FUDO-KI
今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。
〈前回までのあらすじ〉
主人公の百千武主実(ももちむすび)は、佐々仍利(ささじょうり)や八女麻亜呂(やめまあろ)らと戦闘訓練を積んでいた。そこへ近隣の村に賊が襲来したとの知らせが入る。仍利の父である猛将 佐々孟利(ささもうり)は討伐隊を編成して村へ向かう。山で海賊と戦闘になったが、制圧に成功した。
その後、西山郷で不穏な動きがあり、武主実と仍利は傷も癒えぬまま調査に向かう。国王の遣いである佐田阿是彦(さたあぜひこ)と合流し、新しい郷の主を主張する片岡太練(かたおかたねる)と会談。片岡は元山賊であり、他の山賊を罠にかけて成敗することで名声を得ていた。
麦国では秋に大きな祭祀があったが、そこに国王 浦島鳴(うら しまなり)の姿はなく…。
~第9話 国家再編~
年を明けると麦国内の南、隼島で騒動が起きる。『鬼』が暴れ出したのである。ダガ兄弟が中心となり、150人ほどの軍勢で隼島を襲い立て籠った。
このダガ兄弟、見た目がそっくりで見分けるのが難しい。金髪で彫りが深く、眉間のシワが特徴的でガッチリとした体格をしている。見分けがつくようにと、兄の方が赤い首飾りをつけ始めたことから「赤ダガ様」と呼ばれている。それに合わせて弟は青い首飾りをつけているため「青ダガ様」と呼ばれている。二人は麦国の3大勢力の一角を担う『鬼軍』に属していた。
麦国の3大勢力とは、国王の浦島鳴が率いる『浦軍』、副王の賈智陽(か じやん)が率いる『賈軍』、そしてゴーガン オニールが率いる『鬼軍』である。オニールは浦島鳴に弟と呼ばれて信用されており、国内にマレビト(外国人)の郷を幾つか作って治めていた。
ダガ兄弟はオニールの右腕として、マレビトの郷で暮らしていた。しかし事件が起きた。鬼軍の首領が代わったのである。その経緯まではダガ兄弟は掴めていなかった。オニールの安否も不明だ。新しい首領は石可児 黄仁(いしかに こうじん)と名乗っているが、元の名をコーディンと言う。やはりマレビトであり、オニールと敵対していた一派のリーダーであった。
黄仁はオニール一派の懐柔を始めるが、仲間に引き込めないと判断した者には弾圧を行った。次第にオニール一派は追い詰められていく。ダガ兄弟はオニール一派から一団をまとめて生き延びる道を模索した。その中で隼島に拠点を設ける計画を進める。これは黄仁一派から距離をとるとともに、外の組織と連携をとる目的がある。その後、各地から海賊や山賊となっているマレビトたちまでが集まり150人という人数になった。
だが、隼島へは強奪に近い方法で移ってきた上に、集まった海賊や山賊はコントロールが難しいところもあった。見た目の怖さに加え、言葉も通じなかったり、少なからず強奪行為も行われ「鬼から金品を奪われた」「鬼が暴れている」と、地域では悪い噂が広がりつつあった。
一方、麦国の都では賈智陽の台頭が進んでいた。国王の浦島鳴は、病に倒れたまま政務に戻らないばかりか、姿を現すこともなくなっていた。賈の発言権は日ごとに大きくなり、ついに第3の勢力である鬼軍の現リーダー黄仁を取り込むことに成功。それを期に更に勢いを増す。浦一派の文官は表の世界から追い出され、賈一派にとって代わられていた。夏になる頃には麦国の政治は賈一派が牛耳っていた。
そして秋になり一年ぶりの祭祀が行われていた。国中の文官と武官が集っている。今年は数年がかりで築城された『新山城』の御披露目を兼ねていた。国王の言葉に替えて、今年も副王 賈が言葉を伝えるらしい。
新山城の下には、文官や武官が集まっている。しばらくすると、見上げる城の中から副王らが出てきた。副王 賈智陽、鬼軍 石可児黄仁、総司令 楯築鯉琉をはじめ10人程が横一列に並ぶ。これが現在の国の中枢といえるメンバーだろう。賈は一歩前に出て皆に聞こえる声で言葉を伝え始めた。
「世は大いに戦で乱れ、我が国に於いテモ対岸の火事デハナイ。シカシこの1年は他国の侵略も受けず国力の充実に力を注いでキタ。我が国は、民の安心安寧のタメ、更なる強国となるタメ新しい段階へ進む。我が国は今日より黍国(きび)と国名を改メル。ソシテこの黍の賈智陽、この国に全てを捧ゲル。」
風雲急である。