制作余話#4-4(終)「桃花詩記」完結編
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4回に渡って続いた「桃花詩記」の後語りも今回で終わり。最後までお付き合いいただければ。
第7話「文の華」人物について
最終編となる第7話ですが、ここに至って新たな登場人物が現れます。
まず、本陶らが所属する官庁の長官である曹齢然、今回の律巡察の命を与えた人物です。鈍灰とは若き日の友であり、彼と久しぶりの再会を果たします。
名前は「それええね」の当て字、実は7話で新たに登場した人物のネーミングは全て当て字です。適当だと思われるでしょうが、本陶然り隠し味程度に意味をもたせています。彼の場合は主人公達に賛同する立場で助けになってくれる人物だからですね。
さて、そんな彼は本編であまり語られておりませんがなかなかの苦労人。父親から中書令の職を引き継いで、それから長く天子を補佐してきました。その間も後述の三氏との政治上の小競り合いを繰り広げています。共に天子を支えていた鈍灰が都を去ってからも耐え忍んできましたが、今回の律の件をきっかけに立場が危うくなります。
曹家の起源が律であることを知っていた三氏は縛りが少なくて気楽な律文(漢柳)が官僚の間で密かにブームになっていたのを良いことに言いがかりをつけます。知識人の間で起こっていた文芸の論争を巧みに政治上の論争に誘導していったのです。守勢に回った曹氏はどうにかこの場を切り抜けられないかと半ば苦し紛れに律の巡察を発案、これが承認せられて時間稼ぎに成功します。以上が本編の前にあった出来事です。作品を書き始めた時、この辺のあれこれをいちいち描くのはどうかと思ったので、1話ではさらっとぼんやりとしか説明していません。てこ入れ後にここらの話が必要になった時は「もう少し宮廷の内情を描いておけば……」とちょい後悔。あぁ^~加筆部分が増えるんじゃ^~。
齢然の人物像は「耀白がもう少し歳を取ったら」をイメージ、なので鈍灰に対して一層容赦なく物を言います。もちろん政治の中枢にいる者なので、抜かりのない所も持ち合わせています。本陶らが巡察へ旅立った後、彼は彼で律に関する情報や一族の過去について独自に調査を行っています。その流れで『華国日記』を入手、早くから三氏に対して強力な切り札を得ていました。とはいえ切り札も機を誤ればその効用を発揮できません。彼がすぐに三氏の先祖が行ったことについて告発しなかったのはそういう事情があります。
次に天子叡文昌について。名前の由来は「ええ文章」とそのまんまの当て字ですね。余談になりますが鈍灰の本名叡朱旻は「ええ趣味」からきています。物語の都合上、この人に漢柳を認めさせる流れになるのでこういう名前にしました。皇帝の名前に関しても現実では諸々慣習がありますが、時代小説ではないのでそこまで厳密にする必要がないと考えて省いています。
先帝の次男に生まれ、長男が帝位を引き継ぐ前に逝去したことによって、以後華国の皇帝として政治の世界に身を投じていきます。とは言っても若い皇帝は百戦錬磨の臣下達に振り回されて疲弊していき……というのは本編でも語られていますね。悩める皇帝をもっと描いておけば宮中の内情に深く切り込めたんですが、ここまで政治が絡む話にするつもりがなかったもので……。描写されていないけど長い間悩んでおられたことを想像して頂いたら、行方不明だった兄弟と再会して覚醒していく様にカタルシスを感じて頂けるかと(他人任せ)。
お次はこの物語での悪役、三氏こと馬氏・虞氏・陳氏のご紹介。悪役なので名前の由来は単純に汚い言葉の当て字です。馬翰はバカ、虞朔は愚策、陳甫は股に下がっている物です。中国の歴史書では異民族や敵国の人物名に悪い意味の漢字を当てたりしていますが、彼らの場合悪い意味の言葉を別の漢字で言い換えている訳ですね。なぜここだけリアルに寄せた?
正直、3人も出す必要はなかったなというのが本音です。3人の特徴を混ぜ合わせて1人に絞った方がより魅力的な悪役になったのではないかと。3人の小物より1つの巨悪の方が映えますしね。
7話後編では本陶らと彼らを合わせると一つの場面で8名によるかけ合いが起こる訳で、これにより台詞の書き分けや場を回すのに苦慮する事態に陥りました。人物を出しすぎるのは創作初心者がやりがちなミスらしいですね。Twitterでプロの方がそんなことを呟いていたのを見て、思わず「やってんなぁ!」と声を出してしまいました。皆さんもお気をつけて。
第7話「文の華」物語について
第7話はいよいよ悪役である三氏との対決を迎える展開へ。前半のクライマックスが詩会ならこれは後半のクライマックスになります。
ここでスポットが当たるのは鈍灰、律では語られなかった彼の出自が明かされていきます。鈍灰の出自は元は謎のまま(都の知識層の生まれというのがわかる程度)にするつもりでした。変わったのはこれまで何度も話しているてこ入れの為ですね。前半で耀白メインにしたから彼にもスポットを当てたかったのもあります。
前編は漢柳を入れたかったのでじゃっかん強引な展開に。そして、ここで登場した詩の結びの2句が後編で曹家の訓戒と重なる部分があったというまさかの伏線に。詩の1~6句目までは三氏が行ってきた隠蔽に対する抗議です。結びの2句は慰霊碑の台座に空洞があることへの示唆です。三氏の主導で建てられた慰霊碑に何も考えずに手を合わせているよりは、真実を求めて柳氏の無念を晴らしてほしいという意味合いを含んでいます。んなもんわかるかよって話ですよね。どっちにしても強引なので説明を省きました。
続いて中編の鈍灰の独白について。これも完全に回想パートにして齢然や天子との絡みをもっと濃厚に描くつもりでしたが冗長になる気がしたので断念しました。さりげない描写や台詞回しでそれとなくわかるくらいで十分だと思いまして……(なお作者の力量が)。
んで後編について。これまで1編5千~1万字程度だったのにこの編は1万9千字……。すまない、前中編含めて切り所が判断できなかったんだ。
『華国日記』に関しては唐突な印象を抱いた方もいるかと思います。一応環国との交流という伏線はありましたが、生かし切れていないのはこちらも重々承知しています。鈍灰が宦者であったという事実も前もってそれとなく描くことはできたよなぁと、まぁ過去の説明不足が最後になってどんどんボロが出ているんですよね。読者に「何……だと……?」と思わせるにも多少の前振りが必要な訳で、これだと「何だか行き当たりばったりだな」と感じる方が多いと思います。相変わらず愚痴ばっかで申し訳ないのですが、正直色々破綻していて見るに堪えない。自分でも下手過ぎて嫌になっていたのですが「最後まで書ききる」と決めた以上、もう意地で書いていました。
そんな7話ですが、登場した漢柳は個人的に上手くできたと感じる作品ばかりです。一番読まれないであろう章でこんなに良い作品ができるなんて!と下手なりに成長を実感していました。特に最後の「池平~」の漢柳はたぶん一番好きかも。やっぱり続けることって大事ですね。
エピローグ「繋がる道」
7話での苦しさが喉元を過ぎ、ある意味清々しい気持ちで執筆できました。ちなみにてこ入れ前(4話で終わるバージョン)の結末は以下の感じ。
都に戻ってダラダラ仕事していた本陶と顔路、そこへ耀白と詩耽の婚礼への招待状が都に住む律出身者経由でこっそり届けられる。相変わらず窮屈な都での生活に辟易した彼らは誰にも言わずに再び旅立つ。
基本的に話を思いついたら結末を先に決めるので、どの作品も「早く結末の部分を書きてぇ!」と思いながら途中の紆余曲折を書いています。後半で駆け足になったり、説明不足が頻発するのはその影響かもしれません。「頭の中ではもう思いついているのになかなか進まなくてもどかし~!」って感覚、何かしら創作をしている人は抱いたことあるのでは?それはともかく、そういう気持ちをうまく抑えて丁寧に書けるようになりたいですね。
エピローグの構成はてこ入れ前後ともに特に変わりません。律から手紙が届いて各人物の近況をつらつらと続いて、本陶と顔路が軽口を叩き合ってフェードアウト、んで漢柳で締め。筋道は変わっていないのですんなりと思いつきました。
実はもうこの辺りで顔路が台詞でえずいたりしていて、次回作に向けて下品さやおふざけの片鱗が見えています。文体そのものも1話に比べるとかなり堅さがなくなっている印象があります。大体1年半ほどに渡って執筆していたので変化があるのは仕方ないかも。この作品で定期や短期集中での投稿のメリットがよくわかったし、次の長編はもうちょっと改善できるように頑張るぞい。
最後になりますが、「桃花詩記」を途中まで最後まで問わず目を通して頂いた皆様に改めて御礼申し上げます。
ありがとうございました。別の作品でまたお会いできれば幸いでございます。ではでは。
〈了〉