セラムン二次創作小説『Baby Baby Baby(未来親子)』
全ての修行を終えた私、ちびうさことスモールレディは未来へ時空の鍵で帰ってきた。
パパとママには事前に手紙を送り、帰る日を記していた。時空の扉が見え、その前にパパとママが立っているのがボンヤリと見えた。
私は脚取りを軽やかに二人に近づいて行く。
ある程度近づいた所で二人に違和感を覚えた。驚いた私はただいまよりも先に大きな声で叫んでしまった。
「パパ、その子は……?」
そう、パパの手には生後一年にも満たない赤ちゃんが抱かれていたのだ。
まさか、その子は……いや、そんなはずは無い。疑心暗鬼になり、心臓が早まる。
もしかして、セーラーサターン?
また未来で争いが起こり、サターンが沈黙の鎌で世界を救ったの?
私はデス・バスターズの時の記憶を思い出していた。
「坊や、お姉ちゃんが帰ってきまちたよ~」
パパから信じられない言葉が放たれた。
サターンの生まれ変わりでは無くホッとしたのもつかの間、お姉ちゃんって?それって私の事?は?弟、なの?
状況と考えが及ばず、私は混乱の一途をたどっていた。グルグルとして考えがまとまらない。ドウイウコト?
「……お姉ちゃんって?」
「ああ、この子はスモールレディ、お前の弟だよ」
「オトウト?え?は?」
え?マジ?血の繋がった弟って事?
え?なに?900年以上年の離れた弟が今更出来たって事?なんで?
依然私は混乱の中にいる。寧ろ、余計に混乱している。長い修行の間に900歳も年の離れた弟が出来るなんて思いもしなかった。考えもしなかった。
だって、ルールがあるから……
「ああ、弟だ」
「パパとママの二人目って事でいいのよね?」
「その通りだ」
「でも、シルバーミレニアムの女王は第一王女しか産まないって聞いていたけど?」
だから私はずっと一人っ子だって納得していた。
なのに、二人は自らそれを破り二人目を産んだ。
前世に引き続き絶対的な掟をまた破ったの?
「そうだったな」
「そうね。でもね、スモールレディ、それは“シルバーミレニアムの掟”よ」
「どういう事?」
「あの掟は月での話。今私は地球に生まれた太陽系を統括する女王。月の掟や古くからの悪しき風習は排除して、地球には地球の掟を作るべきだと考えたの」
「つまりはこう言う事?」
私はママの説明を聞き、自分なりに頭をフル回転させて考えを述べた。
「時代や場所に合わせて見合ったルールを作り、対応していく必要がある。自分達で新しい未来を切り拓くって事?」
「そうよ。その一つが子沢山でもいいんじゃないかって。パパやルナ達と相談して決めて、この子を産んだのよ」
ママは愛おしそうにパパの腕に抱かれて大人しくしているの赤ちゃんの頭を撫でた。
そして、ママ自身のお腹もさする。
私はそこで初めて、もう一つ変化に気づく。
何と、ママのお腹が大きい。え?なに?もしかして三人目をご懐妊中?
「ママ、もしかしてそのお腹は……妊娠、しているの?」
私は恐る恐る聞いた。
「あら、気付いちゃた?ええ、そうよ。今度は双子なの。まだ五ヶ月だけどもうこんなに大きくなっちゃった。凄いわよね!」
いや、能天気か?
うん、こう言うところはうさぎ無のよね。どこか他人事って言うか。
弟か、妹かは知らないけれど一気に何で三人も兄弟増えなきゃ行けないんだろう。
「なんで?」
「大いに越したことはないでしょ?それにスモールレディが小さい時に兄弟が欲しいって言ってたじゃない?」
「……言ったね」
確かに言ったことがあった。
そう、あれは本当に幼くてまだ何も知らない時にママやパパにお強請りして困らせたことがあった。
ルールを知ってからは仕方が無いと諦められた。
だから今更ルールを変更し、子供を産みまくる理由が分からないし、受け入れられない。
跡継ぎとしてしっかりする為に過去に修行へ行き、強くなって帰ってきた。
一人しか産まないのは跡継ぎ問題で揉めないようにするためだ。なのに、弟が出来たら私は後を継がなくていいの?
もしかして用済み?私の修行は無駄だったの?
修行しろって言いながら実は私を過去の自分達に任せて、子作りしたかっただけ?
愛を確かめたかっただけなのかな?
まもちゃんもうさぎも嫉妬で狂いそうになるくらいお互いを好きなのは過去で散々見てきたし、パパとママも今でも愛し合っている。
「でも、今更だし……跡継ぎ問題もあるじゃない」
「それには及ばない。現在、俺たちは地球、月、太陽。そして、ネメシス、この四つの星を守護している」
「一人で四つの星を守護するのは難しいわ。だから守護する星を分担して、あなた達それぞれで守ってもらおうと考えてます」
言われてみれば四つの星を一人では困難だ。
だけど、誰がどの星を守るの?それも揉めない?
「誰がどの星を守るの?」
「貴女にはネメシスを任せたいと思っているわ」
「私がネメシス……」
ネメシスは私が敵の手に落ちて一時期そこに住んでいた因縁の場所。
けれど、余り記憶には無いけれど他の人よりは全然詳しい。あの時の落とし前がつけられると言う事で言えばこれ以上の適任は私を置いていない。
「この子達が立派になるまでは勿論、四つの星を見てもらいます」
「ただ、スモールレディももう900年以上生きている。クイーンとしてやって言ったとしてもそう長くは無い。跡継ぎも暫くは見込めない」
そっか、なる程そう言うこと。つまりは私が女王となり伴侶を迎え、子供を産み育てるまで時間がかかる。それまでの応急処置。
私が突然成長が止まってしまって、いつ大人になるか分からない。それがパパとママを不安にさせていて、色々改革しなければいけなくなったのかも知れない。
「それに、一人は寂しい……」
「パパ……」
腕に赤子を抱き締め、緩んでいた頬が強ばりパパの顔が苦痛に歪んだ。
パパは六歳の頃、交通事故に合い両親と記憶をなくした。そこからはうさぎと出会うまで一人孤独に生きてきた。
私だって似たようなもので、両親が国のトップで忙しく一人でいる事が多かった。
誇らしく思う反面、寂しくないと言えば嘘になる。だからせめて姉妹が欲しいと懇願したのだ。
「私も、地球では弟がいて楽しかったわ」
ママも前世は例のルールによって一人っ子。
四守護神がずっと一緒とは言え、一人は寂しかったんだ。
地球で弟がいたのは、前世のママが望んだことだったのかもしれない。
「そりゃあ、あれだけ毎日派手に喧嘩してたら飽きなかったでしょうね」
過去に行って、全てを知っている訳ではなくほんの一部分しか知らないけれど、それでも月野家で暮らした日々の中でうさぎと進悟兄ちゃんを見てきた。
その事を思い出した私は少し皮肉った言い方をした。
「ふふっ今では素敵な思い出よ」
進悟がいたから今の自分が居る。誇らしげにママは笑ってそう続けた。
「じゃあ、第一王女だけに拘らず数人産んでもいい制度にしたのはパパや私のためって事?」
「ええ、単純にキングにいっぱい家族を作ってあげたかったし、スモールレディの負担も減らしてあげたかったの」
「そっか……」
尤もらしいことを羅列して横暴を働いたのだと思っていたけれど、やっぱり根底はうさぎの心が残っているんだなと感じた。
「パパ、抱っこさせて」
ここでようやく私は弟を抱っこしたいと申し出た。
パパから受け取ったその子は、暖かくて軽かった。
「「おかえり、スモールレディ」」
「ただいま、パパ、ママ」
「この子の名前は、ナイトよ」
「ナイト、初めまして。私は貴方のお姉さんで、スモールレディよ。早く大きくなってね!」
自分の事を棚に上げて何言ってんだろうとは思ったけれど、口から出てきたのだから仕方が無い。
「まぁ、スモールレディったら」
ナイトを抱きながら私は、時空の扉を開けてパパとママと共にクリスタル・パレスへと帰って行った。
おわり