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制作余話#5「自粛の世界と一割の本物」編

前回「桃花詩記」編はこちら
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完結させた作品のちょっとした後語り兼自分に向けた制作メモの為のシリーズはっじまるよー。

今回は2万字程度の短編作品「自粛の世界と一割の本物」編です。この作品は勢いで書ききった作品なので語ることは少ないです。それに違わず本作は執筆に費やした期間がかなり短いです。思いついたのが今年の4月20日頃、投降が5月5日~11日と大体2週間ちょいで書き上げています(仕事や体調の問題で書いていない日もあるので本当はもう少し短い)。
思いついたきっかけは単純です。せっかくだしこのコロナ自粛ならではの作品を残しておこうと思っただけ。鬱々としているよりその時の状況を楽しんだ方が精神衛生上好ましいですから。それもあって本作はくだらないギャグを満載しています。直前までお堅い話(桃花詩記)を書いていたので、その反動でおふざけに走りたいと考えていたのもあります。

どのような話にするかというのもすんなり決まりました。
芸能人が撮影できなくて暇らしい→じゃああの業界も暇なのでは?→じゃあ「9割は嘘」のネタを使おう。
以上のような流れで決めて、大して構成も練らずに執筆を開始しました。私はノートに構成や設定などのメモを残していて、短編でも数ページは使うのですが……本作ではB5ノート1ページ分しか使っていません。

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↑こんなクッソ汚い走り書きを残しただけ。忘れそうな要素だけ雑に書き留めておいて後は頭の中でどうこうしたのがわかるかと。つまりこの制作余話の意義が初めて生かされる作品なのです!

と言っても語れることがそんなにないんですよね……。構成も落とし所を先に見込んでおいて、そこから肉付け&矛盾を潰していく作業をした結果こうなっただけですし……。なので今回はちょっとした裏話が中心になるかと思います。

なぜ病院?

本作は女の子がコロナ流行で面会制限中の病院に入院する母親に会いに行くというストーリー(こう書くとまっとうなお話に見える)。そもそもなぜ病院を選んだのかというお話をしようと思います。

詳しいことは言えませんが、私の勤め先が病院だからというのが大きな理由です。作中の病院は勤務先がモデルという訳ではなく、他の病院の対策等も参考にしています。面会制限や荷物の受け渡し関連はほとんどの病院がとっている対策ですし、ロビーに看護師が立って来院者の対応を行っている病院も少なくありません。他にも細かい制限がかけられていますが、物語に深く関わることではないので省いています。
そのような中で病院に身を置いていると、どうしても重々しい気分に流されていきます。自粛警察の件然り、世の中全体がギスギスしていましたし、院内は言うまでもなくピリピリしていました。鬱屈とした感情を発散させたかったのもありますが、暗い世の中にバカバカしい話を届けたいという思いもあって本作を書きました。
それに加えて、普通の病気やケガで入院している人達の状況をほんの少しお伝えできればと思って、感染症指定医療機関ではない病院の中からリハビリ病院を舞台に選びました。実際今も入院患者さんは病棟から出られず、入退院の手続きや手術前後の付き添いではない限り家族も会えないという病院が大半です(2020年5月20日時点)。入院患者さんからは外の空気を吸いに出られない、暇で気が滅入るという話をよく聞いていますし、そのご家族からは不安や心配の声も上がっています。病院、しかもリハビリ科を用いたのはそうした実情をちょこっとだけ紹介したかった意図があります。

登場人物について

続いてこの企画おなじみの登場人物を語るコーナー。
この物語の鍵は「透明化」と「時間停止(本当は次元転移)」の能力なので、うすにんと康さんの2人がまず設定されました。うすにんはどこにでもいそうな若者、康さんは一般からやや外れた作品に出演していそうな強面坊主で、系統は異なるけれどもどちらも男優らしい見た目を想定しています。2人ともキャリアは長いので、業界のあれこれももちろん知った上で仕事を続けています。
うすにんは「映像に映っていても邪魔にならない」という理由で男性からの支持が圧倒的に多いです(これは9割の男性が賛同するはず)。実は嬢ちゃんがファンなのは希少なんです。ちなみに彼女の好きな理由は「何事も程々の方が感情移入しやすいから」です。良いんだか悪いんだか。
反対に康さんはそもそも知名度が低いのもあってファンが少ないです。ただスタッフや共演者に好かれているので安定して仕事を続けられています。嬢ちゃんが知っていたことにドン引きするくらいですから、それなりのAVマニアでなければ彼のことを知りません。時間停止の理屈については私の拙い知識で何となーく矛盾がでないようにふわふわ~と説明しています。本当に時間停止だとしたら人智を超えているし、その辺の科学的な説明をできる気がしなかったので、「周辺の対象を指定して別空間に飛ぶ」という力に抑えました。時間や空間の概念について滾々と語らせたら取り留めのないSFになってしまいますしね。

こんな2人に絡む人物かつ語り手として、女子大生の嬢ちゃんを設定しました。能力発現の条件や兆候は後になって細かく決めたのですが、「特定の年齢が近付くと性欲が増加する」といった設定を作った時に女の子にしておいて良かったなと思いました。自慰行為がバレる場面なんかもそうなのですが、女性の性事情に対して社会一般の認識が深まっていないからこそ、こうした設定や描写は際立つと思います。深まっていたらエロ動画に精通した女性を登場させても読者は何とも思わないでしょうからこの作品は成り立ちません。
彼女がどんな能力に目覚めたのか、作中では語られませんでしたが、実は先に挙げたノートに単語だけ記されています。両親に違わず超強力な能力です。

最後に嬢ちゃんのご両親について。
お母さんの能力は執筆に当たって少し変更しました。うすにんによって都市伝説として語られる通り、初めは「男の生殖能力の破壊」でした。それをお父さんが愛の力でそれをぶち破ることで結ばれ、嬢ちゃんが生まれるという経緯でした。そこから「性欲の奪取」に変更し、それに伴って母さんがしゅきしゅき状態になったからお父さんも大丈夫(むしろ大丈夫じゃないくらい搾り取られた)だったという過去に変わりました。こうした能力周りの設定の追加や変更は母が娘と直接会おうとする理由を考えた際に起こっています。
次にお父さんの能力の精神ジャックですが、男優でしたからもちろん現実のAVに即した能力を選んでいます。出演予定作は男女入れ替わり物で、制限はあるものの精神の交換も可能と語っています。単身赴任先から家で飼っている猫に意識を飛ばせる辺り、超上級の能力者です。ちなみに本体は東京にいます。あと娘達は関西住み設定です。
実は娘が露出嫌いになった出来事についても変更しました。元は父と共演した女優が父の体を強奪して、娘に対して猥褻な行いをしようとした所を母の能力が炸裂したという展開でした。さすがに不道徳だし、元の体に戻った父が不憫になるし、何より父と母には純愛であってほしかったので没にしました。

告知方法の工夫について思ったこと

本作の執筆中、Twitterでちょびっとだけ内容を出してみたりしました(例えば台詞1個だけとか)。元々私のTwitterは創作に関係ないことで仲良くなった方が多いのですが、これが仲間内で良い反応を頂けて中には作品に目を通してくれた方もちらほら。告知の方法も色々工夫する余地があるなと感じました。紙の本なら本屋でパラ読みもできますが、ネット小説はタイトルとあらすじだけで読者を呼び込む必要があります(だからこそあのあらすじ紹介クソ長タイトルが定着した)。ただ、それだと底辺は網にも棒にも引っかからずに埋もれてしまうし、作者の方から読者に歩み寄る方法としてこういう内容お漏らしもありじゃないかなと手応えを感じました。
このお漏らし告知は作品つくりにも良い影響が出ました。台詞1個にしても印象に残るよう、隅々まで意識を向けるようになりましたし、各章に見せ場になる場面を入れ込もうという姿勢で執筆に臨めました。まだまだ底辺なのは変わりませんが、自分の中で一番しっかりした作品に仕上がった気がします。

そんな真面目にふざけた作品に目を通してくださった方々に改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。
じ、実は読んでいないよ……という方はぜひご一読を!

〈了〉

・「自粛の世界と一割の本物」本編→ここ
・カクヨム作品→こっち


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