心房中隔欠損症と卵円孔開存の違いについて学ぼう part2
前回、卵円孔開存についてまとめました。
当初は2つを分けた方が見やすいかなと思いましたが、正直同じ記事にまとめた方がよかったなと反省です。医療ネタをしらべていてこちらにたどり着いた方は上の記事を踏まえた上でこちらをご参照ください。
一応同じ事も下記で説明しながら心房中隔欠損症についてもまとめてみます。
心房中隔欠損は二次中隔の欠損で二次孔を閉鎖できない結果生じる
一次孔については上で説明したとおりですが、イメージはCの様になっています。
二次中隔欠損ができるのはEのとおりです。
二次中隔がおりてくる過程で、二次孔が閉鎖されない発生異常により生じます。卵円孔をまきこむこともあり、さらに大きな穴が空いている状態です。
いろんな単語があって非常にわかりにくいですが、すべてを1文でまとめてしまうと「(一次中隔の発生途中にできた)二次孔を、二次中隔が閉鎖することができずに残存してしまった穴」を(二次孔型)心房中隔欠損症と呼びます。
心房中隔が一次二次と名前があり、孔についても一次二次と名前が付いておきながら別にそれぞれは対になっているわけじゃないので非常にわかりにくい状態です。あきらめてください。
したがって、心房中隔欠損では、二次孔が塞がっていない状態ですので、出生後左房圧が上がったところで防ぐ壁がなく、穴が空いたままの状態です。心房中隔欠損症は自然閉鎖がほとんど起きないというのはこのような機序からです。
心房中隔の発生機序と疾患の成り立ちのまとめ図
右上段が正常、右下段が卵円孔開存、真ん中下段が心房中隔欠損症です。
ポイントは、心房中隔は2つの壁(一次中隔・二次中隔)が癒合したものであり、発生過程に起きた異常により二次孔が残存した物が心房中隔欠損症であり、最後の一次中隔・二次中隔の癒合が完全におきなかった結果、一次中隔(卵円孔弁)がぺらぺらと二次中隔から剥がれた状態であるものが卵円孔開存です。
すなわち、
・卵円孔開存と心房中隔欠損症の大きな臨床上の違いは左右の血液の流れ
卵円孔開存は基本的には右左シャントのみ。
心房中隔欠損症は両方向シャント(左右シャントが主)。
じゃあここであらためて、
卵円孔開存では脳梗塞(奇異性塞栓)ばかり取り上げられる一方で、心房中隔欠損症ではむしろ心房細動などの不整脈、心不全、肺高血圧など重篤な合併症が多く話題になるのか
卵円孔開存では右房圧が左房圧を上回ったとき「のみ」右左シャントが発生し、さらにDVTなどが存在するような、低い確率で血栓が大動脈へと流れる、という状況です。
こういうこともあり、卵円孔開存はあくまで正常亜型のようなもので、厳密には先天性心疾患には含まれません。
一方で、心房中隔欠損症では常に左右シャントが流れる状態です。特に欠損孔が大きければ大きいほど左右シャントの量が多くなります。シャント量が多くなると、右心房、右心室、肺動脈を流れる血液量が増え、さらに左房に戻ってくる血液の量も増えます。
したがって左心室以外にとっては正常よりも多くの血液を運ばなければいけません。これはいわゆる容量負荷(volume overload)と言われる状態です。
そうなってくると心房や心室はだんだんと大きくなり、また血管は少しずつダメージを負うために血管抵抗が上がってきます。この結果、肺動脈の血液が段々と流れにくくなる、いわゆる肺高血圧症となります。
左右シャントの増加
↓
右房負荷、右房拡大 → 不整脈の発生
↓
右室負荷 → 右室拡大
↓
肺動脈血流の増加 → 徐々に肺血管抵抗の上昇
↓
左房負荷 → 不整脈の発生
↓
左右シャントの増加
・
・
・
↓
肺高血圧症の発症
↓
右室圧上昇(圧負荷)
↓
Eisenmenger症候群の発症
という具合です。
肺高血圧症を発症するかどうか、またEisenmenger症候群に至るかどうかについては欠損孔の大きさや心機能やサイズによるものがあるのでなかなか予測は難しいところです。
しかし、欠損孔閉鎖術が普及した現在では、右室負荷が心エコーなどで確認できるようなサイズのものについては早め早めに閉鎖を行うことが一般的になっています。
少し話は長くなりましたが、心房中隔欠損症と卵円孔開存についての基礎的な概念や血行動態の説明は以上になります。