夏は書道!
同じ法人で複数の印章を作る場合には、印影でどの印章で押印したか特定できるように印章に刻む書体は被らないようにする。会社でグループ内の印章を発注するような部署にいるので、書体に関する解像度が多少は高くなる。それでも知らないことばかりで、『とめはねっ!鈴里高校書道部』で、篆書の時代は文字は筆で書かれるものではなく、骨や石に刻まれるものであるから、篆書体はハネもはらいもない書体なのだ、という説明に対して、改めて新鮮に驚く。
大学時代、塾講師のバイトをしているときにホワイトボードに書き付ける文字は見栄えが悪く、ペン字でも習おうかとぼんやり考えていた頃、父は既に定年退職していて、こっそりと硬筆を習っていた。父は自室に閉じこもり、自分の努力をさらけ出すこともなく、硬筆を練習していたようで、数年前からどこかの協会から賞を受賞するようなレベルまでになっていた。どれだけすごいのかネットで調べようとしたけれど、書道の団体・協会が無数にあって、門外漢の僕には賞の名前だけではすごさは分からなかった。
毎年夏頃に上野の美術館で1週間程度、色んな協会の書道展で受賞した作品が展示されている。毎年、父からチラシをもらうけれど、なかなかタイミングが合わなかったのと、今までは書道に対してたいして興味を持てなかったので、足を運んでいなかった。でも、今年は多少興味を持つようになって、観に行くことにした。
マティス展が開催されている東京都美術館の2階の展示室で父の作品が展示されていた。『とめはねっ!鈴里高校書道部』を読んでるから、夏といえば、書道!という気になっているが、思い起こせば、書き初めをするのは正月なので、自分だけのイメージなのかもしれない。硬筆、とだけ聞いていたから、鉛筆で書いているのかと思ったら、万年筆か何かで書いているようだった。くずし字で書かれているその作品を読み解くことは僕には難しかったが、とても高い水準の書なのではないか、と感じた。普段の父の様子と格式高いその書が結びつかない。20数年間一緒に暮らしていても、知らない部分はある。そういうことを思う。
刺すような暑さに体力を消耗して、寄り道せずに帰る。その日の夜は隅田川の花火大会があって、テレビ東京のYouTubeチャンネルで佐久間宣行とアルコ&ピースの酒井健太が生配信していたから観た。花火大会を観に行ったことはないけれど、4年ぶりの花火大会で地元の人が嬉しそうにしていると聞いて、なんだか嬉しくなる。配信にはテレ東の社員が多く出演していて、昔話をしていた。内輪ネタと感じる人もいるのだろうが、仲の良さを感じさせて、テレ東の雰囲気の良さみたいなものが伝わった。
前日は会社の仲の良い人たちと終電まで飲んでいた。僕は飲み会にあんまり行かないけれど、その人たちはよく飲み会に行く人たちで、〇〇部の部長と飲んだ、あの人は〇〇だ、みたいな話になった。僕は仕事中であれば、他部署の人と飲み会してまで交流を深めようとはしていない。そこまで他部署の人に興味を持てないのはなんでなんだろうか。人柄を知らずに、仕事の進め方みたいな部分しか知らないし、会社の事業もいまいち好きになりきれずにいるから会社の人と仲良くなろうという意識が低いからではないか、と思っている。終電で最寄り駅につくと、近所に住んでいる後輩がたばこ1本いいですか、とたばこを吸い始めて、そこから朝まで立ち話をしてしまう。その後輩とはその日までちゃんと話したことがなくて、実際に話してみたら、自分と同じゆる言語学リスナーだったり、共通点を見つけて、色々話し込む。価値観の違いもお互いが歩み寄れば、会話の面白さにつながる。どうしても外側だけで判断してしまいがちだが、話してみないと分からないことはいまだ多い。
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最近、魚豊の『ひゃくえむ。』を読み返した。この漫画はとにかく熱く滾るような気持ちにさせてくれるから好きで、背中を押して欲しくなるような時に読む。主人公のトガシや財津といった才能にあふれていたけれど、心が一度折れてしまった奴らがそれでも諦めきれずにこれしかないと再起する瞬間がめちゃ良い。プロ契約の打ち切りを言い渡されて、「俺はとっくに終わってるんだ」と涙がこぼれて膝を折るトガシが、「全身全霊で勝負するのは、誰かに評価されに行くのは、震える程怖い。憂鬱で、不安で、心配で、辟易して、焦って、悩んで、億劫で、とてつもなく嫌気がさす。でも、少し、本当に限りなく、極、極僅かな一瞬だけワクワクする。その一瞬の為なら、何度だって人生棒に触れる」と、覚悟を決めた瞬間に心躍らない人はいないはず。小学生にさめたリアクションをさせて、トガシを若干痛い奴っぽく描くバランスのよさも良い。僕もそこまで情熱を注ぐことのできる何かを求めているが、今の職場の同僚たちにはその熱量はない。だから、転職活動でもするか、という気になっていて、ビズリーチからスカウトが届いた企業に面接の依頼をして、2日後に一次面接。去年のように、対策不足で落ちないように勉強しなければ。
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