新作小説 革命と英雄(1)
【第1話 Mという現象】
「M」とは、今から四年前に突如として現れたインターネット界の社会思想家だ.
彼は自らのSNSに「今の老いた政府に侵略者から国を守る力は無い。私達はそれぞれが立ち上がり、強い政府を作らなくてはならない。」と主張した。
当初、その主張は誰の目にも止まらなかった。
しかし、様々なインフルエンサーやジャーナリストがそれを拡散したことで、「M」は人気となり、今では国内に200万人以上のフォロワーを抱えるインフルエンサーとなった。
なぜ、彼らが突如として「M」の活動を支えたのかは不明であるが、「M」の主張は、成長性を失った年老いた国家の国民、特に若者との相性は非常に良かった。
僕もそんな若者の一人である。
そして、「M」の支持者は各々に「M」について考察し、瞬く間に「M」の物語を作り上げていく。
その内、人々はその物語にある矛盾に目を背け、それを信じる者としての優越心に価値を見出した。
Mのムーブメントが加速し、フォロワー100万人になった頃、「M」はある呼びかけを行った。
「まもなく政府は解散総選挙を行うだろう。今、私達が支持するべき政党は、改新党だ。改新党の佐々木先生だけが本当に私達、若者の意見を聞いてくれる。」
いきなり特定の政党への支持を呼び掛けたMの発信はフォロワーをやや混乱させた。
何故なら、これまでのMの発信は、改新党のステルスマーケティングではないかとの推測を呼んだからだ。
しかし、それでも半分以上のフォロワーはMを支持した。
僕は一瞬、「改新党のステルスマーケティングだ!」との意見にハッとしたが、よくよくその主張をする人々のアカウントを見ていると、常日頃Mのネガティブキャンペーンを行うアカウントばかりだった。
彼ら(Lの支持者達)の主張など聞くに値しない。
それらの意見よりは、ここまで僕達を導いたM達の発信の方が遥かに信憑性が高い。
しかも、改新党の議員は与党の保守党よりも平均年齢が低く、若者政策を多く取り扱っていた。
僕は、人生初めての選挙は「改新党に入れる」と決めた。
それから少し経つと、Mは「選挙ポスターを貼るボランティアを募集する」と投稿した。
今までオフラインで集まった事の無かったMのフォロワー達であったが、「Mに会えるかもしれない」との期待もあって9000人もの人々が集まった。
これはメディアでも大きく取り上げられることになる。
テレビでは、ネット上の存在に支持者が群がる新興宗教のように報じられたが、支持者達は、「テレビは乗っ取られている」、「テレビを見るな!」といった形で反論した。
また、各メディアは「Mの正体は佐々木氏ではないのか?」という疑惑を報道したが、佐々木氏はこれをキッパリと否定した。
佐々木氏(佐々木 拓哉)は30代にして、当選二回の若手政治家だ。
佐々木氏の父は、過去一度大臣を経験した事のある保守党の政治家であり、都心に弱い保守党の中でもその地盤を守り続けた。
その地盤を引き継いだ佐々木氏は最初の選挙は保守党から立候補し、当選したが、保守党の膠着した政策に不満を持ち、同じ志を持つ無党派の国会議員と共に「改新党」を立ち上げた。
それによって今では、ずっと地盤を守り続けてきた父と犬猿の仲になっているようだ。
Mがボランティアを呼びかけたその日、僕自身もボランティアに参加する事にした。
そこには、Mの支持者を表す服を着た人もいれば、一見普通の人にしか見えない格好をした人もいる。
ただ、何となくそこには「同じ目的を有する仲間意識」みたいなものが何となく感じられる。
しばらくすると、MはSNSにこのように投稿した。
「集まってくれた人達は、壇上の3人に注目してくれ。」
それぞれが投稿に気付き、壇上に注目し始めると、大学生くらいの男性3人が大きな声で訪れたボランティアを指揮し始めた。
彼らは、まず、集まったボランティアの中から10人のチームを作り、それぞれのチームリーダーを用意するよう指示した。
ザワザワと混乱しつつも、少しずつチームが出来上がってゆく。
次に先程のチームリーダー同士を10人集める事で、100人の一部隊とする。
最後にその一部隊の中の指導役として、壇上の3人の近くにいた協力者が部隊に加わる。
そうする事で、中央の3人は全体の人数を把握し、全体を組織化する。
そして、組織が出来上がると、中央の3人は、「作戦通りに。」と告げ、指導役は、人々を各エリアに案内した。
驚く程に手際が良い動きだ。
きっと元々僕たちの前からMに近い組織が出来ていたのだろう。
各エリアに着くと、指導役はポスターの貼り方を説明しつつ、最初に決めた10人のチームを再び採用してエリアの中での役回りを配役する。
すると、自分も周りも与えられた役目を淡々とこなしていった。
各個人が自分の役を終えると、10人のチームのリーダーに報告、その事を指導役に報告する。
活動を終えると、指導役は作戦達成を中央の3人に報告した。
そして、最後に、指導役の女性が「同志の皆様、今日は集まって下さりありがとうございました!」と告げ、解散となった。
あっという間であったが、何だか一つの作戦を完遂した達成感がある。
気付けば、周りは空に夕焼けが浮かぶ時間となっていた。
「帰えるか」、そう思って帰路に着こうとした矢先、後ろから声を掛けられた。
「一緒にグループチャットを作りませんか?」
そう僕に話したのは、最初のチームのリーダーになった男性だ。
少し年上の男性だった事もあってか、少し驚きつつもそれに、「良いですよ」と答え、10人のグループが出来上がった。
どうやら周りでも似たような事が起きているみたいだ。
M達は、集まった9000人をこの一度のボランティアによって組織化する事に成功した。
第2話 「選挙」
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