セラムン二次創作小説『虹色の幸せ(ゾイマキュ)』
「地球っていつも雨が降っているの?」
それは何度目かの護衛に地球へと降りたったマーキュリーの素朴な疑問として紡がれた一言だった。
彼女ーーマーキュリーがそう疑問を呈するのも無理はなく、彼女の護衛の日はいつも雨が降っていた。
偶然か、そうでないのかは分からない。ただ、いつも雨が降っているから、四天王の間ではマーキュリーは雨女と噂されている。
今日も今日とて雨。ゾイサイトはやはり流石だと心の中で思っていた。そして先程の彼女の発言。気付いたかと心の中で再びごちる。
「いや」
ゾイサイトは短く答える。
「そう。プリンセスは大丈夫かしら?」
月とは違い、天候も気温もコントロールが出来ない地球。こうも性質が違いすぎるのでは何度も来ているとはいえ、体調を崩しかねないとマーキュリーは心配になった。
「大丈夫では?ほら、我がマスターが庇っているから」
心配そうに呟くマーキュリーにプリンセスと王子を見るよう二人のいる方向に指を指す。
すると、雨避けに自身のマントを頭からかけてあげていた。その仲睦まじい姿を見たゾイサイトは思わず笑顔になる。
「僕たちも」
そう言ってゾイサイトはマーキュリーと傘をさそうと近づく。
「え?」
距離が急にグッと近くなり、マーキュリーは驚き戸惑い、離れようとする。
「そんなに驚かなくても。濡れるだろ?ほら!」
「でも……」
貴方が濡れるから申し訳ないわと尚も避けようとするマーキュリー。
「だったらこれからは予め傘を持って来たら?」
「傘?」
雨が降らない月の住人、その聞き覚えの無い単語に戸惑う。月には傘さえも無いのだろう。
「はぁ、分かった。こちらで用意しておくよ」
「ごめんなさい。ありがとう」
「いいよ」
ゾイサイト的には相合傘でも全然構わないと考えていた。
「天候がコントロール出来ないって言うのも何だか楽しいわね」
雨を見ながらマーキュリーはそう呟く。
先が読めない天候の空は面白く、勉強になるんだとか。
「僕としては君にここでも晴れた空を見て欲しいと思っているけど」
「貴方は雨は、嫌い?」
「そうだね」
マーキュリーの問いにゾイサイトは短くそう答えたが、それは昔のこと。今は、マーキュリーが来るサインの様になっている。
マーキュリーと会う様になって、雨も悪くないと心変わりしかけていた。
「雨、止んだね」
他愛もない事を二人で話していると、雨が止んだ。どうやら通り雨だった様だ。
「本当ね。あ、アレはなに?」
「ん、どれ?」
雨が止み晴れが戻ってきた。再び空を見上げていたマーキュリーが一点の方向を見て驚きの声を上げる。
導かれる様にゾイサイトがその方向に目線をやると、そこには珍しいものがあった。
「マーキュリー、君はやっぱり持っているね」
「……???」
そう言われても何も分からないマーキュリーの頭上には疑問符が浮かび上がり、明らかに困惑している。
「アレは虹って言うもので、雨上がりに運が良ければ現れる現象だよ。勉学に真摯に向き合っている君なら聞いたことあるんじゃないか?」
「あれが虹って言うものなのね!言葉でしか知らなかったから、実物を初めて見たわ」
初めて見る虹に、マーキュリーは目を輝かせて虹を見上げる。
マーキュリーも持っているが、ゾイサイト自身も持っているなと感じる。マーキュリーの嬉しそうな顔を見れた事。そして、そんな彼女と虹が見られたこと。それが単純にゾイサイトは嬉しかった。奇跡だと感じていた。
「素敵ね……」
「ああ、そうだね」
「空に橋がかかっているみたいだわ」
マーキュリーの言葉を聞いたゾイサイトは、この虹の橋が地球と月が繋がれば。そしてその役目をマーキュリーと二人で出来ればと密かに考えていた。
おわり
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?