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明日の叙景を観に行こうよ ~東京近郊からの定点観測2024年~


◆はじめに

2024年の初冬。2ndアルバム「アイランド」から「臨界」を再生すると、イヤホンを通して夏の陽炎のゆらめきが見えた。
彼らの音楽を初めて聴いたときのあの衝撃は、まだ忘れることができない。
澄んだ音色の美しいトレモロギター、メロディアスながらも一筋縄ではいかないコード進行。ボーカルこそブラックメタルのグロウルでシャウトされているが、楽曲全体は明るいエネルギーに満ち溢れており、何よりも、一度聴くと心の片隅に棲み付いて強く印象に残る楽曲。
ここまでのクオリティの音楽を作って、演奏しているのは、本当に日本人なのか・・・?
これはDeafheavenやAlcestの登場に匹敵する、いやもしやそれを超えるほどの衝撃のバンドに、出逢ってしまったのかも知れない。

おそらく初めて音源を聴いたときにツイートした、2024.2.3の感想

◆明日の叙景 概要


メンバー:
Vo:布 大樹
Gt:等力 桂
Drs:関 拓也
Ba:齊藤 誠也

彼らの名は、明日の叙景。2014年に東京で結成された、日本のポストブラックメタル・バンドである。
バンド名はつげ義春の1967年9月の作品である「海辺の叙景」から取ったというから実にインテリジェンスで渋い。
(ソース:2015年のインタビュー記事より)

これまでに2枚のEPと2枚のスタジオアルバムをリリースしており、特に2022年に発表された2ndアルバム「アイランド」はオリコンアルバム売上ランキングで224位にランクインし、国内外多方面から高評価を得ている。

彼らの音楽性は、ブラックメタルの反キリスト教という思想や暗さを取っ払い、純粋な美しいトレモロギターの響きを聴かせるDeafheavenのようなブラックメタル・ポストメタルやAlcestのようなブラックゲイズシューゲイザーからの影響を多分に感じられるものである。しかし、J-POPのような親しみがありノスタルジックな強力なメロディアスさが、よくも悪くもふわふわとした印象になりがちなシューゲイザー分野で強くエモーショナルに印象付ける個性を際立たせている。
メロディに内包するV系の要素は、彼ら世代よりも一回り上の、L'Arc-en-CielやLUNA SEA、DIR EN GREYといった、古き良き時代の90年代V系を思い起こさせる。しかし、V系の持つ排他的な感じはなく、今の時代では珍しいエモーショナルな音楽性にリンクする程度にとどまっている。こうしたカリスマ性とポップさとの両立が、ブラッケンドポストメタルというマニアックな音楽性ながらも様々なジャンルのファンの心を掴んでいる。Rolling Stone JapanがFuture of Musicの日本代表として明日の叙景を選出したことはSNSでも話題沸騰となり、ますます注目を浴びている期待のアーティストだ。


私が2024年に参加したライブ・イベントは、下記の通り。

◆2024.02.24 @渋谷サイクロン A Ray of Hope Vol.05
・2024.03.26 渋谷HMV レコ発インストアトークイベント
◆2024.04.29 @渋谷wwwx Kokeshiとのツーマンライブ
◆2024.06.16 @吉祥寺Club Seata Dialogue Vol.1
◆2024.07.06 @新代田Fever
・2024.08.24 @FMまいづる ラジオOA 【音楽とりわけ皿】
◆2024.09.29 @Veats渋谷
◆2024.11.30 MIXED HELL FEST 川崎クラブチッタ

◆=ライブ ・=ライブ以外のイベントなど

季節がうつろいゆくように、彼らの音楽もパフォーマンスも少しずつ変化を遂げている。
noteにはすでに素晴らしいレビューが多数あるし、何よりフロントマンである布さんの文学的インテリジェンス溢れる公式レポートが素晴らしいので今更自分が取り上げなくてもいいのでは?という気もする。しかし、この音楽の海から見つけた日本の美しい国宝とともに、冬・春・夏・秋と過ごした思い出を、ずっと忘れたくはない。そんな思いから、にわかファン目線で自分が東京近郊から彼らを観た2024年の定点観測記を、記しておく。

◆2024.02.24 @渋谷サイクロン A Ray of Hope Vol.05


公式レポ:

Setlist:
1.(入場SE) A Flower Is Not A Flower(坂本龍一)
2. 土踏まず
3. 臨界
4. 美しい名前
5. 影法師の夢
6. 青い果実
7. 遠雷と君
8. キメラ

これ以上、足を踏み入れてはいけない。沼にはまってしまう。
そう思いとどまりながらも、もうすでに2月24日の渋谷Cycloneで行われるライブチケットを予約してしまっていた。
これが初めて体験する明日の叙景ライブだったのだが、あまりにも衝撃的過ぎた。まず、かなり音響が良かったのに驚いた。この手のジャンルのライブは、箱が狭いと音圧が大きすぎて、特にトレモロギターの音がつぶれてしまうことが多いのだが、あまりにもアルバム通りの美しい音響で、しかも耳栓入らずの絶妙なバランスだったのに驚いた。そして、何よりも印象的だったのがフロントマンでありVoの布大樹氏の圧倒的なシアトリカルな表現力だ。いつも音楽を聴くときには純粋な音の情報だけから入るので、アーティストご本人も非常に見目麗しいということはライブで観て初めて知ることが多い。失礼ながら、音源を聴いた限りではそれほど惹かれなかったポエトリーリーディングも、指先からつま先まで、明日の叙景という一つの舞台の役者の一人としてシアトリカルに全身で表現しきった布さんのパフォーマンスは、あまりにも圧倒的だった。のちのインストアのトークイベントでも、アルバムでは少し機械的だったポエトリーリーディングをライブではよりエモーショナルになるように表現したと語れていたが、やはりライブのほうが何倍も素晴らしい。XのTLではマイケル・ジャクソンに例えられる意見も見かけるが、メイクを施した麗しい外見で、闇と光を一人で表現しきる布さんは、まるで70年代のGenesisのPeter Gabrielをリアルタイムで観ているようだと自分は思う。
MCを一切行わず、曲間でも一切拍手が湧き起こらない、静粛なライブ。こんなライブは日本でしかありえないだろう。なんともカリスマ性に溢れるバンドだ。のちの対バン2バンドの演奏もそれぞれ違った個性があって素晴らしかったのだが、すっかり明日の叙景の織り成す美しい音風景に、一瞬で心を奪われてしまったのだった。

◆2024.03.26 渋谷HMV レコ発インストアトークイベント

3月20日には、彼らにとって初のライブ盤:『Live Album: Island in Full』がリリースされた。渋谷2店舗と大阪でメンバーが参加するインストアイベントが行われることも同時にアナウンスされた。
アイランドはスタジオ盤の時点で音も非常に完成度の高いアルバムであるが、やはりライブはまた格別である。スタジオ盤とはまた違った、アトモスフェリックなエネルギーで仕上げられたこのライブ盤は、バンドの新たな側面を引き立てることになる。私も発売してすぐに店舗で購入し、一気に惹き込まれた。
そういえば、彼らが喋る姿は観たことがないかもしれない。私がこのライブ盤を聴いて感じたことは、彼らが意図して作ったことなのだろうか・・・確かめてみたい・・・あわよくば、購入特典のサインも欲しい・・・
そんなミーハー魂を発揮して、仕事帰りに渋谷HMVへ足を運んだ。少しどきどきしながら雨の中店内に足を踏み入れると、すでに何人かファンが店内に到着していた。ブラックメタルを聴いていると思われる物静かなファンが多いが、外国人のファンも見られた。確かに、このバンドにはいい意味で日本らしくないというか、音は海外っぽい雰囲気があるなと思っていたので納得。ふと横を見やると、とんでもなくプレミアのついた値段のレコードが手を伸ばせる位置に陳列されており、レコードマニアの聖地に来ているという謎の緊張感で身が引き締まった。

そんな中、HMVのスタッフに続いて明日の叙景メンバーが登場し、S.h.iさんによるインタビューが始まった。

※ネットのどこかでこの時にトークイベントで話された内容のまとめを見た気がしたが、見つからないため当時の自分のツイートを掲載。

個人的には、海外のKing Crimsonのライブ盤しか聴かないファンに褒められた話と、プログレメタルに造詣の深いインタビュアーのS.h.iさんが等力さんの来ていたDeath Tシャツに突っ込んで次々にDeathの好きなところを聞いていたのが面白かった。明日の叙景はジャンルの分類ではプログレではないが、プログレファンを惹き付ける要素があるのがよく分かった。
この日にサインしてもらったLive Album: Island in Fullは、一生ものの宝となった。

◆2024.04.29 @渋谷wwwx Kokeshiとのツーマンライブ


公式ライブレポ:

Setlist:

  1. (入場SE) A Flower Is Not A Flower(坂本龍一)

  2. 見つめていたい

  3. 土踏まず

  4. 臨界

  5. 歌姫とそこにあれ

  6. 青い果実

  7. 忘却過ぎし

  8. 影法師の夢

  9. たえて桜のなかりせば

  10. 私はもう祈らない

  11. 甘き渦の微笑

  12. 子守唄は潮騒

  13. 遠雷と君

  14. キメラ
    アンコール

  15. コバルトの降る街で

「アイランド」のライブアルバム発売後、満を持して開催されたKokeshiとのツーマンライブ。この日は、彼らの真価がさらに明らかになった一夜だった。
2月のライブではMCが一切なかったため「厳粛なバンド」という印象を抱いていたが、この日、布さんが自己紹介的なMCを行ったのは意外だった。ギターの等力さんもリラックスした雰囲気で長めに喋り、会場の空気をいい具合にほぐしてくれた。
先に演奏したKokeshiの壮絶なパフォーマンスにも圧倒されたが、その後に登場した明日の叙景が埋もれることなく強烈な印象を残せるのは、さすがの一言だ。
アイランドから多めに選曲しつつもEPの名曲や1stアルバムから貴重な曲が聴けたりと、ほぼワンマンライブかのようにたっぷりと聴けて大満足。

個人的には、アイランドのライブアルバムを聴いて改めて齊藤さんのJazzyなドラムプレイの魅力に気づいたので、繊細なリムショットの音色が心地良いインスト曲:「子守唄は潮騒」を聴けたのが嬉しかった。
そして、最大のハイライトは、このツアーで初めて披露された新曲:「コバルトの降る街で」である。音源未発表の状態で、ライブでのみ聴けるこの曲は、エモーショナルなメロディと演奏が観客の心を掴んだ。ライブ終了後もその余韻が消えず、反芻するように曲の記憶を胸に刻む感覚を味わった。

これより、コバルトガチャを引き当てるためのライブ通いが始まる。

◆2024.06.16 @吉祥寺Club Seata 明日の叙景 presents Dialogue Vol.1


公式レポ:

等力さんによる対バン解説(公式):

Setlist:
A Flower Is Not A Flower(入場SE)
ビオトープの底から
歌姫とそこにあれ
土踏まず
MC
コバルトの降る街で
美しい名前
MC
影法師の夢
遠雷と君
キメラ

私はもう祈らない(Ec)
修羅(Ec)

この日は、明日の叙景自身が企画・キュレーションを担当した初のライブイベント。そのテーマは「J-POPの再解釈」とされ、異なるジャンルのバンドが共演する一夜となった(等力さんによる対バン紹介記事参照
https://note.com/asunojokei/n/nb125c81d466f)。
対バン2バンドのそれぞれ異なった個性のPOP勢は新鮮なエネルギーに溢れ、そして少しだけ叙景にも通ずる要素を見出せた。

実はこの日のライブが、今年観た中でも特に印象に残っている。拍手のタイミングすらも憚られるような静粛で緊張感溢れる冬のライブからは緊張がほぐれて、布さんもメイクが薄くなってどこかRelaxingな雰囲気が漂っていたのが、アイランドの作品のリゾートな雰囲気に合っていて良かった。何よりも、この頃は6月にしては雨が降らず最高気温30度くらいで、エアコンがなくても過ごせた90年代の子供の頃の夏日を思い出す気候だったのも、ノスタルジックに浸れてよかった。

これまでのライブは後方で観ていたが、この日は前のほうへ行きたがる友人に引っ張られてひやひやしながら2列目ど真ん中を陣取ってしまった。まだ2回しかライブを観ていないにわかが、こんなに前へ行っていいのだろうか・・・と心配していたが、バンドメンバー同様ファンの方も非常に寛大で温かく、非常に平和に楽しめた。
どのライブもPAが抜群にいいのでどの位置でも楽しめるが、確かに前方で観るのは演奏の音圧やアーティストの表現をダイレクトに感じることができて楽しい。フロントマンの動きが最後まで観れるというだけではなく、等力さんやサポートのGenさんがペダルを操作するタイミングを観れたり、何よりも齊藤さんの繊細で華やかなドラミングを堪能できるという魅力がある。
Club Seataの照明は大変に素晴らしく、「コバルトの降る街で」の世界観は一層鮮明になったと思う。

◆2024.07.06 @新代田Fever くゆるpre.SHIV Report


公式ライブレポ:

Setlist:
A Flower Is Not A Flower(入場SE)
ビオトープの底から
歌姫とそこにあれ
土踏まず
美しい名前
影法師の夢
遠雷と君
キメラ

中国ツアー4日間興行からの凱旋来日公演。中国ツアーは日本以上に盛り上がったようで、彼らのライブにどのような変化が現れるのかこの日のライブを心待ちにしていた。何より、共演したくゆる。は京都のポストシューゲイザーバンド:e;inから紹介されたバンドだけに、とても楽しみにしていた。nhommeはあまりにもテクニカルな変拍子が繰り広げらていて私向けでワクワクしたし、3バンドともドラムの名手だったのが印象的。
一瞬青い照明に切り替わって「これはコバルト来るか・・・!?」と期待したが、なかった。おそらく機材トラブルが起こったのが影響していたかも知れない。
叙景のライブは何故か渋谷で行われることが多いが、たまには吉祥寺とか新代田といった華やか過ぎない落ち着いた街でライブが行われるのは、陰キャ代表として大歓迎である。
この日はゲリラ豪雨で電車が遅延したりとなかなか大変な気候だったのだが、そんな中でも布さんがひたすらお客さんを気遣うMCを行っていたのが印象的だった。演奏が終わった後、おそらく照明のタイミングのトラブルでまだ舞台からバンドメンバーがはけていない状態で会場照明が点灯してしまったのだが、お客さんがワラワラと会場を移動し始める中、布さんが最後まで舞台上手・下手・中央へと深々とお辞儀をしていたのが印象的だった。どこまでもファンを大切にしているのが良く分かって、胸が熱くなった。

・2024.08.24 @FMまいづる ラジオOA 【音楽とりわけ皿】

これまでライブでしか聴けなかった「コバルトの降る街で」が、遂に8月21日にシングル配信リリースされた。特に音楽性はLUNA SEAのROSIERなどの90年代V系へのリスペクトを感じられ、またバンド公式がSpotifyで楽曲のヒントとなったプレイリストを公開したことからも、SNSで話題沸騰となった。
Rolling Stone Japanによるニュース記事

そこから3日後である8月24日、FMまいづるの「音楽とりわけ皿」というラジオ番組にて明日の叙景特集が組まれることがアナウンスされ、急遽ネット経由で視聴した。
残念ながらradiko非対応でアーカイブが残っていないので、当時の自分のツイートをメモ代わりに貼り付ける。

ラジオパーソナリティの冒頭の「僕、夏大っ嫌い」発言も、2024年の京都は夏日が明治以降の年間最高日数を記録した年であることを考慮すると、無理もないかも知れない。なぜか「コバルトの降る街で」には一切触れられずOAもナシという謎の玄人向け選曲だったが、明日の叙景の根幹であるブラックメタルやポストロックからの影響を十二分に感じられる選曲も良かった。それに、なんだかんだでメタル人脈ではない人からの感想をラジオで聴けるのは新鮮だったし、忖度なしに感想を述べていく様子はロックバーにいるようで聴いていて楽しかった。

◆2024.09.29 @Beats渋谷


公式ライブレポ:

Setlist:

  1. 土踏まず

  2. 私はもう祈らない

  3. 歌姫とそこにあれ

  4. コバルトの降る街で

  5. 修羅

  6. Bass solo~甘き渦の微笑

  7. 子守唄は潮騒
    8.ツェッペリン(新曲)

  8. 遠雷と君

  9. キメラ

約2ヵ月半ぶりに観る叙景。ようやく秋めいてきたこの季節、アイランドだけでなくブラックメタル色強めの初期の楽曲が聴きたいなと思っていたが、まさにその願望通りのセトリだった。
どんどんキャッチーに明るいノリのライブが続いていたが、「静寂も音楽の一部」とも言えそうな2月の静粛な雰囲気のライブが帰ってきた。布さんも共演のICDDに合わせてか、目力強めのメイクに戻っている。
「コバルトの降る街で」は、光を失っていく季節にほどよく似合う。この日はベースの音量が大きめだったので、関さんのメロディアスなベースパートの魅力をよく堪能することができた。ベースソロからの「甘き渦の微笑」は4月の渋谷2マンライブでも披露されていたが、ストイックで控えめな関さんの奏でるフレーズがJazzyなグルーヴで、どこかJaco Pastoriusの深淵さを思い起こさせた。そこから「子守唄は潮騒」につなげて、ドラムが一段高くセットされていて齊藤さんの繊細なフレーズが視覚的にも堪能できるセトリを組んでいたのも良かった。
なんといっても、この日の一番の目玉は、おそらくこのツアーで初めて披露された新曲:「ツェッペリン」である。この1年で視覚的にもどんどん美しく、もはや別人とまで思うほど容姿が垢抜けていったメンバー陣。このままV系方面へ寄せて進化していくのだろうかと思っていたら、まさかのここで彼らの原点であるポストロックへ回帰するかのような音楽性だったので驚いた。Jazzなグルーヴを紡いだセトリはこの曲の真価を披露するための伏線だったのかと思うほど、関さんのベースソロ・等力さんのエモーショナルなギターソロが素晴らしい。早くこちらの曲も音源化して欲しいものだ。

◆2024.11.30 MIXED HELL FEST 川崎クラブチッタ

Setlist:
1.A Flower Is Not A Flower(入場SE)
2.土踏まず
3.歌姫とそこにあれ
4.コバルトの降る街で
5.遠雷と君
6.キメラ

完全に叙景とKokeshi観たさでMIXED HELL FESTのチケットを予約。
30分という枠は若干物足りなさを感じるも、2024年に観た中で一番大きな箱で最強の音響で叙景を聴けるのは、とても幸せなことだった。
巨大スクリーンに映し出される明日の叙景のバンドロゴ、明るさを落とした青い照明。恒例の坂本龍一の「A Flower Is Not A Flower」のSEが流れると、こんな大舞台で叙景を拝めるなんて・・・と感慨深く感傷に浸り、涙が出そうになった。だが、前の出演バンドでたくさんの人がステージへ向かってサーフしていった血気盛んの若者がぎゅうぎゅうに集まったMIXED HELL FEST。密室のクラブチッタ、1300人キャパいっぱいの若者同士、何も起きないはずがなく・・・

「土踏まず」が演奏されたとたん、後方から異様な熱気が上がってきた。自分が叫んでうるさくて周りに迷惑をかけたらどうしようとか迷っていたが、周りも盛り上がって叫んで歓声を上げていた。なんだか今までに観たことがないテンションだぞ、新鮮だ。と思っていたら、なんと後方でサークルモッシュが発生!まさかの予想外の出来事に戸惑ってしまった。ノリの悪い中年でごめんね・・・。まあそうだよな、Deafheavenのライブでもたくさん人が泳いでいったもんな。まだまだ自分はこのジャンルの盛り上がるグルーヴを理解できていないのかも知れない、勉強不足で反省。
「歌姫とそこにあれ」ではこぶしを振り上げ、歓声を上げる。アイランドの持つポップさは、むしろこんな風に会場一体となって盛りあげていくのが実は一番合っているのかも知れない。

この日唯一「アイランド」以外の楽曲陣で演奏された「コバルトの降る街で」は冬を感じさせる楽曲だが、こちらもとても盛り上がった。若者が多かったMIXED HELL FESTでも、明日の叙景は比較的年齢が高めのお客さんも前のほうで観ていた人が多かった。90年代V系リアルタイム世代にはたまらないノスタルジーだと思う。

キメラは、夏の日差しのような明るいとブラックメタルのボーカルが融合したキャッチーな楽曲で、まさにこの「メタルの多様性」というフェスのテーマに沿った名曲だ。サークルモッシュの発生を警戒していたら、なんと布さんが会場に降り立ってきた!?そのまま客席前方を舞台上手から歌いながらゆっくりと歩いて移動していくという、新しいパフォーマンス。チッタは舞台と客席との間で結構高さがあるからどうするんだろうと思っていたら、そのままひょいっと身体をひねって舞台に上がってしまった。あんなに華奢なのに身のこなしが軽い、かっっっこいい。

2024年のライブでもかなりの熱量で新鮮だったチッタでのライブ。コバルト以外すべてアイランドからの選曲だったが、熱量あふれる盛り上がりが逆に川崎を真夏日へと時間を戻し、このアルバムの青春のきらめきを取り戻すかのように感じられたと思う。
いつになく高いテンションの布さんや、終始満面の笑みだった等力さんを拝めたのも、また新鮮だった。

◆総括


やはり、バンド名がとてもいい。
友達や恋人をライブに誘うときに、「明日の叙景を観に行こうよ」と語りかけるのはあまりにも文学的で美しい日本語だ。
「昨日の叙景」でも「今日の叙景」でもなく、「明日の叙景」としているところも、希望があっていい。
人は、誰かに会いに行く、美しい何かを観に行く、そんな未来の約束があるから前へ進んでいけるのだ。

11/30のMIXED HELL FESTのライブ中、3月12日に渋谷クワトロでワンマンライブが開催されることがアナウンスされた。あのDeafheavenが1日限りの来日公演を行ったのと同じクワトロで、ワンマンライブが行われるのはかなりアツい。3月までは、何があってもなんとかこの東京の地で踏ん張らねば。
そして、来年の夏も、そのまた次の夏も、彼らの音楽を通した夏の風景を、思い出に刻みたい。

MIXED HELL FESTのMCで布さんが「こんなに盛り上がって、メタルの未来は明るいですね!」というようなことをおっしゃっていたが、ファンの私にとってみては逆だ。明日の叙景という世界に誇れる素晴らしいバンドが、令和のこの時代に日本から生まれたという事実が、メタルの未来に明るい希望を照らしているのだ。

この記事を読んでいるあなたも、明日の叙景を観に行こうよ。

◆今後のライブスケジュール

・2024年12月28日(土)-12月29日(日) 台湾 Breaking Mud Fest

・2024年12月31日(火)渋谷CLUB QUATTRO / TAKE OFF 7 (渋谷)
LIVE DI:GA JUDGEMENT 2024

・2025年1月12日(日)旭川 MOSQUITO
・2025年1月13日(月・祝)札幌 KLUB COUNTER ACTION

Guest Act: si,irene
@siirene_band

TICKET ¥4,000 Tax incl.
All Standing / plus 1 Drink Charge

Livepocket : https://t.livepocket.jp/t/i2e-j
Zaiko : https://vinyljunkie.zaiko.io/item/368167

・2025/1/24(金) 地獄カルテット 明日の叙景 SAISEIGA 吉祥寺CLUB SEATA OPEN 18:00 / START 18:45
🎟Livepocket (2024/11/27(水)21:00~)
https://t.livepocket.jp/e/7k8wp

🎟イープラス (2024/11/27(水)21:00~)
https://eplus.jp/sf/detail/4226890001-P0030001

・2025.2.16(日)下北沢CLUB251
A Ray of Hope vol.08
with heaven in her arms / Vampillia
Livepocket
https://t.co/fJWqmaWAIB

・2025/3/12(水) 渋谷クラブクアトロ
Solo Concert "海を渡る翼"

※一般チケットの入場者全員に「コバルトの降る街で」8cmCD(非売品)をプレゼント

12/2(月)〜12/4(水):3Aモバイル先行
12/5(木)〜:一般先行
12/14(土):一般発売

・2025年4/27(日) WWWX / CYCLONE / GARRET
3会場メタルサーキット

SHIBUYA METAL KAI FEST 2025

[出演バンド第一弾]
UNITED
明日の叙景
SEX MACHINEGUNS
KRUELTY
NOCTURNAL BLOODLUST
DEXCORE
View From The Soyuz
CASBAH
VOLCANO
ILLUSION FORCE
THOUSAND EYES
ASTERISM
TERROR SQUAD
Phantom Excaliver
Sailing Before The Wind
HELLCHILD
Serenity In Murder
Mana Diagram
Little Lilith
Unveil Raze
HELL DUMP
END ALL
COCOBAT

and more…

公募枠あり!!

OPEN 11:30 / CLOSE 21:00予定
ADV 5900yen / DOOR 6400yen (+1drink)
※25歳以下のメタルヘッズは当日身分証提示で666yenキャッシュバックあり🤘
TICKET : livepocket
https://t.co/VWUQB9upxz



◆おまけ


・2024.08.25 神奈川県城ヶ島にて

フォロワさんがやっていたのを真似して、アイランドの心象風景に合う景色を探して海辺まで遊びに行った。城ヶ島は駅からバスで数十分というアクセスの便利さながらも澄んだ太平洋の大自然を間近に体験することができて、とてもいい。この日は最高気温32度と暑すぎずでちょうどよく、天候に恵まれて日没前にはダブルレインボーも拝めた。アイランドは全曲もちろんイメージにぴったり合うのだけど、夕暮れどきに聴く「甘き渦の微笑」や「影法師の夢」は至高すぎて心が震えた。その後、10月には香川県の直島を訪れてアイランドを聴こうと挑戦したのだけど(運悪くその日に限ってイヤホンを忘れた)、やはり明日の叙景の持つ激情の要素は、穏やか過ぎる瀬戸内海よりもむしろ太平洋のほうがよく合っていると思う。

たまには、こんな風にアルバムのイメージに合う景色を眺めながら音楽を聴くのも、とても楽しい。

※2024.12.3 表現が粗かった部分や情報の不足を加筆訂正
※2024.12.6 今後のライブ予定に12/31LIVE DI:GA JUDGEMENTを追加
※2024.12.16 今後のライブ予定に4月までの追加LIVE情報を追加


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