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親切なお爺さんの正体/ 優しさってなんだ?

 
 とある県の民話をひとつ紹介してみましょう。かなり衝撃的……!かどうか分かりませんが、親切の本当の姿が見えてきます。

ある山奥の村に、2人の姉妹が住んでいました。
姉は美保10歳で、若干勝ち気な性格をしていました。これに対して妹の舞は9歳で、姉とは正反対の優しい性格をしていました。ある日妹の舞が母親に言いました。

「お母さん、峠にきれいなお花が咲いているって聞いたの。だから明日峠まで登っていい?」

最初お母さんは「女の子がひとりで峠まで行くなんて危い」と思って反対しましたが、あまりに舞が行きたがるので、渋々お母さんは承諾しました。

次の日お母さんは大きなおにぎりを2つもたせてくれました。
「気をつけて行くんだよ。日が暮れる前に帰ってくるんだよ」

こうして舞はランラン気分で山を登って行きました。
2時間かかって峠に差し掛かったところで、舞は大きく眼を見開きます。思った通り、きれいな花がたくさん咲いていたからです。

「うわ~!本当にきれい!」

舞ちゃん

しばらくしたところでお腹が空いてきました。
そこで舞は、そのきれいな花の下でおにぎりを食べることにしました。

舞が持ってきたカゴの中からおにぎりを取り出して食べようとしたところで、突然、どこからともなく老人が現れて、舞いにこう言いました。

「お嬢ちゃん、昼めしかい?」
「うん、今からこのきれいなお花の下でおにぎりを食べるの」

「ほぅ、それはよかったね。それにしても随分大きなおにぎりだね。お嬢ちゃん一人で食べきれるかい……?」

「うん、多分大丈夫だと思う」
「実はおじいちゃんもお腹が空いちゃってね。朝から何も食べていないんだ。よかったらひとつワシに分けてくれんかのぅ……?」

舞は少し考えて、こう言いました。
「うん、いいよ。おじいちゃんに一つあげる。もしかしたら私一人では食べきれないかもしれないから……」

たいそう喜んだ老人は、帰り際に舞にこう告げて姿を消しました。

「お嬢ちゃん、帰るときはここを下がって行くと大きな杉の木があるから、そこを右に曲がりなさい。いいものがあるから……」

舞が言われた通りに坂を下って杉の木を右に曲がると、そこには大きな畑がありました。辺り一帯真っ赤で、思わず舞は歓声をあげました。

イチゴちゃんです

なんとそこはイチゴ畑だったのです。舞は大喜びして、手当たり次第にイチゴを摘んでカゴの中に入れました。
カゴいっぱいになったイチゴを持って家に帰ると、お母さんと姉の美保が驚いていいました。

「いったいどこでこんなたくさんのイチゴが生っていたの」
「……おじいさんが教えてくれたの」
 
次の日、今度は姉の美保が言いました。
「私も峠に行ってくる。お母さんおにぎりを作って!」
 
美保が峠に着いて、花の下でおにぎりを食べようとしたところで、同じように老人が現れて言いました。
「随分大きなおにぎりだね。どうだい、よかったらワシにひとつ分けてくれんかのぅ。朝から何も食べていないので腹が減っちゃってのぅ」

ところが、ここで美保はうんと言いませんでした。
「私、大食いだからダメ。2つ食べないとお腹いっぱいにならないの。だからあげられない」

そう言って美保は、美味しそうにおにぎりをほお張りました。
帰り際、やはり老人は美保に同じことを言いました。
ところが老人は、舞には「杉の下を右に曲がって……」と言いましたが、今度は「左に曲がって……」と言いました。

親切な老人?

美保はそらきた!と喜んで坂を下って行って、杉の木を左に曲がりました。
果たしてそこには大きな畑があり、真っ赤なイチゴがたくさん生っていました。
「やった!」そう思って美保は手あたり次第にイチゴを摘み、カゴいっぱいになったところで、家路につきました。

家に着くと美保は、勝ち誇ったようにカゴの中を母親と舞に見せました。
「どう、凄いでしょ!」ところがここで2人は、歓声ではなく「キャァー」と叫んで後ずさりしました。

なんと、カゴの中のイチゴはどこかへ消えて、代わりにへビやトカゲ、カマキリなどの昆虫がいっぱい入っていたのです。
 
民話はここで終わりです。
それにしても恐ろしい民話ですね。この民話は一般的な解釈をするならば、こう言いたいのでしょう。

「人に親切にすると、親切が返ってくる。人に不親切にすると不親切が返ってくる」

確かに親切な舞には褒美が与えられ、不親切な美保には罰が与えられました。ですので、この民話はもしかしたら「因果応報」を間接的に説いたものなのかもしれません。

しかし私は、この民話に大いに疑問を持っています。

果たして登場した老人は、本当に親切なのでしょうか?
私はそうは思いません。よく考えて見ると、

この老人はいたいけない少女に、恨みを晴らしたのです。


おにぎりをもらえなかった腹いせに、罰を与えたのです。イチゴの代わりに、ヘビやカマキリなど、人が忌み嫌うモノをぶつけて復讐したのです。

本当に大人気ない老人だと思います。
でも、世の中にはこうしたケースは結構あります。
親切な人には温情を、逆らう人には罰を与えたくなるのが人情だからです。
よくよく気をつけて下さいね。

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