テントの中でみるのだ。「ものがたりの家 吉田誠二 美術設定集」
ページをめくるたびに興奮で毛穴も開く(私の場合)そんな1冊です。
「ものがたりの家 吉田誠治 美術設定集」
パイ インターナショナル
もともと建築パース、鳥瞰図や模型を眺めるのが好きなので、この本はどストライクです。
吉田誠治さんは背景グラフィッカーとしてゲームの背景や装画を手掛けられている方です。私はゲームをほとんどやらないので、この方を知ったのは書籍からでした。書店の平積みで出会い、その場で夢中でページをめくって、しばらく時間が経つのを忘れていました。
多くが見開き1ページの構成で、左に建物の外観、もしくは部屋のパース絵と、右に部屋の鳥瞰図が描かれています。そこに暮らす住人は主に独りで何等かの理由があってそこに住んでいる。吉田さんの設定した背景のト書きも簡潔にテキストで添えられています。
恐らくリサーチを徹底されているのでしょう。架空であるはずなのに、どこか史実とつながっているような、情景を素直に受け入れさせる納得材料が散りばめられています。
私がびりびりと感動したのは、絵を見て物語が「はじまる」のではなく、
「物語が動いている」と感じたこと。何回開いても絵は同じなのに、開くたびに物語が移動している。さっき流れていた時間とは別の気配が漂ってきます。
例えばさきほどは、部屋の住人は起きて間もなくで、ベットの上でぼんやりと窓から外を眺めていた余韻が漂い、しばらくしてまた同じページに戻ると、今度はつつましい朝食を食べおわった気配を感じる。
すごいなぁ。おもしろいなぁ。
建築で見る鳥瞰図とちがって、この本では住人の生活が、個性がしっかりイラストで落とし込まれているからでしょうか。気分はまるで「借りぐらしのアリエッティ」のハルさんのよう。バリバリバリと無理くり屋根をはがさずとも、頁をひらくだけで、ひょいと人の暮らしをのぞいてしまうような秘密めいた行為。
ページを1枚めくるたびに全く違った物語がすぐ展開するので、なんだか頭が忙しい気分です。これはもう1ページをじっくりと眺め、味わいながら住人の世界に浸るのが得策。
いいなぁ。楽しいなぁ。
「よし」
私は誓いました。
こんど、キャンプに行くときに絶対持っていこう。
これを、絶対テントの中で見るのだ。
雨の日のキャンプなんてどうでしょう。
やることないとすぐに飽きてしまう息子と寝袋に並んで、想像の物語を語りあおうか。息子の家の好みはアタリはつきますが、どんな住人を住まわせているのか、丸くなって物語のつづきを話してみたくなりました。
私のお気に入りはこちら。
・水没した都市の少女 A Girl in the Submerged City
・几帳面な魔女の家 Methodical Witch's House
・羊飼いの見張り小屋 Shepherd's Hut
仮の隠れ家(テント)の中で、ものがたりの家の秘密をひそひそと。