ボクはキミの魔法使い〈◇カルゼ〉
▼お借りした方
ユニたゃ
「いっしょに、いってもいい?」
消え入りそうな声でそう言った幼馴染の肩は震えていた。今にも泣きそうな、何かに縋るような潤んだ目は怯えの色を隠そうとしながらも真っ直ぐこちらを見つめていて。振り絞った勇気と言葉の中にどれだけの葛藤があっただろう。
最も大きな理由は彼女の体質。突発的に訪れる夢魔の誘いが彼女を現実から引き離す。呪いのような眠りに幾度となく周囲は諦め、見放し、去っていった。中には体質を本人の怠惰が原因と決めつけて糾弾する者もいた。彼女は何も悪くないのに。誰だって好きで昏倒したり、眠り続けたりする訳ではないのに。
「ユニ」
名を呼べば僅かに彼女の肩が跳ねる。
「ありがとう」
そっと頭の上に手を乗せる。絹のような手触りに指を滑らせて撫ぜれば、次第に安堵したような表情を浮かべてくれる。
「一緒に行こう。きっと楽しいから」
その言葉を確かなものにするかのように、チルタリスのタフタがユニを後ろから抱き締める。柔らかな羽毛に包まれ少しくすぐったそうに身じろぎながらも、ユニははにかんだように微笑み頷いてくれた。
甘やかすのはとても簡単だ。頭を撫でて、褒めて、肯定して、長所も短所もひっくるめて全てを受け入れる。けれどもそれはますますユニを現実から引き離すことになることは薄々気づいていた。傷つけぬよう真綿で包み、大切に扱う程、辛い現実を遠ざけて目の前の優しさに溺れさせることだけはしたくない。だからあえて「こうした方がいい」とか「こうすべきだ」という指針はユニには示さず接する。彼女の道は彼女自身が思考し、決定しなければ意味がないからだ。人の定めた道を歩まない、今の自分がそう決めたように。
「カルゼちゃん……」
「何?」
「ほんとうに、いっしょにいっても、いいの……?」
「ボクが今までキミに嘘をついたことある?」
「……ない」
「なら、それが真実だよ」
ユニが言いたいことは分かる。自分が一緒にいたら迷惑なのではないかと。そんなことを思っていたら、とうに彼女の元から去っている。信頼の奥で少しばかりの疑心が見えるような言葉は、こちらへ向けたものではなく、恐らく自分自身に向けているのだろう。突然眠りにつき、思うようにままならぬ体への不安と恐れなのだろう。そんなこと、もう気にならないというのに。
「そうだ、お洒落していく? せっかくのお祭りだもんね」
「あ……どうしようかな……」
「まだ期間はあるからゆっくり決めていいよ。ボクも服を変えようか考え中だから」
ユニが自分から望んで祭りへ行きたがる、ほんの僅かな一歩だとしてもそれができたことを嬉しく思う。今は小さな前進も、いつかは自分の道を定めるようになってくれることを祈りながら。それが彼女の幸せになることを信じて。
ボクはキミの幸せを手助けする魔法使いだからね。