セラムン二次創作小説『BELOVED(クン美奈)』
季節は回り巡りゆく。
時が過ぎるのは早い。
ギラギラと照りつける太陽とゴールデンキングダムの庭園に咲く向日葵を見て盛大にため息を着く。
あれから何度目の夏だろうか?
マスターはどれだけこちらが咎めようとも月の姫との関係をやめてくれない。
それどころか会えば会うほどに愛が深まり、別れ難くなっている様に思う。
禁断の恋とは厄介だ。
周りが反対すればするほど、当人同士は関係を深めていく。
こちらの苦労など知らず、いい気なもんだ。
マスターに咎めている一方で、俺自身も胸が締め付けられる想いがする。
いつからだろうか?
月の姫の守護戦士リーダーのセーラーヴィーナスに想いを寄せているた。
気づけば心の中に彼女が住み着き、巣食っていた。
会う度に想いが膨らんで行った。
“月の者と通じてはならない”
最初から分かっていたことだ。
月の王国の人々は1000年を生きる長寿国家で、一方こちらは精々100年。時間の流れが違う。
それに月の王国のほうが身分が上だ。
マスターを護る四天王のリーダーとしてこの恋は何としても封印しなければいけない。
マスターを咎めている以上絶対的な事だった。
他の四天王にも示しがつかない。
しかし、燦燦と降り注ぐ太陽や庭園に咲く向日葵を見るとヴィーナスを思い出しては苦しくなる。
彼女と同じ髪の色で美しい黄色の向日葵と時折見せる弾ける笑顔が太陽の様に眩しい。
思い出さないようにしているのに周りの風景がそれを許さない。
思い出せと言わんばかりに容赦なく目に飛び込んで来る。
「クンツァイト、こんな所でなぁに黄昏てんだよ!」
不意に呼ばれて振り向くとヴィーナスと同じ金髪の男がいた。
「ジェダイトか……」
「マスターじゃなくてガッカリってか?マスター命も困ったもんだぜ」
生憎だがマスターの事を考えていた訳では無い。
しかしまぁそういう事にしておいた方が都合がいい。
マスターにも他の四天王にもこの想いは知られてはいけないのだから。
「2人とも会議始まるぜ?」
「2人してこんな所で黄昏ていい男気取りか?」
「俺は違うぜ?クンツァイトはそんな感じだけど」
ネフライトとゾイサイトも探しにやってきて、好き勝手言ってくる。
反論する気にはなれず、言わせておく事にした。
「心配しなくてもマスターだってちゃんと分かってるって!」
「だからこそ手遅れになる前にと心を鬼にして言ってるんだが、お前達がマスターを甘やかすから……こっちの苦労も知らずに」
そう、マスターと月の姫との恋に未来はない。今だけの泡沫の恋愛だ。
必ず近い将来、別れなければいけない。
やがて来るそれぞれの交差点を迷いの中で受け止めなければいけない。
それはマスターと月の姫だけに限ったことではなく、俺にも言える事だ。
だからこそヴィーナスへの想いは封印しなければいけない。
マスター達と違い、始まってはいない分傷は浅い。まだ引き返せる範疇だ。
「ヴィーナス……」
自分の寝言で夜中に目が覚める。
ふと隣を見ると俺の腕を枕にして美しい顔を最大限のアホ面で寝ている。
ヴィーナスでは無く、美奈子だ。
ぐっすりと寝ている。きっと疲れているに違いない。
昨日は美奈子にとって一大決心をした日だった。
俺に全てを捧げてくれた。
初めての事だったからか、1度やった後、体力がある美奈子でも相当な体力を使ったらしく凄い勢いで寝てしまい、今に至っていた。
やっと身も心も一つになり、前世の封印しかけていた恋心が昇華された、そんな晴れやかな気分になった。
それでだろうか?夢を見ていたようだ。前世の夢を。
ヴィーナスに密かな想いを抱いていて、そのことに気づき向き合い対峙していた前世の夢。
この時代に再転生してから時々前世での出来事を夢で見るようになっていた。
恐らく他の奴らもそうだろう。
前世の記憶が夢を通して流れ込んでくる。
そんなに頻繁では無いものの、こういった幸せな瞬間(トキ)に多い。
過去の悲劇を繰り返さぬよう、過去の分まで幸せになるよう、前世を忘れずにと言う事だろう。
前世ではマスターに忠誠を誓っていたからヴィーナス以外の女性とも親しい異性などいなかった。マスター一筋で生きてきた。
その反動なのか、再転生前の現世では色んな女と付き合って来た。
別に何股もかけていたとか、女遊びをしまくっていたとか、そんな俗に言うチャラけた事はしていない。
俺なりに真剣に付き合ってきたつもりだ。
付き合っている時は浮気などせず一筋で愛してきた。
だが、付き合う女の子全員に尽く言われのない事で振られていた。
付き合ってる歴代彼女に「本当に私を好きか分からない」「いつも私以外の人を想ってる気がする」「本心が見えない」「私が1番じゃない気がする」と言った理由で一方的に振られ続けてきた。
一貫して同じ様な理由だが、前世の記憶を持たない俺は浮気も何股もかけていないのに振られていたことに納得出来ず、軽くトラウマになり、女性不信にも陥った。
そんなタイミングでダークキングダムへと堕ちてしまった俺は、そこでは男を愛する様になった。
ほんの出来心と好奇心だったが、のめり込んでいき、依存して溺れて行った。四天王の1人であるゾイサイト、その人に。
そして普通の恋愛をすることに嫌気がさしていた。
しかし、前世の記憶を持たずまた悪の組織に堕ちてしまった。
記憶を取り戻したが、時すでに遅しで他の四天王は幻の銀水晶でも蘇らせることが出来なかった。
だが、慈悲深い衛の計らいでまたこの世でやり直すチャンスを貰った。
今度こそ間違ったりなどしない。そう心に誓っていた。
前世も悪の組織に堕ちる前の記憶も、堕ちたあとの記憶もある今、全て合点がいって納得した。
マスターとヴィーナスが潜在的に俺の中に巣食っていたのだと。
俺の中の2人を今までの彼女は本能的に見透かしていたのだ。
記憶が無く、知らなかったとはいえ申し訳のないことをした。
彼女達のためにも前世で成就出来なかったヴィーナスへの想いを美奈子を生涯かけて幸せに出来ればと思う。
隣で眠る美奈子がとても愛しい。
やっと一つになれた事がとても嬉しい。
誰にも渡したくない。
独占欲に支配され、頬にそっとキスをする。
「んっきみ……と?」
「起こしてしまったか?」
キスの感触に気づいたのか、美奈子は目が覚めたようだ。
「キャッ!」
自分の置かれてる状況と寝る前の事を思い出したようで、とても恥ずかしがって困惑しているようだ。……単純に可愛い。
そして新鮮だ。
「身体は大丈夫か?」
声を出さずにヘッドバンキングでもしているのか?と思う程に頭を上下に振っている。
これだけ降れば身体は大丈夫なんだろう。
「愛している、美奈子」
そう言って困惑し続けている美奈子の唇を奪い、深く口付ける。
前世ではこんな事さえ出来ず、手に入れられられそうな距離にいてもどかしかったが、今は何だって出来る。
それが幸せで、前世の想いが浄化され、美奈子を堪能する。もう離さない。
前世と言う夢から覚めた俺は、過去に囚われず今目の前にある幸せを、それを与えてくれる美奈子をこれからも愛し続けようと心に違う。
今よりももっと大きな愛で今以上に愛し続けたいと強く決意した。
おわり
2021.08.07
GLAY/BELOVED発売から25周年記念
二年前の発売25周年に寄せてBELOVEDの歌詞にリンクさせて書いたお話になります。