セラムン二次創作小説『Burnin' X'mas(ジェダレイ)』
レイは目の前にいる和永の顔を見てとても引いていた。
学校が休日で昼過ぎから火川神社にバイトに現れた和永の顔には煌びやかなメイクが施されていた。
神社の掃除をしていたら呼びかけられ、振り返ると顔にバッチリメイクをしたイケメンがさも当たり前のように普通に笑顔で登場してきた。
何故メイクをして来たのかとても気になっているが、聞くべきか否か困って固まっていると和永よりも先に遊びに来ていた美奈子がどこからとも無く現れたかと思えばバッチリメイクの和永に気づき、指さして大声で爆笑し始めた。
「あんたのその顔なぁにぃ?バッチリメイクしてどうしたの?何かの罰ゲーム?ちょー面白いんだけど~」
遠慮という言葉を知らないのか、ストレートに聞く美奈子にヤキモキするレイだが、自分が聞きたくとも聞けなかった事を聞いてくれて内心よく聞いてくれたとホッとする。
美奈子がいた事が想定外だった和永だが、スルーされなかったのが救いだったが、説明に困ってしまう。
と言うのもサプライズをしようと考えていたからで、メイクをしたままだったのはレイの性格上、少し詮索するだけで深く追求したり茶化したり等しないと思っていたから。なのに1番見つかりたくなかった最悪な人物の登場がとても想定外すぎた。
さて、どう切り抜けるか?
「まぁ罰ゲームみたいなもんかな?」
理由を説明してしまうと後々のサプライズで支障をきたしてしまうから、この場を切り抜けるため、とりあえず美奈子に話を合わせる事にした。
「変な罰ゲームね?メイクなんて」
「しかもそのままここに来るとか…。メイク落とし持ってなかったの?」
「落としてる暇もなかったし」
「来る途中見られると思うんだけど?」
「車で来たから大丈夫!」
「そういう問題でもないけど…」
カシャッ!!
顔をネタにいじりながら徐にスマホを取り出し、カメラでバッチリメイク顔の和永を激写する美奈子。
「アッ!勝手に撮るなよ!」
「良いじゃない!減るもんじゃないし」
「そういう問題じゃないんだけど…。頼むから皆に送るなよ?」
「何それ、フリ?」
「振ってねぇわ!絶対送るなよ?」
「じゃあメイク落としてから来ればよかったのに。こうなるって分かってたはずよ?」
「こいつがいる事が想定外だったんだ。仕方ないだろ…」
「まぁ確かに美奈はいつも突然来るから分からなくも無いけど」
結局この日はメイクを落とさずに火川神社のバイトを真面目にこなした和永だが、その姿がとても面白くて終始、邪魔しに来た美奈子によってスマホに記録を残され続けるという辱めを受けていた。
メイクをした事や、そのままレイの家へ来た事に後悔などしてはいなかった和永だが、執拗に面白がって写メや動画を撮る美奈子にこの後仲間内にチェーンメール的に回る未来が容易に予想出来るため、とても気が重かった。
だが和永の予想に反して数日経っても誰も茶化して来なかったのには驚いたが、レイが美奈子に送る事を止めるよう説得してくれたのだろうと考え納得するに至った。
それから数週間後、クリスマスの日がやって来た。
ハロウィンの時に神社であることを理由に外国の宗教的行事はやらないとキッパリ断られていたが、プレゼントくらいは贈れたらと用意していた。
例え彼女がプレゼントを用意していなくてもクリスマス気分が味わえればそれで満足だった。
意気揚々と火川神社へとプレゼントを持って仕事をしているレイの所へと出向く。
流石にこの日は神社に来る人手はほとんどおらず、毎年大晦日から三賀日までの超繁忙期の前の静けさだからとバイトは休みになっていた。
それでも恋人たちのクリスマス、愛しの彼女に逢いたくてプレゼントを持ってやって来たという訳だった。
階段を上がったところで彼女が私服で腕を組んで仁王立ちで待っていた。
「来ると思ったわ」
イベントの度に敏感に彼女と話したりしていると感の鋭い彼女には流石に全てお見通しと言ったところのようで、簡単に自分の行動を読まれていて恥ずかしくも嬉しくなった。
神社の仕事をしていて巫女姿かと思っていたが、待ってくれていた彼女は私服姿に身を包んだ普通の女子高生の格好だった。
彼女に似合う赤のニットのワンピースに丈は戦闘コスチュームより気持ち少しだけ長いミニで、白のロングコートを羽織り、白の膝下のブーツで階段を上がった鳥居の前で待っていてくれた。赤と白でコーディネートされたそれは決してクリスマスだからと言う訳ではなく、ただの彼女のイメージカラーだからだろう。とても良く映えてて似合っていた。
まるでサンタクロースの様な出で立ちの彼女は、自分にとっての正にそれで、自分とこの日のイベントを前から楽しみにしていてくていた彼女からのサプライズプレゼントだと思うとそれだけで心が満たされる。
「ずっと待ってくれてたの?」
嬉しい感情と同時に彼女をこの寒空の中待たせてしまっていたのなら幾ら頑丈な彼女でも寒くて凍えて震えているだろうと心配になった。
「そろそろ来る頃だと思って出て来た所だから大丈夫よ」
俺に心配させまいとしてついた嘘か、それとも本当の事かは彼女の表情では全く読み取ることは出来ないけれど、来ると思い待ってくれていたことは本当に素直に嬉しい。
と同時に神社の仕事はどうしたのかという疑問にぶち当たった。
「神社は大丈夫なの?」
「クリスマスで誰も来なくて暇だから良いってお爺ちゃんが」
今日は平日な事もあり、朝からもほとんど来なかったらしくとても暇な1日だったと彼女の祖父が言っていたらしく、たまには休んで学生らしく遊んで来なさいと粋な計らいがあり、いつもは制服から巫女姿に着替える所を余所行きの格好をして俺を待つことにしたらしい。レイさんの爺ちゃん、グッジョブ!心の中でガッツポーズをしまくる。
でもこの展開を全く予想していなかった俺は大学に行った服装のままで、彼女とは真逆にクリスマスと彼女に似つかわしく無いクソダサファッションな上に、何処かに行くにしても何処も人が多いのは予想しなくとも分かる。ただでさえ人が多い大都会トーキョー、人混みなのは容易に予想出来る。嬉しい悲鳴と誤算に頭を悩ます。
「どうしようか?どこか行く?でも、どこも人多いよな?車で来てるからドライブがてら夜景でもどうかな?」
「どこでもいいわよ。時間もったいないから行きましょ!」
彼女に仕切られる形で神社の階段を下り、車を停車してる所へ行く。
鍵を外し、助手席のドアを開けて彼女をリードする。
お互い車に乗り込むとシートベルトをして、ノープランの夜景デートへレッツゴー!
…ってウキウキしてたけど、よく考えなくてもレイさんを車に乗せること自体初めてで急にハンドルを握る手が緊張する。普段は俺が彼女の実家である神社にバイトとして行っていて、そこでばかり過ごしていてデートらしいデートは無く、ロマンスな雰囲気とは程遠いから。カッコイイところ見せたい。いや、安全運転を心がけなくては!
色々邪な事を考えていると会話もなく走らせていた事に気づく。
「やっぱり人多いなぁ」
安全運転を心がけながらも適当に走らせながら街の様子を見てただの感想を述べるに至った。何とも単純馬鹿な自分に腹が立つ。
「そうね。でも街中のイルミネーションはとっても綺麗よ」
気を使ってくれているのか会話を広げてくれてホッとする。
イルミネーションの話に花が咲き、普段口数が少ない彼女が気を良くしたのか軽やかに饒舌に話してくれ、CIM(クリスマスイルミネーションマジック)だと思った。
車の中で街を適当に走りながら一通り都内のイルミネーションを堪能した後、彼女を家に送る前に近くの公園に車を停車させて外に出てベンチへ2人並んで座る。
普段は殺風景な十番公園も少しではあるがイルミネーションがライトアップされていてとても綺麗で、雰囲気を演出してくれていた。
「はい、これ私からあなたへプレゼントよ」
プレゼントを渡そうとした正にその時、予想していない彼女からプレゼントを渡され驚いて思考回路がショートした。
「何よ?いらないなら捨てるわよ?」
「いるよ!欲しい!え、マジで?うわぁー嬉しいよ!君からのプレゼント!何だろ?開けていい?」
「良いわよ」
嬉しすぎて反応が遅れると、短気な彼女の心が傷ついたのか機嫌を損ね逆ギレしてしまい慌てて喜んでプレゼントを受け取った。
「マフラーじゃん!うわぁー暖かそう。ありがとう、レイさん」
「どういたしまして。“レイ”で良いわよ!よそよそしいでしょ?」
「え?」
照れた感じで呼び方について指摘してきた。デートらしいデートも恋人っぽい事もしてこなかったし、お嬢様な彼女に少し遠慮と引け目を感じて“さん”付けを変えずにずっと流れでそのまま呼んできたけど、もしかしてもしかしなくてもさん付けに不満があったのかもしれない。彼女の提案に単純に嬉しく、甘える事にした。
「じゃ、じゃあ…レイ、このマフラーってもしや手作り?」
「そうよ!不服かしら?」
「いいや、嬉しいよ!めっちゃくちゃ最高に嬉しい!」
やったーとバンザイしながら喜ぶ俺を見て珍しくふふふっと笑顔を見せて笑うレイ。笑った顔も美しい!クールな彼女がこんなに色んな感情を解放してくれるなんて思いもしなかったから、やっぱりクリスマスの威力は凄まじいと思った。
前世で軍服を来ていた時の俺のイメージカラーである青系の色を数種類使ってコントラストが出てとても鮮やかで爽やかなマフラーだった。
俺のイメージカラーを覚えてくれていたこと、そして俺の事を思いながら毛糸を選んだり、ひと目ひと目編んでくれたのかと思うと胸がいっぱいになった。
「これから毎日このマフラー巻くよ!あぁ~あったけぇ~」
「大袈裟ね!」
首にマフラーを巻いて喜んでいる俺を見てまた笑顔を見せて笑うレイ。
「あっそうだ!俺もプレゼントあるんだ。気にいるかは分からないけど…」
「ありがとう。開けてもいい?」
「勿論!」
包装紙を開け、中身を見て驚く彼女。
「これって…」
「そう、コスメ一式。まぁすっぴんでも綺麗だから要らないかと思ったけど、化粧したレイももっと綺麗だろうから見てみたいなと思って」
「1人でデパ地下買いに行ったの?」
「うん、美容部員さんに色々教えて貰って買ったんだ」
「この間のメイクってまさかこれの為?」
「流石、察しがいいね?ご名答だよ」
そう、数週間前のバッチリメイクの詳細はレイの察した通りデパ地下のコスメコーナーへ行き、美容部員さんに彼女の写真を見せてレイに似合うコスメを一式選んでもらい、どんな風にメイクするのかも自分の顔でご教授頂いた。それをそのまま買ったというのが一連の流れと言うわけだった。
男一人で結構恥ずかしかったけど、レイに喜んで欲しくて頑張った。いい社会見学と経験になって結構楽しかった。
「頑張ってくれたのね?ありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言う彼女と熱く強い視線がぶつかり、沈黙が流れムーディーな雰囲気になる。
え?これってまさか、キ、キ、キ、キ、キ、キ、キッスをしてもいい感じなのでは?
たった数時間前まではレイの家に行ってプレゼントを一方的に渡して帰るだけのクリスマスしか想像してなかったのが一変、キスまで出来そうなこの雰囲気に戸惑いを隠せないでいる。これは夢か現実か?
あぁクリスマスの神様、キャンドルよ、十字架よ、この俺の愛に力を与えてくれ!
一歩踏み出す勇気が足りず戸惑っているとレイが少し身体を伸ばし、目を閉じながら近づき唇に直接キスしてきてくれた。
嬉しすぎて驚くと同時に男としてリード出来ず彼女にさせてしまった後悔で自己嫌悪に陥る。
顔を離したレイの両肩を持ち、意をけして今度はこっちから唇を奪いに行った。
今度は彼女が驚いていたようだけど、受け入れてくれた。
暫くして顔を離すとレイはとても照れていた。
聖なる夜の奇跡だと思った。夢うつつだった。
もっと距離を縮めてもいいのかな?と欲が出てきて、打算計算しつつ距離を詰めて、抱き寄せようかと思ったけど、流石にそれは勇気がなく理性でストップした。
「レイも俺の事“かずと”って呼んでよ」
キスの余韻の後の気恥しい雰囲気に漸く発せられた言葉は、呼び方についてだった。俺もレイに呼び捨てに呼ばれてより恋人っぽくなりたかった。
「…分かったわ。そのうちね?」
キスした後でこれ以上の恥ずかしい事はキャパオーバーだったのか、呼んでくれず次回へと持ち越しの課題となった。
“かずと”とは読んでは貰えなかったけど、クリスマスの力か、イルミネーションドライブデートは出来るわ、プレゼントは貰えるわ、“レイ”呼びを許されるわ、オマケに彼女からキスまで貰えてオカワリまで出来るわで上出来以上では?天変地異や変な敵の侵略で戦って死んだりしないよな?
いや、マジで!信じられない最高のクリスマスに聖なる天使の贈り物に感謝だ。
おわり