだのに、どうやって幸せになれと言うの、と姉は叫びそうになったかもしれない。弟と同居なんかしてなかったし、車でかなりの道を行くシュワルツェンの館を出たのは、やっぱりキルヒアイスとの思い出がシュワルツェンの館に詰まっていたからなのだろうか。ラインハルトの知らないところで、何度か二人は秘密裏に逢瀬を重ねていたのだろうか(でも絶対お茶入れてケーキ食って周辺を散歩したりお話ししたりするだけの清浄なお付き合いだよね……><)。
 前は「一人で暮らすからなるべく小さな館がいい」という気分だったのだろうけど、今回「出て行きたい、小さな家をくれ」と願うのは、人生絶望しました宣言に近い気がする……。姉上……。

 ないないづくしの姉上の中に、「いつか」「この戦争が終わったら」として少しずつ芽生えていた「未来」「幸せ」がキルヒアイスとの関係だったら、ラインハルトはようやく姉上のうちに芽生えていた未来と幸せを奪ってしまっていたんだなあ。自分の口で「幸せになってください」とは二度と言えなくなってしまった。

 そもそも、大事な人二人の関係に全く気付いていなかったことも、ラインハルトにはショックだったかもしれない。ラインハルトは姉と親友の気持ちでさえ、慮ったことがなかった、姉と親友ばかりに自分の気持ちを慮らせていたのだ、と気付いて。

 下世話な話をするけど、16話でチャラ男のフェルナーさんがアンネローゼを人質に取ろうとしていた時のことが思い浮かぶ。皇帝をなくしてからシックで地味な衣服と髪型で通してきたアンネローゼが可愛い髪型をし、ネックレスつけて可愛い服を着ておめかししている。たぶんあんまり着飾る必要がなく、いつもの地味な服装でもよかったのに、ばっちり決めている姉ちゃんが愛おしくて可愛くてたまらないです(あと瞳が光の具合でキルヒアイスと同じ色ですね♡それも示唆的)。……姉ちゃんはたぶんこの時は、未来を見ようかなと心のどこかで少しだけ思っていたんだろうなあ……

 キルヒアイスが超絶かっこいい護衛役だったことを考えると、けなげですね姉上。恋する女の子だわ…… 
 でもってキルヒアイスマジギレしてフェルナーさんに銃突きつけてたんですけど、そりゃあマジギレしますよね。また出てくるかわかんないけど、フェルナーさんが馬に蹴られて死なないことを祈ります!

え??????????

 ラインハルトが完全に心を閉ざした。立ち直った後のラインハルトは可愛げがなくなった。ロイエンタールに残酷な処断を命じるラインハルトに、キルヒアイスは何を考えるだろうか。ロイエンタールがドン引き、オーベルシュタインがちょっと辛そうな顔をしているのがしんどい。

 ロイエンタールはラインハルトに感情や人格を見ていないし、オーベルシュタインはラインハルトの成長を急かしたせいで空回りしたので、チート少年であるラインハルトがより自分たちに心を閉ざすようになったのは仕方がない。これから、絶対二人に心底から笑うことはないだろうな……ラインハルト。オーベルシュタインくらいには笑ってほしいものだけどね

 ラインハルトはじいちゃん皇帝が死んでこれからの覇業を行う「動機」がなくなった。キルヒアイスは言葉でもって、そんなラインハルトを縛り付ける。

宇宙を、手にお入れください

 キルヒアイスは今までずっとラインハルトに縛られてきた人生だった。自身が望んでいたかわからない幼年学校に入学し、自分の実力かどうかわからないまま昇進を重ね、好きな人がいても親友に理解してもらえなかった。ついには親友の凶行を諌めたら激怒され、それが原因で二十一という若さで死ぬことになった。こんな人生、いくらラインハルトを目に入れても痛くないレベルで好きでも弄ばれて搾取されてるのとあんまかわらない。
 だからこんどはラインハルトの人生をキルヒアイスの言葉が縛るのだ。

 だけどさ……
 だからってさ……

 最後に度肝を抜かれた。素で「え????」って言ってしまった。
 もういないキルヒアイスを愛撫するかのようなラインハルト。

 キルヒアイスを失い、姉をも失った。全人類の支配者になり得たところで、この心の飢えを満たすことができるのだろうか。いや、できはしまい。この心の飢えは満たされることはないのだ。

 心に飢えがある。それはそうだろう。

 戦い続け、勝ち続け、征服し続けることで、彼は心の飢えに対抗するしかないのだ。それには、敵が必要である。強力で有能な敵ほど、彼に心の飢えを忘れさせてくれるだろう。
そして自由惑星同盟には、極めて強力で、有能な敵がいるのだ。

 ラインハルトは親友を失ったショックで戦わないと精神的に不安定になる身体になってしまった。内政とかもだし、自由惑星同盟は、外交によるソフトランディングでラインハルトと話し合いをつけることはできなくなった。戦わないとラインハルトがキルヒアイスの棺桶の横でしょぼしょぼした顔になってしまうからである。

 ラインハルトはキルヒアイスを失ったいま、心の依存先を、会ったこともないヤン・ウェンリーに変えた。ヤンさんは何もしていないにもかかわらず、面倒臭いイケメンに執着される羽目になる。ヤンさん、思ってたけどツキがなくね? 神社でお祓いしてもらったら

まとめ

・しんどい。
・キルヒアイス(とアンネローゼ)、薄々なんとなくそうじゃないかと思ってたけど死後にでっかい爆弾をおとしていってお祭り状態。推しに彼女がいるのはたのしい。推し死んだけどな……
・姉上の言葉が全部写し取りたくなるほど美しい。

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