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思い出の街、誰かの宝物

不動産屋さんに勤めていたころ、いろんな街で少なからぬ時間を過ごしてきた。暮らしている人みたいに街を歩いて、お店に入って、移り変わりを楽しんで。だから、電車に乗るたび、どの街にも思い出があるなぁと頭をよぎる。

夕方はいつもお夕飯のにおいがしてあったかい気持ちになる、茨木の住宅街。カラフルな落ち葉がザクザク踏める神社。提案がうまくいってほうっと息をつきながら乗った近鉄電車からみえた、真っ赤に燃える夕陽。商談がまとまったプチ打ち上げで先輩がピカチュウドーナツを買ってくれた、宝塚のミスド。

提案内容が至らなくて担当通り越して上司に連絡が行き、同僚と泣きながら遅いランチをした谷六の桜が綺麗なカフェ。家具を運んでハラペコで入った、玉造のラーメン屋さん。みんなのお土産にしようと通る度に覗いた、不定休の鶴橋のミニケーキ屋さん。

自分の父くらいの年の同僚が「今日はいい日だなぁ」としきりに言っていたのが印象的だった、よく晴れた日の靭公園。新しいメニューを開発しては、いくらで出したらいい?と聞いてくれたおしゃべり女将がいる、東三国のダーツバーを間借りした定食屋さん。水を張ると風に緑の香りが混じる、江坂の田んぼ。

甲子園口のスタバの笑顔がめちゃくちゃかわいいお姉さんには、落ち込むとよく助けてもらった。「会社帰って仕事しなきゃだけど、ちょっとだけ寄っちゃう?」って先輩が誘ってくれた(そしてビールを我慢した)、福島のおでん屋さんのだいこんは疲れた身体に染み入ったなぁ。

毎週毎週提案の反省会と作戦会議をした、喜怒哀楽全部の感情が残るなんばの喫茶店。コーヒーおかわりしてまで後輩と語り合った、千里中央のカフェ。ジリジリした日差しの中、冷たい差し入れを持って速足で歩いた朝潮橋。

今歩いているこの街も、きっと誰かの思い出の場所だ。誰かが泣き、誰かが笑った場所。ふと思い出すのは素晴らしい出来事ばかりじゃなくて、心が動いた一瞬に見えた景色は、何気ないものかもしれない。喜怒哀楽、その思い出は自分だけが持てる宝物だ。

世界は誰かの宝物の集まり、なのかもしれない。

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