夢日記

 2022.0407
 黒くて平たい二枚貝が、時代遅れのファンシーな雑貨屋に並んでいた。淡いピンク色の真珠を生む貝らしい。だがその貝の一番の魅力は、痺れるような舌触りの身にあるのだ。真っ黒な痰のような身を舌の上に広げた店主が美味そうに味わっていた。
 何故だか分からないが、私は店先にあったプラスチックのバケツを手に持ち、水の中でも使えるライトを首から下げて外に出た。治安の良くなさそうな港町は夜だった。

 貝を探したが、めぼしいところは既に採り尽くされていた。古びたビルの窓から漏れる光が波止場のコンクリートをぬらぬらと照らしている。街灯は大した光量が無く、機能はしていても役目を果たしていない。
 私はそこから暗い海に飛び込んだ。想像よりも深い海中が広がっていて、沢山の漁船が沈んでいた。錆びた鎖が底の見えない海底へと連なり、微かな水流に揉まれて揺れていた。
 一匹の大きなサメが一つの船体に齧り付いていた。サメは私を気にも留めていなかった。不思議と命の危険は無い。貝は相変わらずどこにも見当たらない。
 海から出た私は、その辺に打ち捨てられた死にかけのタコとスッポンをバケツに入れ、また貝を探した。
 バケツの中で殺し合いになるかと思ったが、タコは既にタコらしいシルエットを保っていなかったし、スッポンは育ちきっていてこの町の誰かの手に渡れば捌かれるのは明白だった。どちらもとてもぞんざいな命だった。
 波止場を離れて歩いていると、歌が聴こえた。暗がりでおじさんが一人、歌を口ずさみながら何かをしていた。
「盗んでしまえ、とってしまえ」
短調な歌詞を繰り返しながら、簡素な建物の側溝をさらっていた。おじさんは私に気づいていたが、無視していた。そして私にはっきりと聴こえるように歌い続けた。
 私もおじさんの真似をして、足元の側溝を見ると、例の貝が驚くほど沢山出てきた。大きさはさまざまだったがどれも私の手と同じくらいの大きさだった。
 私のバケツはタコとスッポンで満員だったが、その2匹を棄ててしまうことが出来ず、その辺にあったバケツを拝借して私は貝を拾いはじめた。

そんな夢。

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