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父上即落ち二コマ〜薔薇王の葬列(1)感想②

リチャード「力をもって認めさせるのです!」
父上「しかし……」
(数秒後)
父上「諸君!私は再びランカスターと剣を交える」

 父上即落ち二コマに茶を噴いた
 母上、ご苦労様です

※中世イングランド史ちょっと好きな人が薔薇王の葬列というアニメを視聴し薔薇戦争のおさらいをしています。

うちの夫のノリが軽すぎる……

命を捧げるにはまだ若すぎる。

 物語はいきなりおそらく4年くらいカッ飛ばしてラドフォード橋の戦いへ突入。
 実は父上即落ち2コマではなく、

リチャード「力をもって認めさせるのです!」
父上「しかし……」
(数秒後)×
(数年後)◯

父上「諸君!私は再びランカスターと剣を交える」

 あの「しかし……」のあと4年経過していたのである。限りなく即落ち2コマに見えるが即落ち2コマではないのだ お許しください父上、父上をノリが軽すぎると思っていました

 実はラドフォード橋の戦いの前、ヘンリー6世は第一次セント・オールバンズの戦いの犠牲者・関係者への補償を試み、ヨーク派との和解を模索していた。だが当然ながら現実的な補償となるとあんまりうまくいかなかった。
仕方がないから、ヨーク公と王妃マーガレットなど、ヨーク派の人間と国王派の人間同士に手に手を取らせてウェストミンスター宮殿から→セント・ポール寺院まで行進させた。これを愛の日の和解劇という。
 ヘンリー6世はどう考えてもゆるいこの茶番に和解を賭けていたが、当然うまくいかなかった。拗ねたのか疲れたのか、神におすがりするしか国内の治安維持は図れないと考えたか、ヘンリー6世は国事を妻に任せて、巡礼の旅へと向かう。

 このとき、①で述べた経緯からお財布が素寒貧なヘンリー6世としては腹立たしいことに、羊毛で暴利を貪れるカレーをヨーク派のウォリック伯が掌握していた。また、ヨーク公は護国卿職は解任されたが、護国卿在任中にアイルランド総督職を得ており、こちらは解任されなかった。ヨーク公がアイルランドを自分の庭にしてしまう可能性があったし実際そうしていたが、ヘンリー6世としてはヨーク公を無職公爵にしてはさらに面倒なことを起こすと判断したらしい。
 ウォリック伯はこのとき、カレーを拠点にハンザ同盟(バルト海・北海に面した、北ヨーロッパの商業都市たちの都市連盟)の商船やカスティーリャ(今のスペイン)の商船など、イングランドの商売敵の商船に海賊行為を働く。①でもメモした通り貿易額が減少していたため、イングランド、特にロンドンの商人はこのウォリック伯の行為に喝采を浴びせた。
 被害者のハンザ同盟はヘンリー6世に「お前んとこのウォリック伯爵が野蛮!」と猛烈に抗議し、王妃マーガレットはウォリック伯を召還する。
 ロンドンに戻ってきたウォリック伯はロンドン市民には盛大に歓迎されたが、王妃からは絶対零度みたいな視線で見られた。その末、厨房係が焼き鳥よろしく焼き串でウォリック伯を刺して焼きウォリックにしようとするなど、散々な目にあってしまった。
 そんなことが続いて、武力衝突が避けがたくなり、ブロア・ヒースの戦いとラドフォード橋の戦いが勃発する。

 ブロア・ヒースの戦いでは国王派は惨敗するが、その巻き返しを図ったラドフォード橋の戦いでは国王派側が国王ヘンリー6世の出馬を願い、国王がそれに応じたため、士気を大幅に削がれたヨーク公側は負ける。それまでのヨーク公は「ヘンリー6世の側にいる君側の奸を取り除くだけで、ヘンリー6世本人に謀反するわけではない」と仲間を募っていた。なので、ヘンリー6世自ら「反逆者」を討伐するべく軍を率いていると知った途端、戦意を喪失する者が多かった。
 また、「国王」であるヘンリー6世が動員できる兵の数とただの公爵に過ぎないヨーク公が動員できる兵の数はやはり段違いだった。
 ランカスター派がヘンリー・テューダーを8回裏あたりで擁して9回で一発逆転ホームランを打った感のある薔薇戦争ではめずらしく、ランカスター側が勝利した。

こんな感じで王様がいて「俺たち謀反人じゃん!くっそー、騙しやがったなヨーク公め!!!!」と国王側に寝返った貴族も多かった。

 命を捧げるにはまだ若すぎる、と父に諭されているリチャードは実際にも、このとき7歳。父が政敵と戦っていた頃、あまりに幼すぎて、おそらく母と一緒にいたと思われる。
 実はヨーク公妃セシリー・ネヴィルは、夫のヨーク公とヘンリー6世の対立が深まると、事態を収拾するためにヘンリー6世王妃のマーガレット・オブ・アンジューと会談している。夫同士が戦争だといきり立っているとき、妻同士が意見を交換して状況のソフトランディングを模索する、これは日本の中世にも行われていたことだ。
 その上で父上即落ち二コマをやられたらこの顔にもなるよね! 

本作では、「娘」に嫉妬するかのような母。

リチャード、ママはイライラしていたんだ 君が嫌いなわけじゃないと信じたい(震え

 本作でもなんとなく描写されているが、セシリーはラドフォード橋の戦いの際、ヨーク公の居城であるラドロー城にてヘンリー6世に降伏を強いられていたようだ。そのあと、身柄を姉であるバッキンガム公妃(作中の杉田バッキンガム公爵の祖母)の元へ移される。おそらく幼いジョージやリチャードも帯同しただろう。実は杉田バッキンガム公爵(5歳くらい)はこの時点でリチャードに会い、良き遊び相手になっていたかもしれない(本作でどう描かれるかはわからない)。
 未来のバッキンガム公爵は杉田智和だが、この時のバッキンガム公爵は超絶ランカスター派で、ヘンリー6世に超絶篤い忠誠を誓っていた(物語で描かれるかワクワクしているが、祖父・父とランカスター派であったではないかと説得されたことがきっかけで、杉田バッキンガム公爵はリチャード3世を裏切る)。

 ちなみにセシリーはヨーク公の子をリチャードを含めて十三人も生んでいるすごいオカアチャンである。リチャードの下にもアーシュラという妹がいて、この子がヨーク公の末子である。ラドロー城は一時期おそらく、保育園みたいな状態だったに違いない。ホクホクする話だが、ヨーク公はセシリーのために年収の一割ほどある高いドレスを注文していたりする。

母に捨てられる夢をよく見る。

あぁ〜〜〜っ!!!けしからん!けしからんぞぉぉぉッ!!!!!

リチャード、このフワッとしたイケメンは君の大好きな父上の護国卿職を解任したり、父上に「家臣を全員解雇するかさもなくば反逆罪で逮捕されろ」って命令を下した男だよ(⌒▽⌒)

 銀英伝DNTが4話かけてラインハルトとヤン・ウェンリーをゆっくり摂取させてきたというのに、薔薇王の葬列とかいうアニメは1話でヨーク派とランカスター派をぶち込んでくる予定のようだ。視聴者に容赦ない

 ヘンリー6世がお姫様。

作画がいい。

 ヘンリー6世が国王よりかは女王。
 画像だけ見ると私にはグリリバではなく冬馬由美か井上喜久子の声が聞こえてくる

絶妙にどっか作画崩壊してる気がするのだがどこが作画崩壊してるかわからない

 ぱっと見の初見ではこの人がセシリー・ネヴィルで、このシーンはセシリーが息子のリチャードを伴いランカスター派から逃亡しているシーンだと勘違いしていたが、きちんと視聴したら、明らかにおっぱいがないしヴォイスがグリリバだったのでお母さんじゃなかった不審者だった。でも個人的にはわざとそう描いていると思う。
 なにはともあれ防犯ブザーをリチャードにつけてやってください。ていうか人間防犯ブザーのケイツビーさんはどこに行ったんですか。7歳児(14歳くらいに見える)を夜に外に出すな

 二十代くらいに見える不審者(※国王)ヘンリー6世はラドフォードの戦いの時、38歳の誕生日を目前に控えた37歳。リチャード(14歳くらいに見えるが実際の年齢は7歳)とは31歳差で、ヨーク公の10歳年下だった。マーガレットとの一人息子であるエドワード・オブ・ウェストミンスターはリチャードの一つ年下。リチャードは酷な母の代わりに、母親めいた慈愛と天然さと温かさを持つ男性と出会ってしまった。

 ①では「父の代わりなのでは」と考えたが、何度も見直してみるに、彼は可愛らしすぎるところも含め、リチャードの母の代わりなのではあるまいか。リチャードはおそらく母に、
あなたに出会えたことが嬉しい
と肯定して欲しかったし、
王様よりも羊飼いの方が幸せよ
とどこか暴走しがちな父と自分をたしなめて欲しかったのかもしれないし、思いっきり抱きしめて欲しかったのかもしれない。

リチャード(この人からお母さんの香りがする!!)

 だとすると、この話は「ファザコンという皮を被りながらも、母を求めることをやめられない話」となる。

 ヘンリー6世は「母に捨てられる夢をよく見る」というが、実際にもヘンリー6世の母は苦労の多い人生を送っていた。
 ヘンリー6世の父・ヘンリー5世は控えめに言ってラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリーを足して二で割らない超人だった(銀英伝に引きずられすぎだが実際そうなのだからしかたない)。政治的才能は桁違いに優れ、軍事では無理無理なところから一発逆転をやれる常勝の魔術師であり、彼のせいでフランスはイングランドになるところであった
 だが、ヘンリー5世はヘンリー6世が生まれてすぐに赤痢で崩御する。
 ヘンリー6世の母、王妃キャサリンはシングルマザーとして一人残された息子を育てていたが、密かに秘書官のオウエン・テューダーと再婚し、ヘンリー6世の弟妹を何人か儲ける。当時のイングランド情勢を鑑みるに、キャサリンは有力な貴族と再婚しなければならない可能性もあったが、その場合長男であるヘンリー6世をその貴族の傀儡にされかねない。それを避けた形になる。キャサリンは、オウエン・テューダーとの関係を隠し通しながら、幼く大人たちの欲望に左右されがちな長男の、完全な懐剣となりうる弟妹たちを生み続ける。
 キャサリンはオウエン・テューダーとの関係が露見し、ヘンリー5世の弟たちの怒りを買って若くして死去する。
 本作ではこの話をヘンリーの心の傷と解釈していると考えられる。確かにヘンリーからすると「訳がわからん」という感じだったかもしれない。弟妹には非常に良き兄であったようだが。
 彼はかなり性に厳しく、全裸の男女が入浴しているところをみて狼狽し、クリスマスのパレードで一人おっぱい丸出しの女性がいたことに激怒してパレードを中止した。たぶん王妃マーガレット以外の女性と関係を持ったことはないらしい。
 そんな彼は母の行為をどう見ていただろうか。

 自分が捕らえた少年が「母に愛してもらえない」と嘆くのに自分の過去を重ねて一緒に泣いてくれる慈悲深い性格の王様なのか、少年が自分の現実逃避場所を用意してくれるのを喜んでいるのか、それともすでに誰に話しているかもわからず、自分が何をしているのかもわからないほど狂気の淵に沈んでいるのかよくわからないが、なにはともあれヘンリー6世は不審者だった

 ちなみにリチャードに「君のために祈ろう」とかいったり、「けれど最後は神様が必ず光の手を差し伸べてくれるんだ」とかいったりしているが、実際のヘンリー6世も非常に敬虔なキリスト教徒で、国王というより聖職者然とした人物だった。普段は穏和だが、キリスト教の儀式のこととなると非常に煩かったらしい。教育に力を注いでおり、あのイートン校とケンブリッジ大学のキングス・カレッジを創設している。イートン校の「王の学徒(キングス・スカラー)」はヘンリー6世が生徒に奨学金を出していたことにちなんでいる。その数年後、ケンブリッジ大学にカレッジをもう一個作ろうとしていたが作れなかった夫から土地を譲り受けて、王妃マーガレットはクイーンズ・カレッジを創設している。
 数学者のアラン・チューリングとか経済学者のケインズとか、文学者のE・M・フォスターとかはキングス・カレッジ出だから、ヘンリー6世は確実にイギリス、いや世界の発展に寄与している。

父上「ごめーん勝っちゃった♡」

 展開早すぎんだろ!!!!!!
 この人さっきまで負けてました!!!!!!!!!!!!!
 父上の敗戦を味わわせてくれよおおおお!

父上、ちょっとまって
細かいのが貴族ではなくちゃんと民衆に歓迎されているというところ。ヨーク公リチャードは民衆の扇動が非常に上手民衆に人気だったという

 物語は一気にその一年後のノーサンプトンの戦いまでブッ飛ぶ。リチャード3世の死まで25話で一気に描くとなるとこのくらいのアレグロ通り越してプレストみたいなテンポ感が必要なんだろう

 実はラドフォード橋の戦いの後、ヘンリー6世はロンドンではなく、当時宮廷を構えていたコヴェントリーというところに凱旋する。そこには王妃マーガレットが待ち構えていて、国王はそこで王妃の支持者で固めた議会を開く。ここにおいてほぼ王妃の意向で固められた議会はヨーク公やウォリック伯の所領・爵位(称号)などをすべて没収し、それを子孫へ相続することも禁じる法案を出す。ヘンリー6世はウキウキで承認した。
 夫婦が茶番やってるぞ
 さらに、羊毛で暴利を貪れるカレーをウォリック伯から取り上げて側近にカレーを任せ、ヨーク公が掌握していたアイルランド総督も自身の側近にチェンジする。よっぽどヘンリー6世にとって、カレーとアイルランドは取り戻したかったかったらしい。
 あんまりにヨーク公とウォリック伯にひどかったため、これを「悪魔の議会」という。
 だが、ヘンリー6世にとって思わぬ事態が起きる。アイルランド議会はヨーク公ではない新総督の就任を拒絶する。カレーはウォリック伯が断固として死守していたため、ヘンリー6世の側近はカレーに入ることができなかった。ヘンリー6世ってかんじんなところでつめがあまい
 ヨーク公とウォリック伯はお互い連絡を取り合いつつ、ロンドンの市民を抱き込み、1460年7月、ロンドンに無血入城を果たす。……果たしたのがこのシーンだと思う。
 エドワード兄さんはヨーク家の太陽であるため未来が見え、弟(妹)の未来の彼氏の話なんかこれっぽっちもしたくなくてスルーしたんだと思うが、兄さんたちはロンドンに無血入城を果たしたあと、ノーサンプトンで国王軍と戦闘していた。
 この時、国王軍の総司令官を務めていたのが、バッキンガム公爵であるハンフリー・スタッフォードである。

 バッキンガム公爵はウォリック伯に「テメーが陛下の御前にまかり出るときは罪人として死ぬときだけだからな!!!!」と盛大に挑発する。ヘンリー6世の篤い忠臣であった。
 ところが最初は国王優勢に進んだものの、所領の紛争について不満を抱える一部の諸侯の離反を招き、形勢が崩れていく。バッキンガム公爵は国王ヘンリー6世を護りながら死んでいき、ヨーク公はヘンリー6世を捕縛しロンドンへ連行する。王妃は命からがらヘンリー6世の異父弟の居城へ向かい、そこで国王の支持勢力を集める。

 さて、バッキンガム公爵に話を戻すと、ハンフリー・スタッフォードが戦死し、ハンフリーの長男もセント・オールバンズの戦いで国王を守って戦死していたため、ハンフリーのわずか6歳の孫がバッキンガム公爵を継承することになる。
 その少年こそ、ヘンリー・スタッフォード、この作品の主人公の相手役(?)である。
 リチャードより二歳年下で、エドワード・オブ・ウェストミンスターの一つ年下。そして彼はがっつり王家の血を引いていた。家系図を引きで見るとリチャードと又従兄弟の関係、ヘンリー6世とも又従兄弟の関係にあたる。
 ランカスター王家の分家にして忠臣であるボーフォート一族の娘を母に持つ彼は、がっつりランカスター派に染まって、父と祖父の仇を討つためにヘンリー6世に忠誠を尽くしてもよかった。実際、同じような目にあったサマセット公やクリフォード卿はランカスターに忠誠を尽くしている。彼だけどうしてあんなことになってしまったのか。
 その答えはエドワード兄さんが握っている。

安心しろリチャード、お前に手を出した挙句謀反するような男は俺が再教育してやるから

 たぶんあとで続きを見る羽目になったら書いていくが、エドワード4世は大貴族であるバッキンガム公爵を自らの傀儡とするべく、6歳の子供を手元に置いて養育するのである。天才の天才たる所以はここ
エドワード4世に養育された少年は、祖父と父親がヨーク公にぶっ殺されたことをすっかり忘れさせられ(たのか、忘れたふりをしたのか)、ヨーク派にいつのまにか取り込まれてしまったのだ。

 ヨーク公が調子に乗っている。

俺が王だぜ!!

 実際にもヨーク公はヘンリー6世の玉座に手をかけて皆を驚かせ、ヘンリー6世の側近であるカンタベリー大司教から「国王になりたいならヘンリー6世陛下にそう訴えろ」と言われた時に「この王国に私の方から出向いていかねばならない相手がいるというのか? そちら(ヘンリー)が馳せ参じろ」と放言したという。でも結局王様のところへ行った
 ヘンリー6世は、狼狽することなく、ヨーク公にも周りの貴族にも、「私は揺籠にいた時から王だったし、私の父と私の祖父も国王だ。あなた方の父親も私の父に忠誠を誓ったはずだ。私が国王でいるのにどうして疑問の余地がある?」と落ち着いて返したらしい。
 ヨーク公とヘンリー6世はいつもやりとりがキレッキレなので楽しい。

 さて、結構難易度の高い問題がヨーク公に降りかかる。以前にも玉座簒奪はあった。ランカスター家のヘンリー4世は本家であるプランタジネット朝のリチャード2世から玉座を簒奪した。そのときは皆が歓呼の声を上げたが、今回はまったく歓呼の声などなく、気まずい沈黙が場を支配し、ヨーク公は「面倒な人」認定されてしまったのである。
 ヨーク公は「ヘンリー6世その人には手を出さない。ただ君側の奸を取り除くのだ」というスタンスの元で諸侯を集めてきた。今回、その誓約を破ったことになる。ヘンリー4世は十分に貴族や民衆の支持を取り付けてから丁寧に玉座を簒奪していったが、ヨーク公はまだ貴族の支持を十分に得られていなかった。
 ヨーク公の支持者さえもが、「俺たちのヨーク公はヘンリー6世の治世を正すために行動しているのであって、玉座が欲しいとかいう欲望の人じゃないんだ」と思っていたようだ。
 本作でウォリック伯は「王位を譲れ」とヘンリー6世に迫っているが、実際にはウォリック伯は周囲の貴族から自分たちが支持を得ていないことを承知していたのだろう、ヨーク公に強い調子で「王位ダメ!絶対!!」と諫言したという。

面倒な人が失敗ばかりの国王に玉座請求してるぞ——!

 そんな気分で議会やあっちゃこっちゃで「ヨーク公が玉座請求してるんですがどうします?」とたらい回しにされた挙句、
「問題は極めて高度」「高度すぎる問題」
 と皆が口を揃えた。さもありなん。しかも「国王が民衆に悪いことしてるから玉座は俺に渡った方がいい!」と主張したヘンリー4世とは違って、ヨーク公はランカスター家の「正統性」を否定して玉座に手をかけていたため(ヨーク公でさえヘンリー6世の治世を悪そのものだと断じ得なかったともいう)、このヨーク公の訴えを認めるとランカスター朝下で定められたありとあらゆる法律が無効になるのだ。無法状態になってしまう。

 追い詰められた貴族院はある知恵を出す。「ヘンリー6世の死後に限ってならヨーク公は玉座を譲り受けることができる」という法律を立てたのだ。ヘンリー6世は39歳、ヨーク公は49歳と、ヘンリー6世はヨーク公より若く、何もなければヨーク公より長生きしそうだった。たぶん当時の平均寿命的にヨーク公は結構大台に乗っている。孫までいるし。面倒臭いヨーク公にはさっさと寿命で死んでもらって、そのあとヘンリー6世は実子であるエドワード・オブ・ウェストミンスターに玉座を譲れるよう法律を改正すれば良いのだ。

 ことはそれで治ったはずだが、


そうは王妃マーガレットが許さなかったのである。

まとめ

・ヨーク派とランカスター派の領袖が美人でノリがいい
・おちつけそいつはセシリー・ネヴィルじゃない、ヘンリー6世だ
・エドワード4世「安心しろリチャード、お前に手を出した挙句謀反するような男は俺が再教育してやるから」

参考文献

トレヴァー・ロイル著、陶山昇平訳『薔薇戦争新史』2014年、彩流社
青山吉信編『世界歴史大系 イギリス史1』1991年、山川出版社
陶山昇平著『薔薇戦争 イングランド絶対王政を生んだ骨肉の内乱』2019年、イースト・プレス
服部良久他編『大学で学ぶ西洋史(古代・中世)』2006年、ミネルヴァ書房

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