見慣れた景色を
ぱしゃり。
ぱしゃり。
僕の生きてきた街を、刻んでゆく。
カメラを通して覗く故郷は、僕の記憶を呼び起こして止まない。
ぱしゃり。
ぱしゃり。
通ってた高校の制服。
行きつけだったラーメン屋。
歯医者の匂いがする市役所。
「あぁ、あの時のままだ。」
街は時を止めたかのように、一年経った今も、僕をくすぶる五感もそのままにして、居てくれた。
写真を始めた理由は、きっと、旅行に行く意味が欲しいとかいう、ひねくれた考えだった気がする。
でもどうだろうか。
僕はこのカメラを通して、故郷を味わい、消化している。
思いを、過去を、写真に封じ込めて。
今と、変わらない景色を、ファインダーに収めて。
「この街が、やっぱり、好きだ。」
そう思わせてくれた、カメラは、とっておきの僕のひみつ道具だ。
10年後。
まだ、この街を、撮れるだろうか。