セラムン二次創作小説『恋のキューピットの帰還』
「レイカちゃん、隣良い?」
「ええ、良いわよ」
ある日の2限目の講義が始まる1分前。男の人に声をかけられ、顔も見ずに二つ返事をした。
次の講義の用意をバタバタとしていた私は、どうせファンのうちの一人でしょう。位にしか思っていなかった。
自慢じゃないけど、美人の部類に入る私は、大学では普通にモテていた。
気さくに話しかけられたから、取り巻きの1人だと判断するに至った。
「遠藤くんか」
取り敢えず誰か確認の為にチラ見する。
そうそう、遠藤くん。この講義を取っていたわね。
……て、ん?遠藤くん?は?え?
「って、本物の遠藤……くん?」
「ああ、遠藤だよ。どうしたの、ビックリして?」
そう、そこに座っていたのは紛れもなく、本物の遠藤くん。
なよっちくて、残念ルックスの本物の遠藤くんだった。
「古幡くんの親友の、遠藤くんよね?」
「そうだよ、遠藤だよ」
「夢……じゃないわよね?」
講義が始まるのもそっちのけで、私は目の前に2ヶ月ぶりに現れた本物の遠藤くんと話す事に夢中になってしまった。
「そんなに驚く事かい?」
「驚くわよ!2ヶ月近く、どこで何してたのよ?心配してたのよ!」
講義が始まり、ヒソヒソ声で遠藤くんを問い詰める。
兎に角、謎が多い。本物の遠藤くんがいなくなったと同時に、偽の遠藤くんが現れた。と思ったら、古幡くんは本物と疑わない。
偽の遠藤くんなんて、本物と似ても似つかわしくない容姿端麗。親友なのに間違わないでしょ?全くの別人なのに!
それなのに、かなり距離感が近くて、兎に角やきもきしたわよ!
「ごめんごめん。いやぁ、俺も分からないんだよね」
「誘拐でもされたのかと思ったわよ。違うの?」
「この2ヶ月程の記憶が無いんだ」
「記憶が無い?」
記憶が無いって、なに?
誘拐されて酷い事されて、嫌な記憶を思い出せないとか?
……ってわけではなさそうね?
暴力振るわれてたりしたら身体に傷とか出来るはず。顔を見る限りは無傷で元気そう。
体格は元々なよっちいから、変わりなくひょろひょろだし。
「気づいたら時間が少し経ってたんだ」
「少し?2ヶ月近く経ってるのよ?」
「そうみたいだね」
ハハハと遠藤くんは覇気の無い笑いをした。
人が一人、2ヶ月近くいなくなってるのに笑いでは済まないわ。事件よ?
でも、どうやって戻ってこられたんだろう。
「笑い事じゃないわよ!どうやって戻って来たの?」
「それが、俺、遠くに行ってたわけじゃないんだ」
「どういうこと?」
「うん、ずっと麻布十番にいたみたいで、気づいて外に出たら、見慣れた景色だったんだ。遠藤って名前なのに遠くに行ってないんだよ。笑うよな」
冗談交じりに近くにいた事を自分の名前で皮肉った。正直、笑えない。
気づいてって事は、ずっと眠らされてたって事?本当に分からない事だらけだわ。
「眠らされていたの?」
「それも分からないんだ」
「もう!分からない事だらけじゃない!」
遠藤くん自身でさえ全く分からない失踪事件。彼と話せば話す程、頭がおかしくなりそうだった。
謎が謎を呼び、難事件に最早迷宮入り。かの名探偵でも解決は困難を極めるんじゃないかしら?
謎だらけだけど、一先ず本物の遠藤くんが戻って来てくれた。その事で安堵した。
「古幡くんには、もう会ったの?」
遠藤くんの親友、古幡くんとの再会が気になった。
偽の遠藤くんにすっかり騙されていた彼が、本物の遠藤くんを見たらどうするのか?どうなるのか?それが気がかりだった。
「いや、まだ会ってないんだ」
「そう」
これ以上聞いても埒が明かない。そう感じた私は、漸く講義を聞く事に注視した。
それは、講義が半分を過ぎた頃だった。
☆☆☆☆☆
講義が終わり、昼休みに突入した。
古幡くんは違う講義に出ている。
遠藤くんと食堂へ行って、古幡くんを待つ事にした。
「レイカさーん、遠藤!」
同じく講義を終えた古幡くんがやって来た。
笑顔で爽やかに、私たちを見つけて嬉しそうにこちらに向かってくる。
「遠藤、久しぶりだな」
「ああ、久しぶりだな」
ん?何この会話?聞き間違いかしら?
私の記憶が確かなら、古幡くんは遠藤くんとは人違いとは言えずっと会っていたはず。
それなのに、さも容姿端麗の遠藤くんの事なんていなかったみたいな言い方なのかしら?
古幡くんの方が記憶喪失みたい。
「どうしてたんだよ、心配してたんだぞ」
「いやぁ、俺も全く分からないんだ」
先程、私が遠藤くんと繰り広げていた会話を、まんましている。
何これ、デジャブ?と疑いたくなるレベルに同じ会話が続く。
そして、やっはり解決しない事件に、ため息が出る。
「でも、こうして元気に戻って来てくれたんだ。俺は、それだけで充分さ」
最後は楽観的にまとめる古幡くんに、食べていたものを吐き出しそうになってしまった。
「何よ、それ!」
「いや、だって遠藤が戻って来てレイカさんもホッとしたでしょ?」
「そう……だけど」
そうなんだけど、何か違うわ。
「古幡くん、楽観的過ぎない?」
「そうかな?いやぁ、ハハ」
流石は遠藤くんの親友ね。笑って誤魔化すところは、似てる。類友ってこう言う事を言うのね。
とは言え、笑って誤魔化せる問題では無いけど、2人がそれで良いなら私は何も言う事は無いわ。
「ん、美味い!」
当の本人は、久しぶりの学食に御満悦のご様子。
ったく、心配してたってのに、いい気なものね……。
「本当、美味いよなぁ」
古幡くんまで、学食に舌鼓。本当、この2人は……って呆れちゃうわ。
それにしても偽の遠藤くんはどこの誰だったんだろう。
今、彼はどうしてるんだろう。
何故、遠藤くんになりすましていたんだろう。
あんなにグッドルッキングガイで目立ちそうなものなのに、古幡くんといるのを見るまで知らなかった。
この大学にも通っていた訳では無いみたいだし、本当、彼も謎が多い人ね。
大学の知り合いに聞いても分からなかったし、ミステリアスガイってところかしら?
「ところでお前ら、どうなってんだよ?」
「ゴホッゴホッ」
「ブーッ」
食べている最中に、遠藤くんは変な質問をして来たから、咳き込んでしまった。
古幡くんは出してしまう程に吹いていた。
遠藤くんが聞きたかったのは私と古幡くんの関係。所謂、付き合っているかどうか?
彼的には、2ヶ月近く経っているのだから、何か進展があると期待しているみたい。
「ごめんごめん。野暮な事聞いたね。ハハハハハ」
気まづい空気が流れ、そこから食べ終わるまでは無言が続いた。
3時限目の講義が始まる時間が迫って来た為、向かうことにした。
古幡くんとはまた講義が違うから別々になり、別れる。
「さっきは、ごめん」
「本当よ!まだ、進展なしよ。期待に添えなくて、ごめんなさい」
「いやいや、全然さ。こう言うのはタイミングもあるからね。上手くいくよう、協力するよ。心配かけたお詫びに、ね?」
遠藤くんとも講義は違うけれど、方向は同じだから一緒に向かう。
その中で、先程の事を謝られた。
心配させた罪滅ぼしで恋のキューピットですって!
こうなったら、とことん協力して貰おうじゃない!
「頼りにしてるわよ、恋のキューピット!」
偽の遠藤くんと距離感が近いことで、より古幡くんが好きだと確信して、焦っていた私。この申し出は、素直に嬉しい。
何がなんでも、古幡くんの彼女になるんだから!
とは言え、イケメン遠藤くんも気になる存在だったりもするのは、内緒よ?
おわり