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FUDO-KI

今は古代。国が起こる時代。何かが起きる時代。

~①演習~

 ここ『麦国』では他国から度々侵略を受け、その対策として戦闘訓練や演習を積極的に行っている。
今日も若い兵が集まり、指揮官の命令に従って、密集したり、走り出したり、隊列を組んだりと演習を繰り返している。

一連の演習が終わると、指揮官の命令により対戦形式の武術訓練をすることになった。訓練兵でトップクラスの強さを誇る二人が指名された。指揮官が名前を呼ぶ毎に兵たちから歓声が上がる!盛り上がってきた。

まず前に出てきたのは、佐々 仍利 (ささ じょうり)という男。さっきから一番大きな声で歓声を上げている元気な男だ。丸っこい顔には笑みも見えるが、上半身裸の体は鍛えられた筋肉が隆々としている。手に持った訓練用の棍棒を突き上げ、周りを煽るように
「かかってこーい!」と叫ぶ。
人気があるのだろう。それに応じて周りの兵たちも「うぉー!」と棍棒を突き上げて叫んでいる。

しばらくして一瞬の沈黙に包まれた。全員の視線は一人の兵に向けられる。彼の名前は、百千 武主実(ももち むすみ)この物語の主人公だ。2メートル近い大きな体で、負けじと分厚い筋肉。一番特徴的なのは、大きな眼と高い鼻といった精悍な顔つきである。しかも眼はガラス玉のような色をしている。大柄ではあるが俊敏であり、性格はゆったりしているものの信念が強く厳しい言葉も発する。

周りの兵たちから武主実コールが起きる。「武主実!武主実!武主実!」
武主実は、ゆっくりと前に歩き出した。
「仍利ー!行くぞー!」と大声で言い放つと走り出した。
武主実の大きく振りかぶって打ち降ろした棍棒がヒットした。仍利は棍棒で受けたが、3メートル程ぶっ飛んだ。ものすごい怪力だ。
天を仰いで少し笑った仍利は、立ち上がり突進した。武主実の腹に強烈な棍棒を叩き込んだが倒れない。倒れないのを知っていたか続け様に顎に棍棒でアッパーを見舞う。更に足を薙ぎ払って倒した。仍利は周りをまた煽るように棍棒を振り回す。
「うぉー」と叫ぶと歓声も大きくなり場のボルテージが上がっていく!
「武主実ー!参ったかー!」武主実がニヤリとしながら立ち上がると二人は再び対峙した。

それから何度も何度も強烈な打撃を与えながら戦うが一進一退。仍利は俊敏に動きながら重い攻撃をしかける。武主実も次第にスピードが上がっていく。巨体でありながら素早い動きをみせる。お互いに楽しんでいる様子が周りにも伝わっていて応援にも熱が入っている。 
仍利の攻撃を武主実が棍棒で受けると、連続して蹴りを叩き込む。武主実は棍棒で押し込み倒れたところを踏みつける。悶絶しながら起き上がったところを、ぶっ飛ばされた仍利が「まだまだー」と言い放った時に指揮官が大声で「待てー!」と声をかけた。

何事かと指揮官の方を見ると、隣に上官の姿があった。武主実も仍利も他の兵も動きを止めて聞いている。
この上官、佐々 孟利 (ささ もうり)と言い仍利の父親だ。麦国の大部隊を指揮する武将でもある。仍利に似て顔は丸っこいが恰幅が良く、白髪混じりの髭をたくわえ威厳が漂っている。
孟利が全員に聞こえるように言う。
「緊急事態だ。隣の村に賊が押し入って略奪をしているとの情報が入った。守備隊を残して討伐に向かう。初めての実戦になる者もいるだろうが、武器を持ちかえて指示を待て!」
若い兵たちの顔色が変わった。明らかに緊張が走った。
ここは山あいの訓練場なので、いるのは訓練兵が26人と指揮官を含めた孟利兵4人。つまり戦闘経験があるのは5人である。賊が何人いるのかも分からない。

訓練兵の八女 麻亜呂 (やめ まあろ)が手を伸ばして、転がっていた仍利を起こした。
「すまん」仍利がそう言って立ち上がった。
「大変なことになりそうだな」
そう言ったこの男、武家の名家の出身であり武主実や仍利に並ぶ武力を誇る。衣服は名家故なのか派手好みで目立つところはあるが、家柄よりも自分への拘りが強い。口ぐせは「格好良くないな」である。
いつもふざけながら切磋琢磨しているが、国の将来を担う三人である。

しばらくして分担が発表された。討伐隊は孟利を含む3人と訓練兵18人。訓練場の村の守備に孟利兵1人と訓練兵5人。残りの訓練兵3人は周辺の村への応援要請に走る。
武主実、仍利、麻亜呂は討伐隊に入った。孟利は討伐隊に伝えた。
「3人づつグループを作れ。命を預ける仲間になる。今回は急造となるから自分たちが動きやすいメンバーで良いが絶対に離れるな。」続けて話す。
「5分でグループを結成だ。すぐに出発する。」

隣村には1時間程で到着した。賊がいなくなっている可能性もあるが状況は分からない。小高い山を通ったが村の様子が確認できなかった。討伐隊は3つに別れて村の中心部に入った。
武主実、仍利、麻亜呂は1つのグループとなり孟利隊についた。もう1つの3人グループとも同行だ。村長の家を目指して山沿いを進んだ。早足ながら全周囲に気を配り、人影を探しながら進んだ。少し開けた場所に入り緊張感は格段に上がった。背中の鉄剣はいつでも抜けるように頭の中でシミュレーションを繰り返している。鳥の飛び立つ音にも敏感になって構えてしまう。
集落が見えてきた。更に緊張感が増す。あまりにも静かな状態が不思議な感覚だ。普段のおしゃべりも封印している。誰もいないのかと建物に近付こうとした時だ。急に遠くに人影が見えた。
孟利が声を出さずに左手を横に広げて隊を制した。間髪入れずに右手の人差し指で、建物の影になる納屋を指した。武主実を含む6人は指差された納屋に滑りこんだ。人影からは100メートルほどの距離だ。

つづく

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