セラムン二次創作小説『四重奏の煌めき』


クリスタル・パレスの廊下にて。午後4時過ぎ頃。

今日のカリキュラムを終えた4人の次世代の乙女たち、セレス、パラス、ジュノー、ベスタの4人はぐったりしながら喋っていた。


「やっと、終わりましたわん」

「流石に疲れたよねぇ~」

「体力の全てを持っていかれたね」

「俺は、まだまだ行けるぜ!」


疲れ果てた三人とは対象的に、ジュノーだけは元気いっぱいだ。

本日のカリキュラム担当はジュピター。彼女の授業は主に体力系が多い。同じく体力には自信のあるジュノー以外は中々に辛い一日だ。


「ご自分と体力同じと思ってるんですわん」

「確かに、容赦無い内容だったよねぇ~」

「体力お化け、普通じゃないよな。まぁ、私たちも普通じゃないからここにいるんだけど」

「スモールレディの側近戦士だもんな!身が引き締まる思いだぜ!」


そんな事を話しながら彼女達は廊下を進んで行く。その行く先はーー。


とある部屋の前に近付くと、それまで賑やかだった四人は一斉に無口になる。


トントントンッ


「クイーン、セーラーカルテットですわん」


リーダーであるセレスが扉を叩く。

その部屋にいるのは、セレスが呼びかけた人物、この太陽系を統治するネオクイーンセレニティその人だ。


「お入りなさい」

「失礼致します」


入る事を許された4人は、扉を開けて礼儀正しく入出する。


「お疲れ様、セレス、パラス、ジュノー、ベスタ」

「ありがたき幸せ」

「選んで下さったあなた様のため」

「そして、このスモールレディのためですわ」

「精一杯、精進致します」


クイーンを前に、かしこまる四人の乙女たち。


「硬っ苦しいのは無しなし!今は私、育児休暇中なのよ?クイーンじゃないわ」

「では、クイーンがそう仰るなら」

「失礼してぇ」

「お言葉に甘えて」

「砕けて、行くぜぇ!」


スモールレディが誕生して早一年余り。

誕生2ヶ月前から産休に入ったクイーン。

産まれてからは育児休暇を取得していた。

その取得期間は、一年半。周りからは当然、長いとツッコミが入ったが、クイーン特権でねじ伏せた。


「スモールレディ、セレスですよぉ~」

「パラスだっているよぉ~」

「アハハハハァ~」

「うう、笑顔が眩しいぜ!」

「癒しだ」


そんな育児休暇中のクイーンの所に、スモールレディに癒しを求めて会いにやってくる次世代の乙女四人。ここ一年の恒例となっていた。

育児休暇中のクイーンは、その名の通りクイーンを休暇中。ドレスなど来ておらず、ティアラも装着していない。

育児をするのに楽な格好で毎日を過ごしていた。

その為、カルテットも自然と普通に接してしまう。最も、クイーンの持つ雰囲気がそうさせてしまうのだが。


「ふふふっ四守護神のカリキュラム、キツそうね」

「そうなんですわん」

「分かって下さいますのぉ?」

「しかも今日はジュピター様でしたから」

「それは、大変だったわね」


クイーン、察し。プリンセスであった時からうさぎ時代でも、ジュピターの得意としている事は尽くダメだった。


「俺はまだまだ行けるぜ!」


ただ一人、ジュノーだけは違っていた。

ジュノーの言葉に、今日のカリキュラムの内容を一気に理解したクイーンは苦笑いするしか無かった。


「四守護神は、どう?」

「マーズの礼儀作法が俺は辛い」

「私は、マーキュリー様の歴史の授業がヤバい」

「パラスはぁ、ヴィーナス様の戦いの授業がいやぁ」

「ジュピター様の体力のカリキュラム程疲れることはないですわん」


それぞれ苦手分野を上げて愚痴る。

各々の性格上、向き不向きはある。

仕方の無いことだが、皆、顕著に出ているようだ。


「こってり、絞られてるみたいね。分かるわ……」


クイーンであるうさぎは、四守護神とは前世からの長い付き合い。四人の性格などは熟知していた。

そんな四守護神の下で戦士とは何たるかを学ぶセーラーカルテット達の事も、かつての自分に重ね合わせて良く理解出来ていた。


「クイーン」

「神!神降臨!」

「癒されるぅ~」

「疲れが取れていく」


クイーンの温かい言葉に触れた四人の乙女たちは、心が軽くなるのを感じていた。


「あの四人も、あなた達を思っての事だから、頑張って。スモールレディを守る立派な戦士になってね!」

「勿論ですわん、クイーン」

「プリンセスは私たちの大切な人ですからぁ~」

「その為にも精進あるのみですわ」

「この命に変えても、守って見せます!」


クイーンに指名された時から、四人の覚悟は決まっていた。

どんな辛いカリキュラムでも、どんな酷い戦にも耐え抜いてみせると。


「でも、やっぱり癒しは欲しいですわん」

「うん、癒し、大事ぃ~」

「スモールレディの顔を見ると頑張れます」

「原動力になるよな!この子の為に頑張れるぞ!って」


そう言って、クイーンが育児休暇を取っている間中この四人は定期的にスモールレディに会いに来ていた。クイーンの優しさに甘えていたのだ。

疲れた体を癒す場所。カルテット達は、そう認識していた。大変な授業の後、週一回程度入り浸り、クイーンに愚痴を聞いて貰いながらスモールレディと遊ぶ。

四人にとってはこれ以上無い至福のひとときであった。




そして、もう一人。癒しを求めてやって来る人がいる。その人物も、公務を終えて今コチラへと向かっていた。


「セレニティ、スモールレディ~」


扉を叩く事無くやや陽気に入って来たその人物こそ、クイーンの夫でありスモールレディの父親。

そして、この太陽系を統べるキング・エンディミオンその人である。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


クイーンより我先にとそう挨拶したのはセーラーカルテットだ。彼女達が集合しているのを確認したキングは状況を瞬時に理解した。


「またお前たちか……」


彼女達が入り浸っている事は、キングにも知られた事実。いくらスモールレディの側近戦士だからと言っていささか来すぎでは無いかと心の中で愚痴る。

クイーンが容認している分、キツくは言えない。王様の威厳、どこへやら。

せっかく癒されたくてコチラへ来ても、これではスモールレディを抱っこは愚か、クイーンとのラブラブな時間も設けられない。キングにとっては蛇の生殺しの時間だ。


「まぁまぁ、この子達も疲れているのよ」

「それは分かるが……」


呆れつつもキングは、自然とクイーンの隣へと腰掛ける。ついでにクイーンの肩に手を回す。最早癖である。


「四守護神にこってり絞られたみたい」

「そうか。四天王は、どうだ?」

「クンツァイト様は相変わらず何考えてるか分かりませんわん」

「ゾイサイト様は楽しい方でぇす」

「ジェダイト様は真面目が過ぎますね」

「ネフライト様はジュピター様のケツばっか追いかけてるぜ……(呆れ)」


四天王にもストレスを抱えている次世代の乙女たち。

そりゃあ、癒しを求めたくなるわな。と昔から彼らを知るキングは察した。


「お勤めご苦労様、エンディミオン」

「ああ、ありがとうセレニティ」


実はそんなキング、産休も育児休暇もちゃっかり取っていた。

産休は1ヶ月、そして育児休暇は1年。本当はもっと長く取りたかったが、リーダー夫婦から怒りの鉄槌が下りあえなく復帰。

と言うのも、一年分の仕事が溜まりに溜まっていると仕事場に引きづられ、山積みになっている書類を強制的に見せられたのだ。復帰せざるを得なかった。


「この子達、今日はジュピターのカリキュラムだったんですって」

「ああ、仕事部屋から見えていたよ。頑張っていたね」

「頑張ったなんてもんじゃないですわん」

「山登りと下りを全力疾走30セットなんてぇ」

「何の罰ゲームかと思いました」

「俺は楽しかったけどな」

「容赦無い内容だな……」


俺でも無理だ。そちら側では無くて良かったと内心ホッとするキング。


キングを交えながら、カルテットはスモールレディを囲んで癒されていた。

しかし、そんな時間もいつまでも続かないからこそ尊いと言うもの。


クイーンの部屋へと歩を進める者が一人。

そして、扉を三度ノックする。その人物とは?


「クイーン、セーラーサターンです」


声を聞くやいなや、四人の乙女たちはビクッと体を硬直させる。そして、次々にこう囁く。


「サターン様ですわん」

「あの目、怖いよぉ」

「沈黙の鎌怖い、沈黙の鎌怖い……」

「殺されるんだ、俺たち」


それを、キングは横目で見逃さなかった。

やっと、四人がこの場を去る時間が訪れた合図だと察したからだ。


「お入りなさい」

「失礼致します」


クイーンに入室許可を貰ったサターンがゆっくりと入って来る。

それを見ながらカルテットは姿勢を正した。

サターンは、カルテットの教育係。唯一にして絶対的に頭が上がらない相手である。


「カルテット、やっぱりここにいたのね!私だってスモールレディと……(以下略)」


スモールレディの誕生をカルテット以上に心待ちにしていたサターン。会いたい気持ちを抑えて任務に当たっている為、カルテットには色々不満が溜まっている。


「これから私と外の見回りでしょ?」

「すみませんでした!」


絶対零度の、いや寧ろマイナスの冷ややかな顔を向けられ長い説教を正座で聞いていたカルテットは、怯えながらも元気よくハモって返事をする。そうしないと後が怖いからだ。


「さ、行くわよ!」


そう行って沈黙の鎌でカルテットの方向を指す。


「ヒィッ」


沈黙の鎌の煌めきに、殺されると心の中で覚悟を決めた四人の乙女たち。

この後のことを考えただけで気が重かった。サボっていた訳では無いが、時間があったからスモールレディの所へとやって来たのだ。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、精神がすり減る時間が訪れた。午後はとっくに6時を超えていた。


「お騒がせ致しました」

「失礼致しました」


そう言って去っていたサターンと次世代の乙女たち。その姿はまるで警察と犯人の様だったとキングは言う。いつまでも語り継がれる伝説の一つ“サターンとカルテットのケイドロ”誕生だったとか。


かくして四人の乙女たちは、今日も日や戦士と騎士の先輩方の下、立派なプリンセスを守る戦士となるべく修行に励んでいる。


頑張れ、次世代の四人の乙女たちよーーー





おわり



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