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FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
主人公の百千武主実(ももちむすび)は、佐々仍利(ささじょうり)や八女麻亜呂(やめまあろ)らと戦闘訓練を積んでいた。そこへ近隣の村に賊が襲来したとの知らせが入る。仍利の父である猛将 佐々孟利(ささもうり)は討伐隊を編成して村へ向かう。山で海賊と戦闘になったが、制圧に成功した。その後、西山郷で不穏な動きがあり、武主実と仍利は傷も癒えぬまま調査に向かう。国王の遣いである佐田阿是彦(さたあぜひこ)と合流し、新しい郷の主を主張する片岡太練(かたおかたねる)と会談。会談後に山賊に急襲を受けるが撃退した。そんな中、捕らえた山賊から片岡が元山賊だという情報を得る。武主実と仍利は世話になった老兵にお礼を言うべく家を訪ね…。


~第8話 ~

既に夕方近くになり、武主実と仍利は井原殿の家への道を急ぐ。
「なあ仍利。一緒に連れてきたヤツらのこと忘れてねーか?」
「忘れてはないが、予定になかった阿是彦殿との合流があったからなー。ヤツらはヤツらで情報収集やってるから大丈夫だろ。」
「それにしても阿是彦殿は強烈だったな。」
「片岡太練と朱久那の本性も分かってきて、これからが大変だぞ。」

山あいの狭い通路まで来たところで、武主実は何かが藪の中で動いた気配を感じとった。動物ではない。
「おい。大丈夫か?」
井原殿だ。井原殿が倒れていた。いや倒れていると言うよりは…、斬られているようだ。
「井原殿!井原殿!」
目は虚ろで、息も絶え絶えだ。数ヶ所に刀の切り傷がある。
「む、武主実様ぁ…。」
「いったい何があったんだ?」
「しゅ、朱久那様が…。なぜワシを…。」
武主実と仍利は顔を見合せた。郷に住まう井原殿が、片岡太練や朱久那の秘密を知ったとあっては確かにマズいだろう。郷の主の正体が元山賊であることが広まれば、ヤツらの計画は失敗する。井原殿が消されようとした理由がわかった。
「井原殿。家に帰ろう。」
だが体を起こす力もない。出血も続いている。井原殿は懐から柿を取り出した。
「ああ。お孫さんにだな。」
仍利が受け取ると井原殿から力が抜けた。
「井原殿!」「井原殿!」

武主実と仍利は、井原殿と柿を届けた。娘と孫ははばからず泣いた。


それから季節は巡り秋が訪れていた。収穫の季節である。
麦国では冬を迎える前に、都で大きな祭が行われる。国中から文官と武官が集められる。そこで飲めや歌えやの祭が行われるのだが、本当の開催理由は別にある。国が地方の責任者を呼びつけて収穫量を報告させるのだ。

文官は地方では役人のことを指す。役人が収穫の報告を行うのに対し、武官は論功行賞と配置転換の報告を言い渡される。それらが終わると最後に国王の言葉を受けるのが慣例となっている。麦国には4つの地域があり、地域ごと分けてに行われる。

武官は総司令の下に五段階の階級がある。一番上は将軍であり佐々孟利ら3人が名を連ねる。つまり4地域を合わせると将軍は12人いることになる。武主実は一番下の階級である。佐々仍利や八女麻亜呂も同じ階級だ。

行事は予定通り進み、国王の言葉の時間になった。だが、入ってきたのは国王ではなかった。
「浦様はご体調を崩されてイル。ダカラ副王の私、賈智陽(か じやん)が言葉を伝エル。」
髪が少なく背が低い年老いたこの男、カタコトなのが印象的である。
「日々の働きご苦労でアル。他勢力の進攻も増えてイル。ダカラ冬が明けたら新しい体制を築く。マズ今は1人だけの総司令を地域ごとに置き4人にスル。ソシテ中央軍を増ヤス。」
場がざわついた。
「静かに。各地域から若い兵士を100人ずつ送れ。4地域合わせて400人を中央軍に増強スル。ソシテこの地域の総司令は、楯築鯉琉(たてつき こいる)とスル。」またざわついた。

将軍の席から1人が立ち上がった。背が低く眉が太い。髭が濃く、歳はまだ30代だろう。
「楯築鯉琉だ。来年からではあるが、よろしく頼む。」と静かに短く挨拶を述べた。
「イマハ激動の時代。北の隣国『芋(いも)』や東の大国『麹(こうじ)』は、カツテの強国らしさがナイ。中央の『粳(うるち)』が勢力を増し『麻(あさ)』『蓮(れん)』『蕗(ふき)』を吸収する勢いでアル。西も戦乱が続いてイル。我々は生き抜かなくてはナラナイ。」
賈智陽が情勢を説明するが、その後も騒然としたまま会は終了した。


そして夜になると宴が始まった。武主実は仍利や麻亜呂、そして仍利の妹の朶七と共に話に花を咲かせていた。
「次は私も連れてってよ。」
朶七が武主実に言ったが、
「命令で調査に行ったんだ。遊びじゃないんだから。」言い返したというよりは、仲良しの会話で予定通りの答えを返した感じだ。

そこへ、仍利の父 孟利と麻亜呂の父 八女天主(やめ あまぬし)が、冨田真臣(とみた まおみ)を連れてやってきた。
天主は名家である八女家の現当主。歳をとってもオシャレでダンディ。息子の麻亜呂が派手好きなのも父親の影響だろう。
一方で冨田真臣という男。背が高く端整な顔立ちで色気がある。年齢は武主実らより一回り上くらいだろうか。
「3人とも久しぶりだな。今夜は楽しんでいきなさい。」天主は低い声で言った。
「皆に紹介しよう。彼は冨田真臣、栗坂の郷の主だ。彼の手腕により、水害に苦しんでいた郷が、今では素晴らしい農地に変わった。今や注目の男だ。」
「冨田真臣と申します。皆さんのご活躍は常々、孟利さんや天主さんから聞いていますよ。お会いできて良かった。」態度も紳士的だ。7人は暫く歓談していた。

そこに片岡太練と朱久那が通りがかった。彼らも郷の役人として参加していたのだ。
「これは佐田様の…?」
武主実も仍利も、この二人のことを井原殿の仇だと思っている。直近のことで、ついつい顔に出てしまった。それを感じとったのか
「西山郷の主、片岡太練と申します。ご縁がありましたら、また。」とだけ言って足早にその場を去った。

「どこかで見たことが…。」
二人がいなくなって冨田真臣が言った。
「ん?片岡を?」
「いや、もう1人のほうだが…。どこで見たのか、うーん思い出せん。」

その後、祭りは佳境を迎えた。7人は十分に楽しんだ。そして祭りが終わると其々の郷へ帰って行った。


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