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日本語の発声のおけいこ

あなたの声は美しい。

その鈴を転がすような響きは日常の会話の時ですらも、
この耳を心地よくさせてくれるというのに、
情交の最中のその声は、天使の声から魔女の声まで様々な音色を私に聴かせてくれる。

まさにそれは私だけが聴く事ができる、あなたひとりで奏でる合唱隊。

そして私はあなたの発声のおけいこの指南役。

「ああ…」

あなたの柔らかくなだらかな曲線を描くその皮膚を私のこの指で撫でる時。

「いい…」

あなたの敏感な部分を巧みに刺激し、やがてはひとつになる時。

「うう…」

容赦なくあなたを攻め続け、時として痛みにも近い刺激を与える時。

「ええ…」

私があなたの予期せぬことをし、驚きと恥じらいをあなたにもたらす時。

「おお…」

あなたが体の芯から燃え上がらせ、めくるめく官能の嵐に投げ込む時。

ここまでのあなたの声は、美しい日本語の母音を綺麗に発音し、
その「あいうえお」のすべては、天使の奏でる美声。

そして私の意のままに美しい音色を奏でる名器の如き。

多くの演奏家の垂涎の的になる名楽器の如き。

それなのにいつの間にか、あなたの美声はもはや日本語の体裁など失い、
濁音が混じり、狂い乱れる魔女の叫びのような、野獣の雄叫びのような、
おどろおどろしい声に変わっている。

あんなに上手におけいこしたのに。

それでもあなたの声は、美しい。

私もいつしかその声に狂い乱れてゆく。
ローレライの歌声のように。

「あ、い、う、え、お」

あなたはどの発声が一番お得意?

それとも言葉にならない叫び声?

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