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FUDO-KI

今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。


〈前回までのあらすじ〉
国王 浦島鳴(うら しまなり)が表の舞台から姿を消し、副王 賈智陽(かじやん)が台頭。そして賈は遂に「黍」と国名変更を宣言する。
  しばらくして、佐々孟利(ささもうり)を総大将とし、隼島を占拠する海賊で″鬼″のダガ兄弟討伐が開始される。しかし孟利本隊は敗戦が濃厚となり退却に追い込まれる。そして退却中に謎の船団に出会う。一方で主人公の百千武主実(ももちむすび)と佐々仍利(ささじょうり)は別動隊として隼島へ上陸。奥地へ兵を進める仍利隊に対し、武主実隊は休憩をはじめ…。


~第14話 隼島の戦い~

鷹照は急に立ち上がり右手の海を指差した。
「どーした鷹照?」
武主実は尋ねたが、鵜照は何かを察知して指差した方向に目を向けた。遥か遠くの海に幾つかの舟影が見える。武主実もそれに気づいて立ち上がった。
「ダガ兄弟か?」
「そうであれば孟利のおっさんは敗けたことになるが…。」
鵜照は周囲を見回した。そして一瞬のうちに全体の状況を把握した。
「舟は先行して2艘。離れて3艘だ。南の浜にとめたワシらの舟は、岩山の死角になってヤツらから見えん。舟は西の港から入るぞ。」
武主実は、敗けて島に戻るとは思えないことから、ダガ兄弟が勝って帰還したと考えた。心配ではあるが今は孟利のことは後回しだ。
「全員聞け!今から岩山に隠れながら西の港に移動する。接岸のタイミングを狙って奇襲をかけ、先行している2艘を制圧するぞ。後から来る3艘が到着するまでの時間との勝負だ。行くぞ!」

実はダガ軍、武主実の予想とは反対だった。謎の船団に襲撃を受けて撤退してきたのだ。謎の船団は深追いをしてこなかったので、十分に迂回し、つけられていないことを確認して島に戻ってきた。先行していたのは青ダガの舟。体中キズだらけではあるが毅然として指揮をとっている。
「うしろぉ、敵舟が見えないかもう一回確認しろぉ。もうすぐ島だぉ。頑張って漕げぉ。ケガ人も踏ん張れぉ。」
舟内はケガ人が多い。しばらくして舟は港に着岸した。船員たちは安心したようにドッと降り立った。

隠れていた武主実軍は、半数以上が陸に降りたのを見計らって奇襲をかけた。鵜照と鷹照が先頭にたち一斉に襲いかかる。海へ逃げないように舟も押さえた。
青ダガは鷹照を見つけて突進した。青ダガは頑丈すぎる身体を武器にして突進するのが真骨頂だ。それ故にキズも多い。鷹照は寸前で避けたが、青ダガは勢いで近くの兵を吹っ飛ばした。間髪いれずに再び突進すると、受けたつ鷹照は肩口辺りに一撃を入れた。しかし突進の勢いにより打ち込みが浅く、頑丈な青ダガにダメージを与えられない。周りは鵜照と武主実を中心に青ダガ兵を制圧しつつあるが、こちらは一進一退の戦いが繰り返された。青ダガは周囲の戦況を把握しながらも鷹照を狙ってまたも突進。鷹照は飛び上がり、空中から突き刺そうと頭を狙う。青ダガは身体を大きく捻り振り払った。
「待て。敗けだぉ。」
青ダガは自分以外が制圧されたことで戦いをやめた。

青ダガらは捕らえた。しかし残りの3艘が迫っている。迎撃体制が間に合いそうにない。島の奥に攻め込んだ仍利たちさえいれば対応できるのだが…。鵜照は慌てる様子もなく、迫り来る舟を眺めている。
「モモ。捕らえた鬼を見てどう思うよ?」
鵜照は鬼の血を引く武主実の心情を確かめるように質問した。武主実は彫りの深い鬼の顔を少し見た。
「よく考えると話したこともないんだよな。俺達と何も変わらない気がするし。色々と知りたいとは思う。」
憎んではいないんだなと鵜照は思った。
「そうか。」
捕らえられた青ダガが武主実を呼び止めた。青ダガは縛られて座らせられている。
「おい、お前が隊長かぉ?」
「ああそうだ。」
振り向いた武主実の顔を見て青ダガは驚愕している。
「お、お前。アライア様のぉ?何故こんなところにぉ?」
「アライア?何のことだ?」
青ダガは少し頭を整理して真顔になった。何かを伝えようと本気になった顔だ。
「ワイはダガだぉ。お前の母君のアライア様には随分お世話になったんだぉ。お前、生きておったんだなぉ。」
「…。」
「そうかぉ。知らないんだなぉ。そうであれば阿宗の神職を訪ねるだぉ。」

そんな話している間もなく後軍の舟が接近。武主実は指示を出し一斉に矢を放った。敵は矢をはね除けて上陸してきたが、武主実が先頭に立って受け止める。
他の2艘は少し離れて着岸した。間髪いれず敵兵が降り立ち、左右から武主実らを目指して攻め込んできた。このままでは挟撃されてしまう。少しだけ早くぶつかる右側の兵に鵜照と鷹照が応戦した。相変わらず二人の強さは段違いだ。次々と敵を吹っ飛ばしている。
続けて左からの兵が到達した。実はこちらが本隊。赤ダガが率いており意図的に遅れてきたのだ。急激に速度を上げた。そして捕らえた仲間を次々に解き放つ。これが最優先の目的だった。あっという間に解放し、次に武主実や鵜照鷹照の背後を狙う。少し注意を惹き付けて隙を作ると、全ての鬼兵は3艘の舟に全速力で戻り出した。青ダガは武主実に向かって叫んだ。
「阿宗に行けよぉ!」
赤ダガも武主実の顔を確認した様子だ。ダガ兄弟軍は一斉に舟に乗り込んだ。そして沖にくり出し島を後にした。

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