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読書録「愛に乱暴」

妻も、読者も、騙される! 
『悪人』の作家が踏み込んだ、〈夫婦〉の闇の果て。
(出版社ホームページより)

<内容>
既婚男性と不倫をする若い女性の日記から物語ははじまる。
友人に相談するのだが、理解してもらえずもどかしい想いが綴られる。

初瀬桃子は平凡な主婦。夫の両親と同じ敷地の離れに住まい、気を遣いながら生活しているが、ある日、夫の不倫を疑い始める。
度重なる外食に出張。初めは気がつかないが、出張帰りの荷物のパッキングに違和感を感じる。畳み方が夫らしくないのだ。その晩、桃子は眠っている夫の腰にマジックで「夫」と書く。

淡々と過ぎていく日常の中で、ほんの少しの不穏さが生活のあちこちに現れる。義父母との小さな行き違い、向かいのアパートに住む外国人、庭に遊びに来る捨てられた猫、義父の入院。そして無言電話。平凡な日常が少しずつ揺らぐ。

桃子はふと気になる。普段使わない6畳間の畳の並びがいつの間にか変わっているのではないか?畳の下はどうなっているのか?突き動かされるように小型のチェーンソーを買い、畳を上げ床板を切る。そしてむき出しになった地面を掘ってみる。出てきたのは古い壺だった。

不穏な出来事は大きくなっていく。近所の不審火、壺の中にしまわれた家にまつわる過去の事件、行方不明の猫。やがて不倫相手は妊娠、夫は帰らず、過去のわだかまりが蒸し返され、義母との関係でも不満が爆発する。地道に積み上げてきたものが壊れていく中で桃子の行動は常軌を逸していく。

著者:吉田修一
発行所:新潮社
発行:2013年5月20日

<感想>
2024年に映画化されて話題の本と書評にあった。
どうなるのか先が気になっていっきに読み進めた。
この日記を書いているのは…真相がわかった時ちょっとだまされた感があったりして、スリリングな展開がおもしろかった。

桃子が床下に穴を掘ってしまったように、自分でもわけのわからない衝動にかられて、何かをどうしてもやらなければ気がすまない!という感情はちょっとわかる。それが、他人から見ると奇異に思える事だとしても。こっそりしたつもりでも、それは案外気づかれているのかもしれない。

なにもかも失ったと自暴自棄になった時、ひとを救うものは?
必死になって積み上げてきたものは、決して「すべて無駄」というわけでない。過去の自分の小さな行いが、時に思いがけず自分を助けてくれることもある。そんな希望を残している。

<本文より>

今現在、私がおかしな女のふりをしているのであれば、この日記の中の私は、ずっと幸せな女のふりをしてきたのかもしれない。そう考えると、この日記自体がとても嘘くさいものに思えてくる。

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