対話劇 新橋の喫煙所にて
寒い冬。新橋の路地裏、喫煙所にて
コータ「あっ(しもうた・・・)」
たえ「こんな寒い日だから、おいしいですよねえ」
煙草を一気に吐きながら、ゴソゴソとポケットを探るたえ
コータ「あっ、すんません」
たえがコータの煙草に火をつける
たえ「大寒らしいですよ、今日」
コータ「じゃあ、絶好の煙草日和だ」
たえ「たしかに。そうかも」
たえが少しニヤつく
コータ「〇〇日和って、やたらと前向きな意味合いにされがちじゃないですか。運動会日和とか、遠足日和とか。あれ、なんなんでしょう」
たえ「日和自体に、空模様って意味もあるのにねえ。なんででしょう」
コータ「なんか、前向きへの同調圧力」
頭上の屋根を見上げるたえ
たえ「雨宿り日和とか、作ってもいいんじゃないですか。自分で作っちゃえば」
コータはたえを見てくしゃっと笑う
コータ「反抗だ。革命ですね」
たえ「そう、革命です」
たえが真顔で、雨傘を曇天に突き立てて見せる
たえ「そうだ。”ひよってる”ってあるじゃないですか」
コータ「はい。あの、ヤンキーの」
たえ「あれ、”日和見(ひよりみ)”が元ネタで」
コータ「へえ・・・え?」
コータの煙草の灰が落ちる
たえ「日和見自体、状況をよく見て判断すること、って使われてたんですよ、昔は。それが時を経て形を変えられて、自分が都合いい方につく=日和見する、ってとられるようになった、って話」
コータ「で、日和見する、日和る、ひよる・・・」
たえ「そう。だから、勝手に作っちゃえばいいんですよ。勝手に」
雨傘の先を地面にコツコツとつつくたえ
コータ「・・・はあ」
たえ「大丈夫。あなたと同じ違和感を持つ人が、きっと追随しますから」
コータ「・・・追随」
たえ「はい。後ろ向きな日和、いいじゃないですか。私は肯定します」
コータ「・・・ジャンヌダルクだ」
たえはキョトンとしたまま、コータを見つめる
コータは曇天をまっすぐ見上げる