舞台シャッハ配信感想
舞台ロールシャッハの名越先生・森永さんの回を見て、真っ先にこう思った。
「これ、舞台じゃないよね」
わたしは「舞台」を求めていたので拍子抜けした。 たまたま忙しい時に上演されていたから現地は行けなかったけど、もし行ってたらかなり(私の心とツイートが)荒れただろうなーと思った。なぜなら「舞台」ではなかったから。
一般に「舞台化」と言われた時、人はなにを想像するだろうか。私は演劇を思い浮かべる。鬼滅の刃、舞台化!ならキメステだし、呪術廻戦、舞台化!ならじゅじゅステだし、たまにミュージカルなこともあるけど、とりあえず舞台と言われれば昨今では演劇的な何かでメディアミックスされることを期待するだろう。
しかし、舞台シャッハはロールシャッハシンドロームの公開収録だった。
たとえばこれが「エモクロアTRPG ロールシャッハシンドローム 公開収録」とか銘打たれただったら納得できたと思う。 でもそうじゃない。「舞台」シャッハなのだ。だから演劇が見たかった。
そもそも演劇とはなんだろうか。
コトバンク曰く、「俳優が、舞台の上で、脚本に従って、体の動きとことばを通して表現する芸術。多くは、舞台装置、照明、音楽などの補助的要素を必要とする。劇。芝居。ドラマ。演戯。」らしい。わかるようで分からない。
演者が全身でなにかを表現する。セットがあって、音や光などの機構が演出を彩る。そうして物語が紡がれていく。観客がいて、演者の演技のもとに物語へと没頭していく。私にとって「舞台」とはそういうものだ。余談だけど私が朝夜のことを朗読劇じゃなくて台本持ってるだけの舞台じゃないか!と度々言うのはこれらすべてを満たしているからなのです。
なにがともあれ、そう、「舞台」と冠するからには私は演者の全身表現と機構と没入感が大事だと思っている。
で、本作はどうだったかというのを考えてみると、その条件を満たしていないなあと感じる。
演者。ディズムさんと「またしても何も知らないゲスト」方式。
セット。バスの座席を模した椅子が2脚と机がひとつ。あと後ろのスクリーン。
音や光。
ここまではまあわかるんだけど、「全身表現」があったかと言われると微妙だと思う。
バスの中での雑談シーンで座っているのは分かるのだが、そうだとするならばなぜ机が存在するのかが分からない。ここで言う「存在する」というのは、演者の動きの中で明らかに机を使用していることを指す。普通路線バスに机はないのに、だ。
そしてバスを降りて山に登る際もふたりの役者は椅子に座りっぱなしである。
再三言うが「舞台」ならばここでちゃんと立ち上がって歩いてほしかった。
歩き方ってめちゃめちゃふたりの関係性が出る演技なんだ。歩幅の違う他人同士がどんな位置で歩くのか、片方がもう片方に速度を合わせるのか、それともだんだん距離が離れていくのか、その時ふたりとも前を向いて歩き続けるのか、早い方が遅い方に話しかける時に振り向くのか、遅い方が早い方に追いつこうとして「ちょっと待ってよ」なんて言うのか。
演技・見る専の私ですらこれだけ出てくる。
座ったままで机を挟んで向かい合っているという構図ではこれらが切り捨てられてしまう。あまりにも勿体ない!
そして極めつけに机の上でダイスを振り出した! これが一番の違和感だ。
装置として机が存在するのは、つまるところこの「ダイスを振る」という行為のためと言っても過言ではない。このダイスを振る行為が挟まることで、演者は演技が途切れることとなる。
ディズムさんは極力「聞き耳?なんの事ですかねえ」とすっとぼけていたのだが、そもそもすっとぼけざるを得ない状況になってしまってはいけない。演技が途切れゲストが物語を動かすメタ的な要因=ダイスに目を向ける時、観客もまた一瞬現実世界へと意識が途切れることとなるからだ。
いつどこでもインターネットに繋がるこの時代にわざわざ映画や舞台を観るのはなぜか?といった問いが投げかけられるとき、その答えのひとつとして「一時的に現実世界を忘れて物語だけに集中できる環境だから」というのが挙げられる。しかし、この集中を途切れさせる要素が後半で何度も出現する。あの瞬間だけ「舞台」が「TRPG」になってしまう。
いや、一瞬だけではない。「机を挟んで」「言葉のみで物語を紡いでいく」こと自体がそもそも「TRPG」であり「舞台」ではないのだ。なんてったってTRPGとはテーブルトークロールプレイングゲーム。ディズムさんとゲストが机を前に対話するという構図が確定した序盤からすでにこれは「TRPG」であり、「エモクロアTRPG ロールシャッハシンドローム 公開収録」なのである。
余談だが『カタシロRebuild』については私は「舞台」であったと考えている。
役者ふたりが全身で表現し、それを実現させるための機構があり、物語に没入できたと感じたからだ。
ここまできたらディズムさんの中での「舞台」「演劇」の定義を知りたいところではあるけれど、ラジオに投稿してファンとの交流に水を差すのも申し訳ないし、うーん。どうしたらいいんでしょうね。
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