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仮面と鏡

(夢の中で夢から覚める  そんな気がしたような)

僕は朝起きる
仮面 (フェイズA) をつける

家族の前でも仮面をつける
ありふれた団らんを装う
支度時に見た鏡に映る僕
僕は笑ってないのに仮面が笑う

家の外にでる
仮面 (フェイズB) をつける

人々とすれ違う
礼儀正しく挨拶して好感増す
無害な良識人だと無言で提示

相手によって仮面を変える
友達 親友 恋人 先生
フェイズC D E F

例えば仮面 (フェイズE)
彼女は僕のことを勘違いする
優しく賢く頼りになる美男子
手鏡に映る僕の顔は歪んだまま

帰れば幸せそうに家族時間
ベッドを前に仮面 (フェイズA) を外す

<眠りがやってきた>

僕は夢の中で知らずうちに
仮面 (フェイズA') をつけていた
夢の中でも繰り返していた
フェイズB' をつけ
C' D' E' F' を器用につけ替えていた
僕は意識の上空からそれを俯瞰していた
なんだかそれは
劇場で芝居を観ているようだった

夢の中の僕は箪笥から手鏡を取り出した
それは祖父からもらったもの
魔女の鏡だと教えられた

そこに映る私は歪な顔をしている
祖父は未来を見透かすように告げていた

「いかに自分の顔が醜く映ろうが
 それに惑わされてはいけない」

そこで夢が覚めた
朝だった
僕は仮面 (フェイズA) をつける
さっきの夢を覚えている
その後ではなんだか自分が滑稽に感じられる

僕は食卓に向かう
いただきます
母親に良い息子と思わせるような表情と声色
僕は母親が喜んでいるだろうと顔を見る

しかし想定外に母親の顔は歪んでいた
ケラケラケラ
口が裂けるくらいに唇の端を横に伸ばして
奥行きのない目で首を傾げて
ケラケラケラ

僕はハッとして目が覚めた
夢の中で夢を見ていたようだ
手鏡のガラスが割れていた

僕はもう一度食卓に向かう
今度は本当の朝のはずだ
いつものぶっきらぼうな声で
いただきます

もう何が本当で何が本当でないかは
分からなかったが

もう僕は
母親の顔は見なかった
もう僕は
振り返る必要はない

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