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恋の演出 (宗安小歌集16)

「あちき花の下に 君としつと手枕入れて 月を眺みような思ひはあらじ」(宗安小歌集)

想い人とのせっかくの逢瀬なら、その場所はロマンティックに二人の恋を演出してくれる場所でありたい。
そう想うのは当然だから若者たちはその恋を演出するために、様々な趣向や工夫をこらす。

しかし自然の演出ばかりは本人の意思の届かない、いかんともしがたい。
たとえば、昼間なら鳥のさえずりが穏やかな調べを奏で、太陽の日差しはどこまでもやさしいぬくもりで、木陰の陽だまりがカーテンレースのように二人の体に影を落とす。
夜ならば、満天の星がきらめき、満月をすこし覆う雲がしずしずとたなびいている。そんな自然の演出を期待したいけれども、

現実には台風のような大雨、大風が襲ったり、雷雨に襲われたり、あるいは季節外れの暑さに気分がもりあがらなかったり。
なんとかたどりついたホテルははあまりに古く、汚く、みすぼらしかったり。

そんなときは天が二人の恋を邪魔しているような気持ちにもなるかもしれない。

まだ確立していない恋というものは、それだけ雰囲気に影響されてしまうものだから。

しかし一方、恋はどんな劇的なドラマもかなわないような展開をしてくれることもあり、
先ほどまでの土砂降りの雨が上がり、天に素晴らしい虹がかかったり、
みすぼらしいホテルが、実は有名な歴史的な恋を演出した老舗であることが後からわかったり。

シナリオのないドラマであるのもまた、恋の素晴らしさ。

紆余曲折の後、互いに体を重ねた時には、どんな場所でもどんな環境でもどんな季節でも、二人の上には、満開の桜が咲き、その間からは天空に懸かる満月の光が降り注ぎ、二人の汗を照らしてくれる。

でも何よりも美しい演出は、私の手枕でくつろぐあなたの乱れた髪。

「あちき花の下に 君としつと手枕入れて 月を眺みような思ひはあらじ」(宗安小歌集)

月と花とあなたが3つそろったら、これ以上の贅沢はないのです。けれど月と花があってもあなたがいなければ恋にはならない。

月と花がなかったとしても、
あなたの髪があるだけで、それだけで最高の演出。
私の腕があるだけで、あなたにとってかけがえの無い演出。

そんな恋の心境にいたるまでの過程。
それもまた演出かもしれない。

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