セラムン二次創作小説『クンツァイト様は笑わない(クンヴィ)
『あのクンツァイト様が笑っていた』
その噂は瞬く間に王宮内外に関わらず、クンツァイトをよく知る者達に広まっていった。
誰もがその噂に驚き、どよめいた。信じ難い事実であったからだ。
クンツァイトと言えば、所謂ポーカーフェイス。
王子エンディミオンの側近である四天王のリーダーであるが故に真面目。決して顔を崩さず、眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
いつ見ても同じ顔なので、近しくは無い周りの人々はこの顔で固まっていて動かないのではと思うくらいであった。
無理も無い。主従であるエンディミオンですら笑った顔を余り見たことがないほど。
悪いことでは無いが、余りにも笑わないので心配になるくらいだ。
「たまには息抜きでもしろ。興味のある事は?」
「いえ、特には。私の全てはマスターと共にありますから」
何の躊躇も無くこんな台詞を言ってのけるクンツァイト。生涯をかけてお守りしようと誓っていた。この命は王子の為のものであり、自身のものでは無いと考えて仕えていた。
息抜きややりたい事、興味などあるはずが無い。王子の為に尽くす事こそ喜びだった。
「かったいよなぁ〜リーダーは」
「もう少し肩の荷下ろせば良いのに」
「俺たちもいるんだ。信じて任せて欲しいよ」
他の四天王でさえ、クンツァイトの真面目さには困っていた。
リーダー故、何でもかんでも1人で背負う癖があった。
その為、仕事量が彼だけずば抜けて多かった。それでもまだまだだと仕事を増やし続けていた。
そんな頑なで真面目なクンツァイトが、楽しそうに笑っているのを末端の騎士達が数人、目撃してしまった。
余りの非現実的な出来事に、あれは本当にクンツァイト様なのか?と遠くから凝視する事になった。
末端の騎士達は顔を合わせ、紛れもなくクンツァイトである事を確認した。
能面の様に一つの顔しか見たことがなかった末端の騎士達は、いきなり笑うクンツァイトを目の当たりにして、少なからず動揺を隠しきれないでいた。
「あのクンツァイト様が笑ってる!」
ちゃんと感情と言うものがあったことに騎士達は驚いた。笑えるのだと。
凄いものを見てしまった騎士達は、興奮気味に人々に語って聞かせた。
その噂はやがて王子エンディミオンの耳にも入る事となった。
「笑っていたんだってな、クンツァイト」
「すみません。私とした事が、気が緩んでいた様です」
真面目なクンツァイトは、笑っていた事を恥じた。
幾ら気持ちが緩んでいたとは言え、隙を見せてしまったことに後悔して自分を責めた。
「寧ろいい傾向だと俺は思っている」
この変化は、エンディミオンにとってはいい兆候で、クンツァイトが人間らしくなったと感じた。
クンツァイトを変えたのは間違いなくあの子。金の綺麗な髪を赤い大きなリボンで結んだ月の姫の守護戦士ーーーセーラーヴィーナス。
仕事一筋で真面目。その為、女慣れしていないクンツァイトに、同じリーダーの守護戦士であるセーラーヴィーナスは良い意味で刺激になっている様で、エンディミオンは嬉しくなった。
変わらず真面目ではあるが、彼女と出会った事で人としての生をやっとスタートさせた。そんな風に感じる。
エンディミオンは、自分がそうであったように一人の女性を本気で愛する喜びや、人生を共有する幸せをクンツァイトにも感じて欲しかった。
時に兄の様に慕い、時に親友の様になんでも相談出来る良き友に自分に仕えるばかりでなく、恋愛して愛し合える幸せを知って欲しいそれがエンディミオンの願いだからーーー
おわり
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