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「すごい!料理だ!!」「俺も料理なんてしたことないからな」~薔薇王の葬列(4)感想

 薔薇戦争の双方の領袖・ヘンリー6世とリチャード3世が一緒にクッキングをするというクッキングな展開に言葉が出なくなった。そこだけlove&peaceがあふれていた。 

当たり前だが料理初心者の二人。

 少し休んでいたのは、4話を見て、裸祭りすぎてなんといっていいものだか脳みそが飽和状態になったせいだ。みんな裸! すっぽんぽんイングランド!
ツッコミ役主人公のリチャードさえ脱いだ。

 ✿主に脱いだ人✿
 ヘンリー6世:雨がひどかったので人目も構わず裸を晒した猛者。半裸でスープ作ってた。生まれながらの国王故にこまかいことは気にしないらしい。若い頃の回想としてマーガレットにひん剥かれていた。
 エドワード4世:すけべだから。
 マーガレット・オブ・アンジュー:若い頃の回想で、夫をひん剥いていた。
 エリザベス・ウッドヴィル:すけべだから。
 リチャード3世:雨がひどかったので脱いだ。良識的にも誰もいないところで着替えた。やっぱりこの物語随一の常識人。

 ……ではなく。

 アニメでは「ヘンリー6世放浪の旅」「エリザベス・ウッドヴィルとエドワード4世の結婚」「ネヴィル家のエドワード4世弟たちの取り込み」とそれぞれ別の年代に起きた複数の事件が同時に起きているため、ちょっとここら辺はメモしづらかったのだ。

ヘンリー6世放浪の旅

 ヘンリー6世が放浪の旅に出た。
 これは1461年に玉座を追われて1465年頃、相次ぐヨーク派との戦いと敗戦により、とうとうどこからの支援も得られなくなり、妻の実家であるフランスからも名ばかりの支援が届いただけ、逃げ込んだスコットランド宮廷では迷惑な客人扱いされた末に、忠臣たちをも失い、イングランド北部の支持者の許を彷徨うしかできなくなったことが元ネタだと思う。

いや~、リンリスゴーからここのストーニー・ストラッドフォードまで来るのに骨が折れたよ

 実際には、エリザベス・ウッドヴィルとエドワード4世が密会してる頃のヘンリー6世はまだそんなに放浪とか流浪とかはしてなかったと思う。

 1461年、タウトンの戦いで負けたマーガレットはウェールズに逃げ、その後、スコットランドのエジンバラ近くのリンリスゴーへと王子のエドワード・オブ・ウエストミンスターとともに逃げた。
 その後を援軍を伴ってヘンリー6世が彼女たちを追ってイングランドとスコットランドの境に当たるソルウェー湾からカークーブリというところに上陸した。そのままヘンリー6世はカークーブリの修道院に居続けたらしい(あとで合流したのか、詳しいことは分からない)。

 カークーブリとリンリスゴーは遠いので、アニメでマーガレットの目の前から姿を消したヘンリー6世は、放浪の旅をしたかったというより、リンリスゴーへ妻子の顔を見にきたあと、妻がうるさいのでカークーブリの修道院に戻ることにしたのかもしれない。

 となると、兄エドワードに付きあっておそらくイングランド南西部のストーニー・ストラッドフォード近郊(ここでエドワードはエリザベス・ウッドヴィルと秘密結婚した)にいるっぽいリチャードと会うことは難しいはずなんだが、チャットGPTならいい答えを得られるかもしれない!!

Q:リンリスゴーの妻の家に寄ってから、ストーニー・ストラッドフォードにいるリチャードという人物を訪ね、カークーブリに戻ろうと思います。どうすればいいですか?

リンリスゴーの妻の家に寄ってからストーニー・ストラッドフォードに行き、最後にカークーブリに戻る旅程を考えると、以下のルートが効率的です。
1. リンリスゴーからストーニー・ストラッドフォードへ移動:
• リンリスゴーはスコットランド中部にあり、ストーニー・ストラッドフォード(Stony Stratford)はイングランドのミルトン・キーンズ近くに位置しています。車での移動を想定すると、まずリンリスゴーからストーニー・ストラッドフォードへ向かいます。距離は約350マイル(約560キロメートル)で、車で約6〜7時間かかるでしょう。
途中で休憩を取りながら進むと良いでしょう。
2. ストーニー・ストラッドフォードでリチャードを訪ねる:
• ストーニー・ストラッドフォードでリチャードと会います。この町は歴史的な街道沿いの町で、特に宿場町として栄えた場所です。訪問後、カークーブリへ戻る準備をします。
3. ストーニー・ストラッドフォードからカークーブリへ戻る:
• ストーニー・ストラッドフォードからカークーブリへ戻るには、北へ向かうルートを選びます。再び約6〜7時間の運転が必要です。

このルートは全体で約12〜14時間の運転時間が必要で、かなりの長距離となるため、1日で全てをこなすのは大変です。もし可能であれば、宿泊や休憩を計画して、疲れを溜めないようにすることをお勧めします。

チャットGPT

 ヘンリー、車の運転できる可能性
 無能だのなんだのと周りから蔑まされているヘンリー6世だが、泣きながら手綱を離して乗馬が出来る凄腕テクニックの持ち主だし、車の運転ができる可能性もあるし、なんだかんだスープ作ってるし、正直560㎞も旅してきたなんて猛者の可能性が高い。なるほど脱いだらムキムキだったわけである。

 みんなあの顔と繊細なグリリバボイスに騙されているんだな。
 いちばん騙されているのは悲しいことにマーガレットとリチャードだろう。

 居場所を教えてほしい、とリチャードにいうヘンリー。これはたぶんリチャードを探してすごく迷ったため、居場所くらい教えてほしい……ということなんじゃなかろうか。
 この仮定で移動距離が長かった人は父の後を追ってリチャードが溺れているところを見たエドワード・オブ・ウエストミンスターである。当時たぶん10歳行くか行かないかくらいだった彼は、パパのあとを追って560キロ以上移動したということになる。運転免許はまだもらえないので、側近がエドワード乗せて車をかっ飛ばしたとおもわれる。

謎のかっこいいしぐさをするエドワード・オブ・ウエストミンスター

祝!エドワード4世、結婚

本当に突然結婚を発表したらしい

 この回はすっぽんぽん大祭りだった。この人たちのせいで。よくもまあ頑張ってアニメにしたものである。
 リチャードはお年頃なので二人のエロティックな関係を無茶苦茶意識している。それが彼(彼女)の傷ついた心をさらに傷つけていくので可哀想だな、と純粋に思った。エドワード兄さん、ジョージを連れてってあげて。というか誰も弟妹を連れてくな。
 史実年齢で言うとリチャードはこのころ(1461~1464年頃)まだ8歳から12歳くらい。デートに子供の弟/妹を連れて行く18~22歳の兄(エドワード4世はリチャードと10歳差なのである)。小学生を未亡人とのデートに伴う大学生の兄。しっかりしろエドワード

 さて、エリザベス・ウッドヴィルは前のあたりの記事で述べたが、ヘンリー6世の叔父、ベッドフォード公の妻が再婚してできた娘だ。だから、由緒正しくないというわけでもなかったらしい。そのせいだろうか、エドワード4世はたくさんの愛人がいたにもかかわらず、エリザベスを王妃としたのである。もうすでに既成事実を作ってからの結婚発表であったため、皆唖然とするしかなかった。
 作中でもバリバリ書かれていたが、フランスでエドワード4世の縁談相手を見繕っていたウォリック伯は、ここにおいて梯子をはずされた形となる。

 さて。フランスは複雑だった。いつも複雑だこの国は。
 国王ルイ11世に対して、反抗する貴族たちがいたそうなのである。その中にはマーガレット・オブ・アンジューの実家、アンジュー家も含まれていて、ウォリック伯としてはエドワード4世がマーガレット=ヘンリー6世に対抗するにはルイ11世の側に付かなければならないと考えていたらしい。
 だが、エドワード4世はフランス国内の内部争いを飛び越して、フランスの敵であるブルゴーニュ公国との関係を深めることにした。妹のマーガレット・オブ・ヨークをブルゴーニュ公シャルルと婚約させる。しかもブルゴーニュと通商協定まで結んでしまう。
 となると? ブルゴーニュからすると? ウォリック伯は危険人物なので?

 ウォリック伯「うわああああああああ!!!!くっそおおおおお!!!(政界から没収される音)」

 となるわけである。さらに、前も述べたがエドワード4世は大貴族にとらわれず、ジェントリ層から人材を募る系の国王だった。ジェントリ層から人材を募られると? その分? 大貴族の棒禄が減るので?

 ウォリック伯「うわああああああああ!!!!くっそおおおおお!!!(財布が没収される音)」

 ウォリック伯としては一瞬にしてにっちもさっちもいかなくなったのである。
 でも、ここで負けるようなやわな人物ではないので、次回はウォリック伯がいかに悪あがきしたかという話を……アニメと合わせて書いていきたい。

 ちなみにエドワード4世の妹、ジョージとリチャードの姉であるマーガレット・オブ・ヨークは強者の女であり、夫亡き後、先妻の娘のマリーを育てながらブルゴーニュを守り通し、マリーを無事ハプスブルク家に嫁にやり、ヨーク家がチューダー朝に踏みつぶされていく中「このやろおおおおおおおお!!!!」と言わんばかりにチューダー朝に反抗し、ハプスブルク家に嫁いだマリーの生んだ義理の孫のフィリップ美公やその子供である神聖ローマ皇帝カルロス1世なんかをサポートし続けた。
 なんとなく、強いエドワード4世や切れ者のリチャード3世の姉妹らしいなとうふふとなる。

参考文献

トレヴァー・ロイル著、陶山昇平訳『薔薇戦争新史』2014年、彩流社
川北稔編『イギリス史(上)』2019年、山川出版社
陶山昇平著『薔薇戦争 イングランド絶対王政を生んだ骨肉の内乱』2019年、イースト・プレス

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