20.丘の墓場で幸福と向き合う
私は、アーユルヴェーダの勉強をひっそり行っている病院勤務の医療ソーシャルワーカーです。
病院故、生死に関わります。
仕事を投稿しないと決めていましたが、アーユルヴェーダを学ぶ身として、考えさせられた事があった為、自分への戒め込めて書くことにしました。
すずさん(仮名)姉妹の物語のお話しです。
すずさん(仮名)は50代。妹のりいさん(仮名)とアパートで助け合って暮らしていました。姉のすずさんは引きこもり。妹のりいさんが姉のお世話をしていました。
ところが、妹りいさんが癌を患い、入退院を繰り返します。妹の死期が見えた頃、すずさんも体調不良となり、りいさんと同室入院。すずさんはりいさんを看取りました。
すずさんは妹が亡くなり、混乱するかと思いきや、現実を受け止め、取り乱しませんでした。そして、一人で火葬を執り行いました。
その後、すずさんは、葬儀手続きやお墓など一人で決められませんでした。納骨先もなかなか決まらず、両親が眠るお墓入ることを親戚から断られました。
結局は、自治体の合葬墓に納骨することになりました。納骨は火葬同様、すずさん一人。親族は来ない、身内はいません。
私は本人の同意の元、納骨に同行することにしました。
納骨当日。
葬儀屋からりいさんの御骨を引き取る。合葬墓到着後、管理職員に「お坊さんは来ないのか」と聞かれます。すずさんは「来ません」とはっきり答えました。墓石にりいさんの骨箱を置く。お花や線香、お供えを一緒に飾ります。
私とすずさんは、りいさんに向かい合掌。私は、私なりの御経を心の中で唱えます。ここは合葬墓。りいさん以外の仏様にも供養の気持ちを込めました。
この霊園は郊外の山奥の丘。新緑に囲まれ、人工的な音や光、匂いは何一つ無い。鳥や虫たちの合唱と風が木々を揺らす音が木霊し、木漏れ光が差し込む。
すずさんは鼻をすすり、袖で涙を拭いていました。
納骨後、合葬墓から離れ、霊園頂上の丘から青々とした山と、小さく見える市街地を見下ろす。丘の上から見渡す街は、建物や道路、住宅が引き締め合う。
この丘から目視できる街は、外界として映る。世俗的な物欲が渦巻いている塊のように見えてしまった。街の上空もぼんやりと大気が曇っているから不思議ものでした。(たまたまの気象なのかもしれない)
丘から天を見上げると、霊界へ案内しているような太陽光ベールが見えました。新緑の香りと線香の煙と共にりいさんが天国へ向かっているような錯覚感じました。
霊園は先祖を通し、自身を見つめる内界なのだろうか。感じ方一つで観え方が変化する。天界と下界、現代を生きる「今ここにある自分」、あの世とこの世、外界と内界、霊界と娑婆の境って何なのだろう…。突然思考が渦巻いた。りいさんとお別れした直後の景色に酔ったのかもしれない。
ふと、「人間の欲と幸福」について脳裏に過ぎる。インドのアーユルヴェーダ医師のウェビナーを聴講した際の言霊が降りてきた。
「人は、幸福になりたい願望をもつ。幸福とは心が欲望をもっていないこと。しかし人々は幸福がどういうものか知らない」
「幸福がどこにあるかを考えた時、不必要な欲望を持たない。より良い人間関係を築き、健康になる。モークシャに近づく」
すずさんは、和尚はいらない、お金とか分からないから頼めないと言う。お花も質素なものを選んだ。お供えも妹が好きだった菓子とお茶だけを準備した。私が選んだ菓子は、りいさんは好きではないと断られる始末。線香も手頃な値段のもので良いと言う。
すずさんは「妹ために」という想いだけでこの墓地にいる。世間体や常識、他人の目線を汲み取らない。ひたすらに妹のことだけを純粋に想った納骨とお葬式であった。
一方、いつも私は社会的な目線で、他者の目線で物事を考える。そんな自分が恥ずかしいと思った。
自分のアイデンティティが揺らぐ。
幸福とは何か。
欲を持たない。
姉妹助け合って生きてきた、すずさんとりいさんの存在が私の脳裏に眩しく写りました。
私は、すずさんの隣りに居ただけ。
この晴天、この丘、この墓地にいる私とすずさん。ここに欲望は無い。りいさんを偲び、空風火土水の五大元素を五感で受け取る。私達も自然に溶け込む。
不謹慎だが、満たされた時間であった。
普遍的な地球の片隅の墓地に「いま、ここにいるわたし」だった。
さて、現実は…。
すずさんのアパートはいわゆるゴミ屋敷。1メートル以上のゴミ山(本人にとっては必要なもの?)がある。病気故、片付けや捨てる判断、整理整頓が極端に苦手です。
床が見えるまで清掃する条件を突き出す大家さん。すずさんが強くアパート退院を希望したので、関係機関を巻き込み、ゴミ清掃もすずさんと一緒にするのが私のお役目。これが外界です。
すずさんは一人暮らしに向け、新しいスタートの準備中です。
日々学びある仕事です。
さぁ、今日も共に生きていきましょう。
それではまた(^^)
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