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いつかの

(詩と思想 2024年8月号 佳作)

森の奥にある片隅に
石で丁寧に組んだ塔がある

空を見上げれば
言葉が流れていた
いつかの僕の言葉だった
静かに流れる雲のようだった

僕は集めてきた枯木を
繊細な手つきで
塔の中に差し入れる

黒々しさの中身から
赤が呼吸している

そこには小さな火種が存在する
何年も前から消えないようにと
大切にしていたものだ

あの日も空を見上げていた
きっとこの空と同じ空だ
僕が君に話した言葉が
いまも流れているのだから

塔の中に秘めたもの
炎が燃え上がるわけではない
ただ暖かい火種があるだけ

いつかの僕の言葉は
変わることなく
静かに静かに
本当の君を探している

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