鬼が出会い、死線が交わる〈◇豪楽〉

どんぱち(開始だけ)やりたかっただけでござる。
※注意されたし※
微グロ(首がその辺に転がってる)

▼お借りした方
双子鬼さん達


 血の雨が降っている。怒号や鍔迫り合う音が飛び交い、時折馬の嘶きや断末魔も聞こえてくる。有象無象が血肉と腑を散らす戦場から少し離れた山に鬼は立っていた。
「つまらねェ。全員死んじまった」
 足元に転がる首を蹴り、鬼が溜息を吐く。刃こぼれの酷い薙刀にはべっとりと赤黒い血が纏わり付き、柄も元の色が何だったのかも分からない程濡れていた。
「俺もあっちに行けば良かったなァ」
 未だ合戦の音と舞い上がる砂塵の方角を眺めて独り言ちる。村へ届いた依頼に従い、戦闘部隊の何名かがこの戦へ招集された。他の上忍達は小隊を組んで依頼元の国軍が指揮する大部隊へ組み込まれたが、どうにも複数で行動するなんてのは性に合わず、こうして単独で本陣を狙ってきた別働隊を始末する任を命じられたのが現状に至る訳で。慣れない集団戦をするよりは単独で暴れ回る方が楽だ。何せ周りにいるのは全員殺していい敵なのだから。
「ん……」
 今し方壊滅させた隊の死骸を一瞥してから本陣へ戻ろうかと考えていた時、強烈な匂いに顔を顰めた。ほんの一瞬、一度嗅いだら忘れなさそうな、臭い、臭い、血の匂い。嗅ぎ慣れている筈の臭いなのに、今漂ってきた臭いは噎せ返りそうなくらい濃い。
「……はは、まだ面白そうなのが来やがるのか」
 鬼面の下で笑みを浮かべ、切れ味の悪くなった薙刀を無造作に投げ捨てると同時に、適当に目についた骸の上に刺さる太刀を引き抜く。
 がしゃ、がしゃ。遠くから鎧が擦れ合う音が聞こえてくる。血の臭いも次第に濃くなってきた。
「コイツぁ……」
 愉しめそうな相手が来た。ぞくりと鳥肌が立ち、太刀を握り締める力が強くなる。僅かに震えるのは恐怖しているからなのだろうか。否。この忍に恐怖という感情は一度たりとも持ち得たことなどない。
 これは悦び。まだ姿も見えぬ相手の存在感を遠くからでも感じ取れ、期待に胸が昂る感情。全身を突き刺すような殺気の塊が一歩、また一歩と静かに歩み寄ってくるのが嬉しくて堪らない。今にも太刀を手放して小躍りしてしまいそうな程に。しかし現実は太刀をしっかりと握り締め、興奮で熱を持つ下腹部を鎮めるのに必死だ。つくづく難儀な身体だと思う、闘いでしか快楽を得られないというのは。
「ほう、これは珍しい。ここに赤鬼がいようとは」
 何刻も時が過ぎたような感覚も束の間。鎧武者が二体、がしゃりと音を鳴らして姿を現した。ついにまみえた、待ち侘びた相手は二体の鬼だった。
「お前らも鬼か。でけェのと細いの」
 太刀を肩に乗せ、じっと二体の鬼を眺める。背丈は同じくらいだろうか、鬼の面当てと甲冑は似ているが体型は真逆だ。一人は筋骨逞しい体型で、もう一人は痩せているが引き締まった体付きをしている。甲冑に覆われて体全体を把握できないが、大体は腕や足の太さなどで察せた。
「成程、貴様は先にここで"遊んでいた"という訳か」
 二人は足元に転がる雑兵の首を蹴り転がし、それぞれ大太刀と鎖鎌のついた槍を肩に乗せ直してから同じくこちらを眺めている。
「ああ、でも全部殺っちまったから帰ろうかと思っていたところだ。けど、どうせならもう少し遊んで行くのも悪くねェな」
「それは、我らに向かって言うておるのか?」
「お前ら意外に誰がいる? そこに転がっている死体と戯れる気なんざ更々ねェよ」
「それもそうか」
「なァ、お前らどこのモンだ?」
「我らは何処にも属さぬ。ただ、ここに血の臭いが漂うていたから来ただけのこと」
「……なんだ、物見遊山か」
 つまんねェと溜息をつけば、細身の鬼が奇妙な笑い声を上げる。
「クカカカ……! ただ見物に来るだけではつまらんだろうに」
「じゃあ、戦っちまっていいんだな?」
「戦るなどと、生温い」
 逞しい体付きの鬼が大太刀を構えた。
「我らと死合うからには、その身無傷で済まぬぞ?」
「ははッ、面白ェ……!」
 三体の鬼が相対し、己が持つ獲物の切先を向け合う。どの刃もぬらぬらと赤黒い血に濡れ、鉛色の鈍い輝きを放ちながら主人に振るわれる時を待っていた。
「なら、どっらが本物の鬼か殺り合うとしようじゃねェか」
「クク、クカカカカカカ……ッ! その威勢や良し。ならば存分に死合おうではないかッ」
 鬼面の下は全員が同じ表情であろう。喜色満面。戦意高揚。目の前の相手を屠るという明確で単純な動機殺意を持っている辺りは同族なのかもしれない。しかしてその道も思考も交わることは決して無く。ただただ、己が持つ常人ならざる本能という衝動に突き動かされ、三体の鬼はそれぞれの獲物を振るう。
 未だ遠くから合戦の音が止まぬ戦場に、鬼達の咆哮が聞こえることはなかった。

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