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FUDO-KI
今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。
〈前回までのあらすじ〉
「麦」の国では、国王 浦島鳴(うら しまなり)が表の舞台から姿を消し、副王 賈智陽(かじやん)が台頭する。そして賈は「黍」と国名変更を宣言した。
隼島を占拠する海賊″鬼″ダガ兄弟の討伐に何とか成功するが、主人公 百千武主実(ももちむすび)は首領の1人 青ダガから阿宗の神職を訪ねるように進言される。
~第15話 出生の秘密~
武主実は阿宗の郷に来ていた。鵜照(うでり)と鷹照(たかでり)を連れ、3人だけで密かに行動していた。移動中、出発前にかけられた百千大江(ももちおおえ)の言葉がずっと引っ掛かっていた。
「阿宗には国の根幹に関わる秘密がある。八女家にも佐々家にも、そして賈副王にも伝わってない極秘情報だ。時代が動いている今、武主実よ。自分の目で見て知る必要がお前にはある。」
武主実は青ダガに言われた通り、阿宗の神職を訪ねた。奥に大きな磐座があり、それが御神体のようだ。磐座を中心に建物などがレイアウトされているのが分かる。
奥から白髪で腰が曲がった老人が現れた。この老人が神職らしいが、武主実の顔をマジマジと見ている。少し震えて無表情のまま涙が流れた。
「そうかー。生きとったかー。」
武主実は少し驚いたが、今までの経緯から自分の血筋に秘密があることは気づいていた。
「何のことか分かるだな。それなら話が早い。教えてほしいことがあるんだ。」
老人の名前は阿宗葉降(あそうはふり)。葉降は少し時間が必要なことを申し出た。現在の武主実の立場や状況を知らない以上、簡単に話が出来ないということだ。やはり重要な極秘情報のようだ。
日が暮れた頃に慌ただしくなった。数人の男が神域にやって来た。この時代は灯りもなく危険な夜に行動することは滅多にない。
威厳のある恰幅の良い男が葉降と相対して座っている。三角形になる位置に武主実が座った。他は別室で待機しているようだ。
「私は阿宗磐井(あそういわい)、この阿宗葉降の息子だ。百千武主実だな。お前のことを調べさせてもらった。」
武主実はどこかで見たことがある武将だと思った。阿宗磐井…そうである。黍国のトップに君臨する四大総指令の1人である。
「百千大江殿に育てられ、武将として成長し、先の隼島の海賊討伐でも活躍しておるな。交友関係は八女家や佐々家辺り。そして腹心の部下に和仁鵜照と和仁鷹照だな。」
「なんと大江殿にー。大江殿は気づいておられたであろうなー。うーむー。それであれば話をしようかのー。」
「私も問題ないと判断します。」
磐井の報告の正確さに驚いた。特に鵜照と鷹照については彼らの出自を考えて秘密にしていた内容だ。
葉降と磐井はゆっくりと時間を使って武主実の質問に答えた。アライアは、青ダガが言っていた通り、外国人の風貌をしていて武主実に良く似ているそうだ。そしてその核心。武主実も想像していたが、やはり母親に間違いなかった。今は阿宗家が山奥の奥宮に匿っているようだ。武主実は感情の整理ができていないがら今は落ち着いて聞いている。
匿っている?ここからが極秘情報となる。
アライアのフルネームはアライア オニール。現在行方不明のゴーガン オニールの娘である。ゴーガンといえば鬼と呼ばれる外国人勢力の首領。磐井は小さい頃、ゴーガンに武術を師事していた。そこからの信頼関係もあって匿っているのだという。
しかし、ゴーガンが政変に巻き込まれて行方不明になったのは最近のことである。アライアは十数年も匿われているという。十数年?そう武主実が拾われた年月と重なる。
次にアライアの今の名前についての話になった。今は阿宗安良(あそうあら)を名乗っている。阿宗安良と言えば、国王 浦島鳴の后である。しかし勿論本人では無い。阿宗安良本人こそ本当の葉降の娘であったが、十数年前に病気で亡くなったという。時を同じくしてアライアを匿う必要が生じ、浦島鳴、阿宗葉降、阿宗磐井、ゴーガンオニールが策を練った。その結果、アライアに安良と名乗らせて入れ替えることを考えた。治療と称して阿宗の神域に住まわせ、匿い始めたのだと言う。
更に話は匿われた理由となった。それは武主実の父親が関係している。父親の名前は双角(もろすみ)。この国では名前を出すのも憚られる存在である。武主実も昔話で聞いたことがあった。かつて麦国最大の戦争があり、その時に攻めてきた敵国の総大将だ。麦国は数年に亘って戦場となり、あわやという状況にまで追い込まれている。その総大将が父親と判れば即殺されてしまうだろう。もちろん妻となったアライアとて同じである。
丁寧にゆっくりと話しているが、それにしても情報量が多すぎる。そして登場人物が大物すぎる。その後も、浦や阿宗家が加担した理由や、匿うことになった経緯を説明されたと思うが武主実の頭には入らなかった。
「ここまでとしよーかー。」
そんな様子を見ていた葉降が話を止めた。
「そうだな。明日は私が奥宮へ案内する。今日はゆっくり休め。」
そうだ。話に夢中になって理解が及んでいなかったが、母親のアライアはすぐ近くで生きているのだ。武主実はそこまでの展開になると思わず心の準備をしていなかった。全く感情が追い付かない。
奥宮までの道も極秘とされており、翌朝、磐井と武主実は2だけで出発した。道中は武主実が拾われた時の話になった。アライアは子供を預けた相手が誰だか分かっていなかった。国王の浦がアライアを阿宗家に逃がしており、百千大江に育てられたことは阿宗家では把握していなかった。
2人は色々と話をしながら歩き、昼前には山奥にある奥宮に到着した。