心房中隔欠損症と卵円孔開存の違いについて学ぼう part1
以前、別にブログをしていたときからのお引っ越しです。
内容はほぼ同じ。
先天性心疾患の代表である心房中隔欠損症を説明するために、まずは卵円孔開存についても触れます。知らない人も多いですが、卵円孔開存は4人に1人が該当します。偏頭痛がきっかけで見つかる方などしばしばいたり。
心房中隔欠損症と卵円孔開存はいずれも心房間に穴が空いている心臓の構造異常のため、その違いってなに?と聞かれてもぱっと答えられない医療関係者も意外と多いのではないでしょうか。
ここでは心臓の発生なども交えながらまとめてみたいと思います。
長くなるとわかりにくいので本投稿はまずは卵円孔開存を重点に説明します。
房中隔欠損症と卵円孔開存はどっちも心房間に穴が空いているだけ?
成人先天性心疾患を学ぶ以前に、循環器内科あるいは脳神経内科領域で頻繁に出てくるのが、卵円孔開存です。
卵円孔開存は右房圧が高くなったときに、右房から左房に血液が流れてしまうので、もし下肢静脈血栓症などが心臓内に飛んでしまった場合、肺塞栓だけではなく、脳梗塞にもなりうることから、奇異性塞栓の原因として広く知られているかと思います。
なぜかいつも卵円孔開存ばかり話題にあがっていますが、心房間で穴が空いている心房中隔欠損症では気にしなくていいの?ということですが、
当然そんなことはなく、むしろ一般的には卵円孔開存よりも大きな穴が空いているという意味では脳塞栓を生じるリスクは十分にあります。
じゃあ、ここでそもそも心房中隔欠損症と卵円孔開存、どちらも穴が空いているけど、そもそもこの2つの違いってなに?という疑問が出てくるかと思います。
実際に治療においても心房中隔欠損症は良く穴を閉じるかどうか、肺高血圧症のリスクがある、ないなどと話題にあがりますが、卵円孔開存はいつも脳塞栓の話題だけです。
一般的な心臓の教科書をみても、心房中隔欠損症は詳しく書いていますが、卵円孔開存についてはあまり記載がなくよくわからないという方は多いのではないでしょうか。
少し難しい内容もありますが、この機会にちょっとまとめてみました。
下に行くにつれてすこしずつ内容が難しくなっていきます。
心房中隔欠損症と卵円孔開存の主な違いは心房間の血液の流れの方向
まずは細かい機序はおいといて、大きな臨床上の違いは
心房中隔欠損症は左房⇒右房、右房⇒左房どちらにも血液が流れます (左→右がメイン)が、
卵円孔開存では一般的には右房⇒左房の一方向に血液は流れます。
もちろん左右は全例で0とはいいませんがほぼないと考えてOKです(streched PFOでは両方向性です)。
じゃあ同じ穴が空いているのになんでこんな違いがあるの?ということですが、卵円孔開存は実は正確に言うと穴が空いているわけではありません。
ペラペラとした弁のようなものが心房中隔を覆っており、左から右へ血液が流れないような構造(逆に言うと、生まれる前に存在する右から左へ血液を流すための構造:あとでまた説明します)をしています。
そして右から左へ流れるのは基本的には右房圧が左房圧よりも高くなったときに弁が開いて血液が流れる、という仕組みです。
心房中隔欠損症と卵円孔開存の構造の違いは発生の知識が重要
このあたりから心臓の発生が重要になってきます。順を追って説明していきます。
卵円孔はそもそも胎児にとって生理的な血液の通り道
赤ちゃんは生まれるまでは酸素は胎盤から流れてくるお母さんの酸素をそのまま全身へと流して組織に酸素を与えています。
自分の肺では酸素を取り入れていないわけです。そりゃ当然のことで、羊水の中にいますので呼吸なんてできないですよね。エラがあればできるかもですが、残念ながらありません。
なので、静脈系に母親からもらった酸素濃度が高い血液が心臓の中(右心房)へ流れてきて、それが全身へと血液が流れていきます。
大人の体ですと、まずは肺を通って酸素を十分取り入れてから左心室から大動脈へ血液が流れるのが通常ですよね。でも胎児は右心房の時点ですでに酸素は十分にもっているので、それをそのまま全身に流せばいいんです。
となると、右房⇒左房⇒全身という血液の流れが一番スマートです。もちろん右室の発達や肺動脈の発達の問題で、右房から右室へと血液は流れますが、肺はほとんど機能していないので最低限の血液の流れでいいわけです。
むしろあんまり肺に血液が流れてしまっても肺が疲れてしまうので、動脈管といわれる血管を通じて、肺動脈から大動脈へと血液のバイパスをしていたりもするほどです。
話がちょっと逸れたので戻します。
というわけで、効率よく全身に血液を流すためには右房から左房へ血液を流す必要があり、心房中隔には生まれるまでの間きちんと穴が空いている必要があります。これが卵円孔です。
生まれた後は、肺で酸素を取り入れて生きていく必要があり、肺動脈にきちんと血液が流れる必要があります。なので卵円孔は閉じ、閉鎖していきます。
心房中隔は2つの壁から構成されている
ここからはちょっと複雑なお話しをしますので読み飛ばしても大丈夫です。
下図の「出生後」、のイメージだけ頭にいれてもらうとわかりやすいかと思います。
順を追って上の図(心房中隔の発生)を説明していきます。
A 胎生30日頃:ここでまず右房と左房を遮る隔壁が発生してきます。一次中隔という名前の壁です。
B 胎生33日頃:この一次中隔は頭側から足側へとおりていき、ぎりぎり下(心内膜床)へ到達しないところで止まります。穴が完全に閉じてしまうと血液の流れが止まってしまいますからね。この穴を一次孔と呼んでいます。
C 胎生35日頃:次に起こるのは、心内膜床の隆起です。この隆起によって一次孔が閉鎖されます(閉鎖がされないと一次孔型心房中隔欠損症となります。別名:不完全型房室中隔欠損症です)。ただ、完全に穴がなくなってしまうと血液が流れなくなってしまうので、ここで一次中隔の真ん中に別の穴が空きます。これが二次孔と呼ばれる穴です。
D 胎生37日頃:次に、今度は別の壁があらためて心房間にできてきます。二次中隔と呼ばれる壁で、一次中隔よりも右房側で同様に上から降りてきます。
E 胎生55日頃:次に主に2つのことが起こります。
二次中隔は一次中隔と同じように下へと降りていき、二次孔を閉鎖します。かわりに今度は真ん中に卵円孔という穴を残して、完全に下まで降りていきます(正確には左静脈洞弁へ癒合。心内膜床ではありません)。
同時に一次中隔は上の壁から離れて穴が空いてくるとともに、心内膜床と癒合していきます。そしてその過程で一次中隔はペラペラとした弁のような構造へと変化して、これを卵円孔弁なんて呼んだりしています。
こうなると、血液は卵円孔(弁)を介して、右から左へ流れていく様になります。
F 出生後:肺に血流がきちんと流れ、左房圧も上昇することで、卵円孔弁は二次中隔へとおしつけられることで卵円孔が閉鎖します。心房中隔の大まかな発生は以上です。
細かいところは事実と少しずれてることもありますが、大体の流れを理解するのであればこの程度でいいかと思います。
卵円孔は物理的な圧で2つの壁が閉じられている
じゃあなんで卵円孔開存なんてものが問題になるのかについてです。
出生後の卵円孔閉鎖といっても心房中隔の壁の2つが組織発生学的なメカニズムで癒合するわけではありません。壁と壁2つが血液の圧力によって押しつけられ、穴が物理的に閉鎖しているだけの状態です。正確には違いますが、わかりやすくいうと以下のイメージで良いです。
イメージとしてはゴムとゴム2つを強く重ねた状態です。時間がたっていくと2つのゴムを引き離すには力が必要だったり、場合によってちぎれてしまうほどくっついていたり、ということが想像できるかと思います。ただ、ゴムの状態によっては重なってはいるけどちょっと持ち上げるとすぐに2つが離れてしまうということも想像できますでしょうか。
この、なにかのきっかけ(右房圧が高くなること)によってゴムがもちあがった状態がいわゆる卵円孔開存です。
上の発生のときの説明でしたとおり、左側の心房中隔は弁のような構造ですので、右から左への血液は通しますが、左から右へは一般的には流れにくくなります。
このように卵円孔の閉鎖はかなりいい加減なものなので、健常者でもおよそ25%(4人に1人)は完全には閉鎖しておらずなんらかのきっかけで卵円孔を介して血液が流れうる状態、といわれています。
そして、卵円孔開存の大きな症状としては、奇異性塞栓という脳梗塞を起こしうること。
エコノミー症候群という名前の病気を聞いたことがある人も多いと思いますが、これは足にできた小さな血栓が血液の流れで飛んでいったものが肺に詰まって肺塞栓を起こす病気です。
しかしながら右心房から左心房へと血液が流れる場合、肺だけでなく、今度は全身に流れる動脈へと血栓が到達してしまうため、脳梗塞を引き起こす可能性があります。
これが奇異性塞栓です。
血栓ができやすい方(女性だとピルを飲んでいる、妊娠中など)、足をあまり動かしていない方、高齢の方などは下肢血栓ができやすく、なにかの拍子に脳梗塞や、その前段階の脳虚血を起こすことがしばしばあります。
さらに脳虚血の前段階として偏頭痛様の症状を起こして、発覚する方もいたりします。
偏頭痛の原因が卵円孔開存と断定することはできず、穴を閉鎖する治療が必ずしも偏頭痛の改善につながるわけではないので、基本的に脳梗塞などの明らかな症状を起こさない限りは治療は行うことはほぼありません。
しかし、体って良くできていて、普通は左心房のほうが右心房よりも血圧が高いので、右から左に血液が流れないようになっています。
じゃあ、なんで脳梗塞起こすことがあるの?っていうと、右房が高くなる状態になったときがあるからです。
細かくいうと色々ありすぎますが、簡単に言うと、息んだときに右房圧は上がります。バルサルバ負荷なんて専門用語で呼びます。
なので、トイレで長時間ふんばったとき、睡眠時無呼吸でいびきを強くかいているときなど。他には体液貯留傾向になっても右房圧はあがるので、塩分の取りすぎ、心不全の方などなども。
ここまで説明しておいて、あれですが、診断については、小さな穴なので心エコーをしても見つけることはなかなか困難です。運がいいと見つかる。それを狙って専門病院で検査したら見つかります。
不安をあおるだけの内容になってしまいましたが、基本は放置。下肢の血栓ができないように運動しっかりして水をよく取りましょう。
あんまり細かく話すと終わらなくなってしまうので卵円孔開存についてはこのあたりで終わります。
続きは下記です。