カタシロについて語らせろ
※いろんなカタシロについてのネタバレがあるので注意
出会いは2021年5月だったと思う。
当時私は絶賛朝夜ロスでたすけてくれ〜みたいな感じで日々を過ごしていた。パブサをかけては他の人の感想を啜ってまた落ち着いて……みたいな中毒患者の私の目にこんな感じのツイートが飛び込んできた。
「朝夜が好きな人はカタシロも好きだと思う」
元ツイートを見失ってしまったので雰囲気で申し訳ないのだが、これが私のカタシロとの出会いだった。
カタシロとは
カタシロとはクトゥルフ神話TRPGである。
クトゥルフ神話TRPGについてはしえんさんらの笑いすぎて一生忘れられないシリーズのリプレイ動画を昔見たような気がするくらいの知識しかなかったが、ちょうど私がカタシロを知った時は舞台版の『カタシロRebuild』が公開された直後だった。クトゥルフは知らないが舞台ならマカセロ、というわけだ。
さしあたってどの回を見るかという問題に直面したが、舞台オタクの自分が見るべきは当然一択である。テニミュやヘタミュ等でおなじみの上田さん出演回だ。餅は餅屋、演技は俳優って言うじゃんね。
!ここからめちゃめちゃネタバレ!
舞台は病院。雷に打たれて病院に運び込まれたマコトは自身に関する記憶をすべてなくしてた。そこに医者と名乗る超絶怪しい仮面の男が現れ、記憶を取り戻すための質疑を繰り返す。隣の部屋から聞こえる少女の声や異様な雰囲気の手術室に翻弄された先にある真実とは一
はじめてのカタシロ
上田さんは患者役だったわけだが、まーこれがとにかくさわやかなお兄さんなんですよ。あとちょっとおもしろお兄さん。棚の扉を封じてた鎖はボールにするし、お父さんを驚かそう!なんて計画をアユムに持ち掛けるし。
でもすごく自由にカタシロの世界を楽しみながら、ちゃんと「役者」であることを忘れない演技をするからすごい。ほかの患者役の中には思っていること、考えていることをそのまま口に出す人みたいなのもどうしてもいるんだけど、上田さんは情報の小出しがうまい。舞台としてのふるまいみたいなのを自然にやるのでさすがプロだなぁ。と。
3つの思考実験は思わず自分も考え込んでしまった。囚人のジレンマは自白するしテセウスの肥は別物だし臓器くじは嫌だ。この思考実験は作劇がめっちゃうまいな〜と思うポイントで、まず思考実験自体が面白い。私のように自分ならどうする!?と考える面白さと、じゃあ演者はどうなんだろう、っていう面白さ。カタシロフリークはともかく大抵の人は演者が好きでこれを見ているので、人となりの根幹に触れられるこの質問はファンとしては純粋に嬉しい。
そして「じゃあなんでこの胡散臭い医者はこんな変なことを聞いてくるんだ?」と推理する面白さもある。医者は記憶を取り戻すためだからね〜などとのたまっているが、絶対に目的はそれだけではないよね!?
かのチェーホフは言った、舞台上に持ち込まれたものは必ず出した意味が無ければならない、と。ではこの思考実験の意図は?
こうやってちょっとした違和感を丁寧丁寧丁寧に捨い集めることで真相に近づいていき、ついにマコトは医者と対峙することとなる。
んだけど、まーーーーとにかく泣いたね。ああそっか、そうだよね、と。全部に意味があったんだ。医者が変な仮面なのも、思考実験も、アコムの状態も、記憶喪失も、全部このためだけにあったんだ。
そして家族愛の果ての狂気を救ったのはたまたまくじに当たっただけの彼だった。たった3日だけだけれどたくさん話をして、親子の幸せを願った上での決断。これを隣人愛と言わずしてなんと言おうか。カタシロって聖書だったのかもしれない。
カタシロRebuildの面白さ
舞台版もTRPG版も筋書きは同じで、情報を得る手段がサイコロか舞台上を漁るかくらいの違いしかない。TRPGをあんまり知らない身としてはむしろ舞台版の情報収集ターンがTRPGの技能やサイコロの出目とイコールっていうことが直感的に分かったので、ある意味舞台から見て正解だったと思う。
もちろんカタシロはPLのアイデンティティの根幹の一端を見れるところが最大の武器にして魅力。だからはじめて出会うならば絶対に自分で通ってくれ!!というのは分かるし私もそう思う。
一方で「RPG特有のとっつきにくさみたいなのもめちゃめちゃ分かるんですよ。TRPGってまあだいたいの人がYouTuberがやってるのを見て、わ〜なにこれおもしろそ〜!って思うのはいいけど初心者でも受け入れてくれるKPとかどこにおんねん!となってしまって、自分で始めるにはなかなかハードルが高い。現に私も友人に頼み込んでカタシロをやってもらったわけだが、TRPGについてなにも知らないけど大丈夫!?と始めるまで終始不安そうだった。
これが舞台から入るとなると、まずクトゥルフだのTRPGだのというハードルがひとつ取っ払われる。次に一緒に遊ぶ人を見つけるというハードルもなくなる。この二つがなくなるのってけっこうデカくって、極論のチケットをとる②劇場へ行くという2工程でカタシロを体感することができてしまうので超カンタン。
ついでに、昨今初日の幕が上がるまでキャストとタイトル以外の情報がまるでない舞台みたいなのもたくさんあるわけで(これの是非については今論じることではないので一旦おいておく)、TRPG特有の「内容は言えんが面白いのでとにかくやれ!」みたいな一回性ともよく合っている。
カタシロ特有の話をするならば、元々サイコロを振る機会が最低限かつ全部失敗してもなんとかなりすぎるシナリオなので、即興劇としての相性は抜群だ。映画版のほうも見たが、映像は切り取ることができるし、第一演者本人が観客に見せるもの・見せない(見せたくない)ものの取捨選択ができなくなってしまう。やっぱりライトなオタクにおすすめするなら舞台版のほうだ。舞台なら観客に背を向ければ、物陰に際れてしまえば、表情はみえなくなるからね。
今すぐPARCO劇場に行ってReliveを見ろ
さて、長々とカタシロについてカタラセてもらったわけだが、なんと今週金曜日から渋谷のパルコ劇場でカタシロが上演されます。その名も、カタシロRelive。初めての有観客。私ももちろんチケットは購入済みだ。初日の白石加代子/相羽あいな回、土曜の木村達成/堰代ミコ回、月曜の足立梨花/藍月なくる回に行くつもりである(敬称昭)。
なぜこの回なのかというと、白石さんは大女優だし、たつなりと言えば大出世若手作優だしなくちゃはシンプルにSKP力(ぢから)がすごいから。芝居ガチ人選。せっかく劇場に行くなら本業の人たちを見たいじゃない?
ほかの回も魅力的なキャストが揃っているのでぜひ見に行ってみてほしいと思う。