『女龍神也の呪い』シャルルの手記
※シャルルの手帳にあった記述。前述したH・Nの調べた情報を頼りに自身の見解を述べたものと思われる。
例によって、関連しそうな箇所を日本語訳して抜粋。
『Affaire1』におけるおなつのエピソードについて、ぼくはバンシーを思い出した。死ぬ間際の人の前に現れて泣くというヨーロッパに伝わる妖精だ。この性質は、正体を暴かれて以降のメリュジーヌと似ている。行方不明から三日後に山伏が三日三晩祈願したというのも、メリュジーヌがリュジニャンの子孫が死ぬ三日前に現れるようになったというのを想起させる。
もっとも、おなつはあくまで人間の少女で、何かに遭遇したショックからか最期の声を発するまで夕刻に泣くばかりだったという話で、様々な点で異なりはする。
葬られた沼御前の遺体が地中から機を織るような音を響かせたという伝承と、おなつが機を織る沼御前を見たという証言は一致するので、彼女の言葉が真実なら、やはり沼御前は機を織っていたのだろう。pourquoi pas?
機織りと関連する日本の民話を調べたところ『鶴の恩返し』といういくつかのバリエーションがある伝承のうちの一つに、メリュジーヌ伝説と似通ったものを発見。
若者があるとき鶴を助け、後日、彼のもとを美女が訪れ、二人は結婚する。美女は機織りを得意とし、それをしているところを覗かないようにとの条件で見事な織物を作り、この売り上げで若者は豊かになる。
ところが、妻がどのようにしてそれほど素晴らしい織物を作るのか気になった若者は、あるとき彼女の機織りを覗いてしまう。すると、嫁は鶴の姿となっていて、自らの羽根を織物に織り込んでいたそうだ。
そして彼女は、自分が以前若者に助けられた鶴だという事実を打ち明け、恩を返しに来たが正体を暴かれた以上彼のもとを去らねばならないとしてどこかへ行ってしまう。
この物語には、見てはならないとされたものを見たことで悪い結果に繋がってしまうという〝見るなのタブー〟。人間と人外のものの結婚を扱った〝異類婚姻譚〟という二つの物語の類型があり、その二点でメリュジーヌと一致する。
『Affaire2』で沼御前はどうなったのだろう。
鉄砲で撃たれても死ななかったという伝承もあるし、そもそも義連に首を刎ねられて以降の話でもあるので、彼女がこの程度で死んだとは思えない。また、お歯黒とは日本において既婚者の女性がする風習でもあったという。レモンダンの妻として?