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読書録「2045年、おりづるタワーにのぼる君たちへ」

広島原爆ドームを見下ろす場所にたつ「おりづるタワー」。
1階にはおしゃれな名産品が並ぶおみやげ屋さん、広島お好み焼きのお店やカフェがあり、屋上には広島市を一望できる展望デッキ、家族が楽しめるアミューズメントもそなえている。
観光スポットとして多くの人が訪れることとなった平和都市のシンボル「おりづるタワー」。
しかしここに至るには様々な経緯があり、一筋縄ではいかなかった。
困難を乗り越える原動力、それは広島を愛する強い想いだった。
著者は株式会社広島マツダの代表取締役会長兼CEOである松田哲也氏。
その半生と共に、おりづるタワー誕生秘話と、未来への希望をえがく。

著者 松田哲也 発行 ザメディアジョン (2019.6.26)

家族親戚・青年会議所の仲間・社員たち…良くも悪くも深い関係性の中で、もがき、逃げ、腐ったりしつつも踏ん張って、周りに励まされながら人として鍛えられていく。経営者の奮闘記としておもしろかった。
地域に対する熱い想いが醸造されていく過程にひきこまれる。
幼馴染の建築家との強い絆も夢の実現に一役買う。
広く周りを巻き込んでの大プロジェクトは前途多難だが、頓挫しそうになる度に、創りあげる意味について考えを深めていく。

私たちは2045年・戦後100年の節目にどんな世界を望むだろう。
そのために今なにをするだろう。
著者の目は未来を見つめている。
そこにあるのは「愛」だと思う。
行動の原動力は「好き」であり、「愛」であってほしいと願う。
そしてみんなのしあわせを実現するものであってほしい。
そう思わされた。
表紙のイラストも広島の風景がギュッと凝縮されているようでいい感じ。

本文より

「いや、この景色は全世界の人が見るべきだ!このビルで働いている人や管理人だけが見られる景色じゃダメなんだ。広島市民はもちろん、世界中からやって来る観光客みんなにこの景色を見てもらいたい。この場を開放して、みんなのものにしなければ…」
私は風景と恋に落ちたのです。瞬間的な一目惚れ。想いはすぐに叫びに変わって、私の心に強烈な刻印を焼き付けました。

「これは広島のためにやるんじゃ。絶対いいものになる。やるかやらんか…それを決められるのはおまえしかおらんのじゃ!」

この世は醜く、とても美しい。

おりづるタワー自体、国家や人種や宗教や歴史やイデオロギーや勝敗を超え、等しく手を取り合って未来へ歩んでいく確認の場所になっています。私たちはみんな仲間なんだ、と。

私がおりづるタワーの展望台から届けたいのは、LOVEがHATEに勝利した街の姿に他なりません。それこそが戦後を生きる私たちが嘘偽りなく奏でることのできる最強のメッセージなのだと私は今、胸を張って宣言することができます。

2045年を私たちの”通信簿”にしませんか?戦後100年たった街の姿、そして人の心。どのような街になり、どのような暮らしをしていたいのか。
26年後、原爆投下100年の節目に、私たちが信じてきた教育、私たちが創り上げてきた芸術、私たちがよしとしてきた社会、経済、政治体制…それらが本当に正しかったのかどうか審判を受けるのです。2045年を、戦後という時代を生きてきて私たちのひとつのゴールとして捉えるのです。

2045年の広島の街をどうデザインするか。私たちはどんな広島を次世代に手渡したいのか。
”2045”という目標を置いて考えると、今小競り合いを続けているさまざまな問題がいかにばかばかしいかよくわかります。

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