【TXT】Tinnitus(Wanna be a rock) 歌詞の和訳と詩の解釈─idleからIDOLへ─
ワルツ『ACT: SWEET MIRAGE』がいよいよ出航しましたね! 日曜日にオンラインで観ましたが、最初から最後のサプライズソングまで感動の嵐でした〜!! 今からイルコンもすごく楽しみです。
さて。今回もアルバム「The Name Chapter: TEMPTATION」より、4曲目『Tinnitus 돌멩이가 되고 싶어(耳鳴り:石ころになりたい)』を和訳・考察してみました。この曲、「石ころになりたい」と願うこじらせ男子の歌だと捉えれば、聞き手も悲しい気持ちのままに、ジ・エンドです。
ところが、あちこちに隠されたイースターエッグ(隠しメッセージ)を掘りおこしてみると、別の意味が浮かび上がってくるのです。
言葉遊びがふんだんに詰め込まれた曲なので、すべての意味を辿っていくと、「えーっ、まさか…そういうことだったの?」と大事件を匂わせる解釈もできる曲ですが、ここでは、タイトルに掲げた通り、「アイドル(idle/idol)」をキーワードに和訳を試みました。
Tinnitus (돌멩이가 되고 싶어)
Produce: Dystinkt Beats, Smash David
Songwritint:Ebby, Dystinkt Beats, Smash David, David Cabral, TAEHYUN, 전시은, YEONJUN, 이스란, STELLA JANG, 조윤경, danke, 1월8일
2023.1 The Name Chapter: TEMPTATION 収録
そう、そう
音がしてるんだ
ブンブンと
ねぇ、なりたかっただけなんだよ
イケてるヤツにさ
毎日、週末みたいなパーティー
調子にのって、絶叫すれば
果てはタイムラインが炎上さ
昨夜はNG、ダメ出しで溢れかえった
僕から溢れたのは、ため息さ
わかってる
ロックスターにはなれないって
耳をふさいでも
ボーっと放心状態が大きくなる
ガランと空っぽなのに
せつなくなるよ
まるで水槽に浸かったみたい
ボーっと耳鳴りだけが
ズーっと響くんだ
ばか騒ぎはもぬけの殻で
ひとりぼっちが辛いんだ
ロックスターからスターを取れば
ただの石、だよね?
夢を見てたんだ
なにも知らないままに
騒がしかった夜明け
空しさだけが後に残る
満杯なのは耳鳴りだけで
塞いだみたいに何も聞こえない
そうさ、僕は欲しい
歓声、名声、僕だけの歌声が
僕はひたすら、孤独で、寂しい、そう
ただの石ころさ
そんな才能ないんだ、ホントのところ
認めるよ、 "生まれながら"じゃないってこと
どう見たって、特別な存在じゃない
キラキラしてた夢が
消えかけてだいぶ経つけど
時間も体力もムダにしてる
僕は石ころにでもなるさ
パーティーの後
ボーっと放心状態が大きくなる
ガランと空っぽなのに
耳がよく聞こえないんだ
まるで水槽に浸かったみたい
ボーっと耳鳴りだけが
ズーっと響くんだ
ばか騒ぎはもぬけの殻で
ひとりぼっちが辛いんだ
充実した人生を送りたいさ
だけど僕はちょっと空回り
何なんだろう、僕の存在
誰か答えを教えてくれないか
石ころだってまぁ
いいじゃないか
ただ転がるように
僕だけのロックンロールさ
そうさ、僕は願う
たどり着きたい、僕の道
ひたすら僕は
歌って、踊って、転げ回って、そう
石ころそのもの
僕は手にしたいんだ
貴石のような僕だけの道
ひたすら僕は
歌って、踊って、磨かれて、そうさ
まさにアイドルに
ダブルミーニングな buzzing sound
羽音?耳鳴り?それとも通知音?
buzzing sound は耳元でブーンとうなる音のこと。虫が飛びまわる音や機械などが振動して出す音を表わしています。思わず唸ってしまうのは、冒頭のこのワードだけで、色んな解釈ができることをほのめかしているからです。
①「虫が飛ぶ羽音」の意味に捉えれば、主人公はまだネバーランドにいる(あるいは、ネバーランドの日々を振り返っている)状態。
②「耳鳴り(「buzzing」単体で耳鳴りの意味)がしている(動詞としての sound)」なら、前の曲「Happy Fools 」の流れから、パーティー明けの二日酔いを匂わせます。
③「電子機器の振動音」だとすれば、祭り(夢)の後、現実に目覚めたらスマホの通知(マナーモード)に気づいたということでしょう。続く歌詞では「イケてるやつになりたかっただけなんだよ」と言い訳していることから、SNSでバズった(ただし炎上によって…)通知の嵐を示唆しているようにも思えます。
たくさんのフィルターとは
「feed is a disaster 」のフィードは、インスタグラムのフィード、すなわちSNSのタイムラインでしょう。「잔뜩 필터 씌운(たくさんフィルターをかぶせた)」は、歌詞直前の「大惨事(炎上)」から、「制限された/修正された」という意味かと。
文字通りであれば、それを見た人たちから、削除(ブロック)されたり、部分的に塗りつぶすような、何らかの修正がされた画像を拡散されたということでしょう。ここではそれを、絶叫した(볼륨을 higher)パーティーの様子をSNSに上げたら、NGやダメ出しコメントが押し寄せたと訳してみました。
あるいは、もう少し現実的な解釈をするなら、仕事や学校を休んだ日に、気晴らしにストレス発散した様子をSNSに上げたら、「何やってるんだよ」と小言のコメントがあふれたのかもしれません。ここのくだりは、「Happy Fools」の「2023 DREAM WEEK Special Clip」にて披露された、ヨンジュンのラップパートの歌詞に重なるように思えます。
ちなみに rockstar は、文字通りロックスターや大スターのほか、ドラッグに溺れたり、パーティー漬けの生活を送っているような人にも使います。
この曲を「Happy Fools」な日々の振り返りだと解釈すれば、「ロックスターにはなれない」の意味が、「甘い夢ばかり見ていられない」という気づきの歌とも考えられますね。
돌멩이と rock の意味は「石」だけじゃない?
『夏の夜の夢』をヒントに
前回投稿した「Happy Fools」の記事では、アルバム全体にシェイクスピアの『夏の夜の夢』のモチーフも散りばめられている、と書きました。「Tinnitus」で大きなヒントになったのは、以下のセリフです。
そこから、돌 は韓国語でアイドルを指すこともあるので、 돌멩이 は、「路傍の石:ありきたりの人」だけでなく、「アイドル:憧れの対象となる人」の意味も重ねているのではないかと推測しました。「ドル+メン+이」で「(メンズ)アイドルに」と掛けているのではと。
rock の意外な意味
同じ「石ころ(岩)」を意味する rock は、曲の中では表向き「ロックスター」や「ロックンロール」「石ころ」としての意味しか示唆されませんが、rock は時に「宝石」や「ダイヤモンド」の意味で使われることも。
欧米では、男性が恋人にダイヤモンドの指輪を贈る際、「I will be your rock.」と言って渡すのだそうです。「(この世界は混沌としていて、どんなことが起こるかもわからないけど)僕は君のためにここにいるよ」という意味がこめられているそう。
なんだか、これまでの曲やLIVEでの彼らのメッセージとも繋がるように思えるのは気のせいでしょうか。
歌詞に登場する上記 の "it" には、ひょっとしたら、そんな想いも込められているかもしれませんね。あるいは、rock は動詞では「カッコいい、最高」の意味としても使われるので、その意味もこめているかもしれません。
ただ、歌詞の前半では「イケてるヤツになりたかった」とあることから、最初の「want it」では、まだ(練習生にもなっておらず)表面的なカッコよさに憧れていただけかもと捉えました。歌詞後半に登場する「rollin'」の roll に「響かせる」という意味もあることから、ひとつめのフレーズは、カッコよさを声にかけて「歓声、名声、僕だけの歌声」が欲しいとしてみました。
後半では、「石ころでもいいじゃない、転がるように、僕だけのロックンロール」と歌っています。ここで、ありのままの自分を受け入れたのだと捉えました。そこから、「転がる石」の行き先として「たどり着きたい、僕の道」とし、最後のフレーズでは「貴石(宝石の意)のような僕だけの道」を手にしたいと訳してみました。
※「굴러가는 게(転がるように)」の元の動詞 굴러가다 には、「ことが進む」の意味もあることから、訪れたスカウトのチャンスを得て練習生になった時のことを示唆しているのではと思っています。
lonly から rollin' へ
先にもふれた「転がす/転がる」の意味から転じて、roll は、奏でる、歌う、つき進むなど、さまざま意味でも使われます。
最初は「그저 난 lonly, lonly・・・(ひたすら僕は、寂しい、寂しい)」とだけ嘆いていたのが「그저 난 rollin', rollin', ・・・」となり、ここでスイッチが切り替わったんだとわかります。
『Sriracha』のダンスプラクティスが初めて公開された頃だったか、、、テヒョンは以前、「あの頃(練習生の頃)、プロデューサー陣のイチオシはヒュニンカイで、僕なんて歌が下手で」と、V LIVE(現 Weverse Live )で話していたような覚えがあります。
そんな風に、悩みながらも人知れずたくさん努力を重ねてきたであろう彼らの姿に重ねて、rollin', rollin', …を「歌って、踊って、転げ回って」と訳してみました。最後のフレーズでは、石が転がるうちに凸凹がなくなっていく様から、「磨かれて」を添えています。
彼らの視点で見つめる歌詞の意味
ところでこの曲、テヒョンが作詞に加わり、アルバムの中で彼の一番好きな曲だと言っていましたね(クレジットの順番を見ると、もしかしたら割りとメインに近い作詞メンバーだったのでしょうか)。そんな背景から、ちょっと深読みをしてみました。
나태を英語に置き換えると
まずは歌詞の後半部分より。
갓생とは、英語のGod(神)と、韓国語の인생(人生)を合体させた造語で、模範的で充実した人生を指す言葉だそうです。
돌멩이 にはアイドル(idol)の意味もあるのではと前述しましたが、怠惰を示す単語 나태 を英語にすると、これまた同じ”アイドル”の響きを持つ idle に。隠された言葉遊びが面白いですね。
怠惰と言えば「Happy Fools 」でも、「僕は最高にぐうたらなスーパーマンになる。怠惰の味は心地いいよ」と歌っています。けれど、この曲での独白は、「僕の存在は何なんだろう?誰か教えて」と続きます。
どこか、ヒュニンカイがコロナ最盛期に「ステージに立ってもお客さんがいなくて、僕はほんとうに歌手なんだろうかと悩んだ」と話していたことにも重なるようで胸が苦しくなります。
そこから、この idle は、車などがエンジンは掛かっているのに動いていないアイドリング(前に進まず立ち止まっている)状態ではと捉え、「転がる石」と絡めて「空回り」と訳しました。
ボクシングからの言葉選び?
少し前のフレーズに戻ります。先の idle には「試合がない」の意味もあるのです。そこで、every second は、ボクシングのセコンド(試合中、選手にアドバイスしたりケアをする人のこと)も掛けているのではと考えました。
「すべてのセコンドをムダにしている=試合がない」という意味ではと。
そこから「時間も体力もムダにしてる」と解釈しました。蛇足ですが、Wasting の綴りとは違うものの、同じ響きの「ウェスティング」という名のボクシング用品メーカーもあるようですよ。
”生まれながら”と言えば
'born to be'と、引用符で囲まれたこのフレーズは、『Thursday's Child Has Far To Go』の歌詞、「Born to be a Thursday’s child 가야 할 길이 많은 아이」(木曜生まれの子どもは、進むべき道がたくさんある)からの引用なのでしょう。
さらに。忘れてならないのが、テヒョンの名言「人は才能を持って生まれなければいけないのではなく、努力を持って生まれなければいけないというのを、僕がいつか証明したい」ですね。
アルバム「The Name Chapter: TEMPTATION」はリリース初週にダブルミリオンを達成し、「Billboard 200」には現在、8週連続で100以内にチャートイン(この偉業は、ほかのK-POPグループでは先輩グループの BTS だけだそうですね)! 「Sugar Rush Ride」のMVはすでに1億回以上の再生数を誇り、今年はあの「ロラパルーザ」でヘッドライナーに抜擢されたことから、すでに彼らの努力も実力も十分、世の中に証明されたんじゃないでしょうか。でもきっと、これからも、たゆまぬ努力を続けていくのでしょうね。
5人のひたむきさや誠実さ。その濁りのない輝きには、我が身を反省するばかりの今日このごろです。
*****☆**
「耳鳴り」に、心の揺らぎを重ねたこの曲。ウィン、モーン、トーンなど、アフロビートに連なる曲中のオノマトペからも、心の苛立ちや葛藤が伝わってくるようです。
パーティーの賑わいの後、静けさを満たすのは耳鳴りだけ。rockstar(ロックスター/有名人)と rock(石ころ/凡人)、リア充と孤独…。夢と現実のあざやかな対比が、歌詞をひもとくほどに切なくなっていきました。
同時進行でアルバムの考察記事もすすめながら、思いがけず自分の心の古傷も思い出してしまったりと、感情の波立ちが大きかったこの頃ですが、돌멩이 や rock はアイドルや宝石の意味ではないかと気づいた時、ありのままの自分を受け入れて輝こうと決意した曲だ!と思い、なんだかこちらも心が救われたようで、胸がいっぱいになりました。
余談ですが、rock を使った言葉で氷砂糖を指す「rock sugar」があります。”ロックスター”と響きが似ているところが面白いですね。アルバムが、形のない sugar から、固い rock へと進んでいくあたりも興味深く、意味がありそうです(このあたりの考察はまた後日…)。
そして、「石になりたい」と言えば、BTSのユンギさんの言葉を彷彿とさせますね。テヒョンがユンギさんのおうちに遊びにいったと、ラジオ番組で明かしていましたが、やはり曲作りについての相談もしたのでしょうか。ユンギさんの『슈취타』に、テヒョンも呼んでもらえたらうれしいなぁと願っています。
今回も予想外に長文となってしまいましたが…、ここまで読んでくださり、どうもありがとうございました。