セラムン二次創作小説『あたしが知らない世界』




学校から家に帰ると既にうさぎと進悟兄ちゃんが帰っていた。そこに何故かまもちゃんもいて、なのにうさぎも進悟兄ちゃんも嬉しそうじゃない。まもちゃんも心做しかテンションが低い気がする。


「うっわ、空気おっも!」


私のただいまの挨拶に誰からも返事がない。

まもちゃんは良いとしても、普段口数が多いうさぎと進悟兄ちゃんが挨拶を返さない。そればかりか口を閉ざして一言も発していない。

何より私を見るどころか、三人ともそれぞれ一枚の紙を見ている。


「三人とも、何見てるの?」

「ああ、ちびうさおかえり」


問いかけるとうさぎがやっと私を見て挨拶を返してくれた。

そして三人とも同時に見ていた紙をため息をつきながら机の上に置いて見せてくれた。


「何それ?」

「この前受けた模試の結果だ」

「三人とも?」

「そ、みんな受験だからそれぞれ受けてその結果が出たの」

「まさかみんな同時に結果が出るとはなあ」


どれどれ、と結果を見て見ると三人ともB判定。仲がよろしい事で。


「三人ともBじゃん。Bって良いの?」

「AからEまであって、Aが合格確実でEが絶望的って奴だな。Aが100%ならそこからEに向かって20%ずつ下がるってイメージだ」

「ふーん、じゃあみんなこのまま行けば大丈夫な範囲なんじゃない!」


まもちゃんの分かりやすい説明に、三人の結果を客観的に思ったまま呟いた。

結構いい結果のはずなのにまもちゃんも進悟兄ちゃんもうさぎでさえも暗いのは何でか分からない。


「この時期にBは、俺的には結構ヤバい」


医学部を志望している頭のいいまもちゃんがそう絶望の言葉をこぼす。それは何となく分かる気がする。

きっとまもちゃん的には余裕綽々でA判定で、そのまま受験の日を迎えるつもりだったんだろう。

小さい時から医者を志し、その為にずっとひたすら目標に向かって勉強して来た。

でも、そこにいきなり雑念が入ってしまい、それどころでもなくなった。それがうさぎだ。

少なくともうさぎと言う存在はまもちゃんにとって勉強の妨げになっているに違いない。そして、そのうさぎも。


「私はまこちゃんに負けた」


そのうさぎは、そもそも勉強が嫌いだ。

それでも亜美ちゃん監視下で頑張って勉強して確実に成績を上げていた。やらないだけでやれば出来る子だと私は知っている。

だって、私のママだもん。私が頭がいいのはまもちゃんだけのDNAじゃなくて、うさぎの遺伝子も入っているから。生き証人がそう思っているから間違いない。

だからなのか、頭が悪いまこちゃんに結果が負けていて落ち込んでいるらしい。中々に失礼してる。


「俺は普通にヤバい……」


この中で一番絶望を感じていたのが進悟兄ちゃん。何故か相当追い詰められていた。

そもそも本来まだ受験なんてしなくていいのに中学受験を決意した進悟兄ちゃん。この夏に受験宣言して塾にも通わせて貰ってまだ五ヶ月。

最初は絶対無理な所からのスタートでここまで来れただけでも凄いと私にすら分かるほどの努力がB判定と言う結果になり身を結んでいる。

それに、受験がダメでも進悟兄ちゃんは公立に、今うさぎが通う十番中学に通えばいい。一番気楽なはずの人が一番落ち込んでいる。


「何で?みんな普通に凄いじゃん!」


それぞれ違う意味で絶望し、結果に納得いっていない三人に普通に疑問に思う。


「まもちゃんに受験が終わるまで会わないって言われたんだもん!」

「衛さんに教えて貰えなくなったんだ……」


いや、この姉弟、まもちゃんの事大好きか?

受験も佳境に入っているんだから、当然の結果だと思うわ。

何より、うさぎの方はうさぎのためにもまもちゃんのためにもそうするべきだと私も同感だわ。

進悟兄ちゃんのはよく分かんないけど。


「今までお気楽にデート出来てたことに感謝しなさいよ。たった3ヶ月の我慢で済むなら我儘言わずに頑張って受験勉強に専念しなさい!」

「ちびうさ、冷たーい!夏に一ヶ月半会えなかっただけでも辛かったのにぃ……」

「自業自得でしょう。私なんかパパとママにどれだけ会ってないと思ってるの?」

「うっ……」


会えない事に絶望しているうさぎに、今私が置かれている状況を思い出させると言葉を詰まらせた。

未来から修行に来ている私は、パパとママと離れてかれこれ一年近く経つ。

最初は怖くて寂しかったけれど、戦士として目覚めてからは精神的にも強くなった。うさぎもこれを機に精神的に大人になってくれるといいなと思い、敢えてキツい言葉で叱咤激励する。


「三ヶ月なんてあっという間!一つの季節が始まって終わるだけ」

「その三ヶ月に色々恋人たちのイベントがぁぁ」


なるほど、それか。確かにクリスマスにバレンタインってうさぎが好きなイベントがあるわ。


「受験が終われば思う存分デートすればいいじゃん!」

「ちびうさの意地悪」


これもうさぎとまもちゃん、両方の将来を思えばこそよ。


「うさ、俺も苦渋の選択だ。お互い受験勉強頑張って来年笑って再会しよう」

「まもちゃん……」


まもちゃんだって辛いはずだけど、自分で決めた事だからかうさぎより絶望はしていない。それどころか、前を向いていた。余程B判定がこたえたらしい。


「進悟くんも、頑張って勉強して、俺の後輩になれるのを楽しみにしているよ」

「衛さん……」

「ま、その頃にはまもちゃんは元麻布を卒業していないけどね」

「うさぎ……」


この姉弟は、何でこんななんだろう。

それにしても、過去のパパとママであるまもちゃんとうさぎのこんな姿を見るなんて不思議な気分。

どんな敵にも負けず、揺るがない二人の愛と絆。まさか勉強が強敵で、二人の将来に危機が迫るなんて思いもしなかったし、まもちゃんが勉強に悩んで追い込まれてこんな決断をするなんて考えもしなかった。


私はプリンセスだから、きっとこの先もうさぎ達の様に受験も無く、成績で一喜一憂する事も無いし、三人の気持ちは分からないままだと思う。


でも、まもちゃんや進悟兄ちゃんを見ていて、受験って頭がいい人でも悩む程大変なイベントだと言う事だけは理解した。





おわり





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