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あの頃は逃げ遅れた羊だった。

自分がうつ病と診断されるとは夢にも思っていなかった。


自分はそんな弱いと思っていなかった。羊みたいに弱いとは思ってなかった。

オオカミでは無いにしても、ストレスでやられるような人間じゃないと思ってた。

だから、10年以上も働き続けれたんだと思ってた。


確かに悩みは尽きなかったし、仕事はお世辞にも上手くいってるわけではなかった。

それでも、失敗を笑いに変えたり、愚痴をこぼしたりしながら頑張ってた。保育ってそんなものだとも思っていた。


その日もそうだった。

保育が上手く行かなくて、隣のクラスの後輩に助けられてなんとか午前中を乗り切って、むかえた昼休み。

職員室にいる上司に笑い話半分で今日の保育の様子を話そうした。いつものように。

でも、違った。

その日様子を口に出した途端、涙が止まらなくなって、弱音が滝のように溢れ出した。


ダメになった。

元に戻れなくなった。


「感情失禁ですね。それは。」


心療内科の医師にそう言われた。

他人事のように淡々と言われ、それを聞く自分も他人事のようだった。

うつ病と言われて、そして休職。

はじめの一週間ぐらいは何も考えられなかった。

その後、仕事から離れられたことにホッとしたり、どうしようもないく不安を感じたり、よく分からず涙が溢れたり。


まさか、自分がこんなになるなんて。


驚きというか、唖然とした。

自分自身に。

弱い自分は羊だった。そう思った。


「もっと早く周りに助けを求めればよかったのにね。」


うつ病を報告した時に上司にそう言われた。

その言葉が胸にずっと引っかかっていた。


「逃げ遅れたんでしょ。あなたが。」


そう言われたようで。悔しかった。

どうせ、自分は逃げ遅れた羊。

群れからはぐれた羊だったんだろう。

上司達から見たら。


もう、群れの中に戻はらない。

戻ってたまるか。

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