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『女龍神也の呪い』ビデオカメラ映像

※こちらも脚本形式で文章化。
 撮影に用いられたデジタルビデオカメラの表示から、録画の日時はW教授が亡くなった日の夜らしい。


 手振れが酷く、H・Nが急いでカメラを持ち出して撮影を開始したことが窺える。
 映像や関係者の証言から、H・Nとシャルルがピーターの事件及び沼御前の伝説について調べるために宿泊していた旅館の玄関での出来事のようだ。
 H・Nは扉の内側から、すぐ外側に立つ焦燥した様子で寝巻き姿のシャルルを映している。

H・N
「で、ど、どうしたのシャルル。どこ行くの?」

シャルル
「(ビデオカメラを叩き)撮れ! (カメラを)回したか、回したか?」

H・N
「回してる回してる、回してるから落ち着いて! どうしたの?」

シャルル
「メリュジーヌは、イギリスの妖精の母から呪いを受けた三姉妹の一人だった」

H・N
「うんうん、聞いたよ」

シャルル
「ピーターだったんだ」

H・N
「な、なに。なにが?」

シャルル
「残る姉妹の子孫!」

H・N
「えっ!? どういうこと?」

シャルル
「彼はメリュジーヌと会って、呪いが融合した!!」

H・N
「ちょ、え? どういう……。シャルルの推理?」

シャルル
「違う」

 シャルル、駆けだそうとする。
 とっさに空いた手で彼をつかむH・Nだが、振り払ってシャルルは外のどこかに走っていく。
 反動で転んだらしいH・Nは、落としたカメラを拾って後を追う。

H・N
「ちょっ、どこ行くの!?」

 だいぶ遅れて、疾走するシャルルを追うH・N。旅館は山中にあったため、すぐにほぼ真っ暗となる。

シャルル
「夢で会った!」

H・N
「待って、シャルル! どこ行くの!!」

シャルル
「メリュジンナリに(聞き取れない)、言われた!!」

H・N
「(息を切らせ)……と、止まって!!」

 シャルル、完全に見えなくなる。暗闇の中声だけ聞こえる。

シャルル
「姉妹とおなつの魂……フュージョン、呪われた時の……少女の(雑音)――!!」

H・N
「シャルル! どこ!? シャルル!!」

 懐中電灯を頼りにカメラが忙しく辺りを見回すが、時折山林を映すばかりでほぼ何も見えない。 映像が激しく乱れ、蛇に似たノイズが走る。

シャルル
「エルの意識はもう……呪い――かたまり! めりゅうじ――(悲鳴)!!」

 殴打音、カメラが地面を転がる。映像、激しく乱れて砂嵐となり、数秒後に終わる。

問題の場面

※この撮影を最後に、シャルルとH・Nは行方不明となった。
 血痕の付着したビデオカメラは翌日、旅館裏手の山中に落ちているのを二人のことを探しに出た仲居によって見つけられている。

 翌週の土曜日、シャルルは遠く離れた喜多方市の姥堂川の浅瀬で溺死しているところを登校途中の小学生に発見された。
 彼がそこに到るまでの目撃者はなく、外傷や争った形跡もなく事件性もなさそうだということで、警察は事故か自殺と判断した。

 同日。
 まだこれら一連の出来事を知らなかったわたしの自宅ポストに、H・Nと思われるものの血で汚れた彼の署名と筆跡による手紙が投函されているのを、外出先から帰宅したときに発見した。



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