のりしろを持つということ

 10年ほど前、当時の上司が「のりしろを持って仕事をしなさい」と言っていた。個々人が自分のことばかり考えていると、組織としてうまくいかない。だから少しのりしろを持って仕事をすることで、円滑に進行することがある、と。

 この言葉について、当時の私は漠然としか理解できていなかったように思う。社歴を重ね、求められる役割の中でプレイヤーとしてよりもマネジメントとしてのウェイトが増えていくにつれて、この言葉の重みを実感するようになった。
 個々人が自分のことしか考えず、のりしろのないジャストサイズで仕事をしていると、他人や他部署の状況を想像することもなく、うまくいかない事実のみに苛立ちを覚え、「あの部署の対応が遅い」「あの人の指示が不明瞭だ」「優先順位がわかってない」といったように組織間で軋轢が生じた。

 とはいえ、のりしろを持つというのは、自分の時間を使って他の人の仕事をするということではないだろう。私はその言葉を、「他の人や組織の状況を想像する余白を作る」ということだと解釈した。自分で勝手に好きな形、大きさでのりしろを作っても、おそらく意味はない。それでは、他人と、組織と、つなぐことはできないだろう。
 
 少しだけ他部署の状況を想像する時間を持つ。そして打ち合わせでその部署が気にするべきことについての説明を厚くしたり、他の案件との兼ね合いも考慮してスケジュールを調整したり。きっとほんの少しの気遣いだけでも違うと思う。その意識を持つように心がけている。
 
 この考えは、仕事だけでなくプライベートでも役に立っていると思う。忙しくて余裕がないと、一緒に暮らす夫に対して、「あれもやってくれてもいいのに」と相手に多くを求めてギスギスしてしまう。でも少し立ち止まって、彼の状況を推察してみて、もっと指示を明瞭に出していればよかったかも、これくらいは一緒にやればよかったかもと反省をし、次からお願いするときは、少しでも相手が迷わず対応できるように心がけている。 この言葉で、仕事もプライベートでもほんの少し心にもゆとりが出来た気がする。


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