セラムン二次創作小説『弟たちのララバイ』
「はぁ……」
ある日の休み時間。
ため息をつき、目に見えて落ち込んでいるのはぐるぐるメガネが特徴の空野。
頭が良くて自信家だから、こんなに落ち込んでいるのは珍しい。
どうしたんだろ?
「空野、ため息なんてついちゃってどうしたの?」
「ちびうさちゃん、実は……」
手短に答えながら紙を私の顔に近づけてきた。
さっきの授業で返ってきた算数の答案用紙だ。
「80点!?」
毎回100点が当たり前の空野にしては珍しい点数が書かれていた。確かにこれは凹むわ。
「80点で落ち込んでるなんて、ちょーMM!チョベリバって感じで、チョベリブー!」
私たちのやり取りを見ていたなるるが横から悪態の限りを尽くして来た。
まぁ80点ってなると一般的にはいい点数だもんね。
ましてやなるるからすると余計に夢のまた夢の点数で。腹立つのも無理は無い。
「空野がこんな点数取るなんて珍しいね。何かあったの?」
空野の事だ。きっとのっぴきならない理由があるはず。
「ええ、あったんですよ……」
理由を聞くと、目に見えて暗くなる。
これは相当堪える事があったんだな。
「僕、姉がいるんですけど。すっごいアイドルオタクで……」
空野にお姉さんいたんだ、と驚いたと同時にアイドルオタクな事にもびっくりした。
空野のお姉さんがどんな人かは知らないけど、空野から結び付かない。だって空野は確かクラシックを嗜んでいて、みちるさんのファンだったはずで。そのお姉さんがドルオタ。
それに私的にはアイドルオタクって聞くと美奈P思い出すんだよね。
「今度、推しアイドルのコンサートに行くらしくて。友達と一緒に家で推しのうちわを興奮しながら作ってたんですよ……」
一気にそう話すと、泣き始めてしまった。
テスト勉強に支障きたす程の大音量だったのか。可哀想に。
「姉はいいんです!問題はその友達で、歌うわ踊るわで……」
うっわ、めちゃくちゃ迷惑だわ。人様の家で大騒ぎするなんて非常識、何考えてるんだろ?顔が見て見たいわ。
「その友達、小学生の時からの親友で、愛野美奈子って人で……」
「って美奈P?」
「美奈子お姉ちゃん?」
突然、知り合いの名前が上がって驚きを隠しきれず、愛称で絶叫してしまった。
同じく隣で静かに傍観していたほたるちゃんも加勢して大絶叫。
空野、美奈Pが何かごめん!と私は美奈Pの保護者か?ってツッコミ入れつつ心の中で謝っていた。
「お二人共お知り合いですか?」
「うん、まぁ……姉の親友でもあるから」
私の場合、うさぎは姉じゃないけど。この場合、説明が面倒くさいから姉って事にしてる。とても不本意だけどね!
後、親友と言うより戦友、馬鹿友って所だけど。
「そう……でしたか。すみません。悪口みたいな事言ってしまって」
「ああ、ううん。全然大丈夫だから気にしないで!こっちこそ美奈Pがご迷惑をおかけしてごめんなさい」
ってだから私は美奈Pの保護者か!
まぁ美奈Pより頭はいいし、歳も上だし(御歳902歳の見た目は子供、中身は大人の元祖の子)保護者位置でもいいんだけど。
ほたるちゃん、助けて……。
「美奈子お姉ちゃんならやりそう。目に浮かんじゃった」
塩塗ってどーするの、ほたるちゃん!
逆効果だよ……。
「確かに美奈Pは元気ハツラツだよね」
私も実は被害にあってる。うさぎと同レベルでキャーキャー騒いでて、勉強に集中出来ないこともしばしば。
だけど、そのうち慣れてきて無になってた。
空野にはまだその境地に立ててないみたい。本当、同情する。
「ぐりも苦労してんだな」
そう同情するのは同じく傍観していた九助。
“も”って事は、九助も苦労してるって事?
「九助も何かあるの?」
そう問いかけるのはほたるちゃん。
「あるぜ!俺も姉ちゃんいるからすっげー分かる!」
「九助さん……」
同士の登場に藁をも掴む想いで空野が九助に縋る。
「俺の姉ちゃん、TA女学院に通ってるんだけど、お嬢様言葉ばっか使って肩こるっつーの!」
「大したこと、ないじゃないですか!裏切り者~!!!」
本当、大したこと無さすぎて逆に声も出ないわ。
でも、九助のお姉さんもTA女学院通ってるんだ。レイちゃんと同じだ。
「んな事ねぇって!最近出来た友達が時々遊びに来るんだけど、霊感が強いらしくて。姉貴、兎に角そう言う類のものが好きだからやたら怖い話してて。俺、そう言うのてんでダメだから怖くて……夜眠れなくなる事もしょっちゅうなんだぜ?」
TA女学院の友達の霊感少女?ま、まさか、ね?
「九助、その人の名前は?」
「名前?何だっけ?確か火川神社の巫女さんやってるって言ってたな……」
そ、それってやっぱり……。
「火野レイって人?」
「ああ、それ!それだ!火野レイ!」
「レイお姉ちゃん?」
ビンゴ!!!空野に続いて九助のお姉さんとも知り合いが繋がってるなんて……。
世間が狭いというか、なんと言うか。
しかもことごとく迷惑かけてるとか地獄絵図だわ。
知り合いの名前が出る度恐怖よ。
ほたるちゃんもその度、絶叫して驚いてるし。
「何だよ?またお前らの知り合いか?」
「……はい、すみません」
今度はレイちゃんの保護者になっちゃったじゃない!
美奈Pやうさぎなら兎も角、レイちゃんまで違う意味で迷惑かけるなんて……。
「姉貴にも散々怖い話されるんだぜ?」
「怖い話がなんですか?九助さん、贅沢すぎます!」
空野が八つ当たりするのも無理はないわ。
それで成績落ちる事は無さそうだもん。
空野の場合はしっかりテストの点数に現れてて。目も当てられない。
「大音量でな○わ男子とか言うグループの曲流して、一緒に歌って踊ってるんですよ?今も頭から離れない……」
もうこれ、トラウマレベルに傷ついてる。可哀想。
「あんな恋がしたいとか、こんなはずじゃなかったとか……ダイヤモンドスマイルだとか!どんだけ欲深くて眩しいんだって話ですよ!」
「姉貴が重度のドルオタってのも大変だな……」
やっと自分以上に大変な事に気づいて空野を慰める九助。男の友情は美しくて良いな♪
「いえ、自分ばかりすみません。姉さんがオカルトマニアってのも中々怖いですね」
こっちはこっちで違う種類で大変みたいね。
「元気出して、ぐりぐり!欲しがってたみちるママのコンサートチケット、強請っといてあげるから」
「うわぁ、本当ですか?ほたるさん、ありがとうございます」
そう言ってまた涙を流し始める空野。
今度は嬉し涙だ。
「何だよ、俺だって落ち込んでんのにぐりだけずりぃよ」
「勿論、九助の分もみんなの分も貰っといてあげるわよ」
「クラシックコンサートはハードル高ぇよ」
「みんなで行けば怖くないわよ」
ほたるちゃん、ナイス!
知り合いが迷惑かけた分がこれでしっかりチャラになる。ありがとう、ほたるちゃん。大好きよ。
と同時にまた自分じゃ何も出来なかったことに少し引け目を感じた。
「みんな、お姉ちゃんに苦労してるのねぇ。私もお姉ちゃんにはチョベリブっててぇ~」
そう愚痴をこぼし、応戦してきたのはなるる。
確かなるるのお姉ちゃんってうさぎの親友だったわね。
「なるるさんも振り回されてるんですか?」
「何だよ、なるるも姉ちゃんいたのかよ?」
「お姉ちゃん、ちょー口うるさくてぇ~MK5って感じなのよねぇ……」
なるる、お姉ちゃんが口うるさくてマジで喧嘩する5秒前らしい。
それはきっと、その独特のギャル語のせいだと思う。
後、テストも毎回るるなとワースト競ってるくらい頭悪いし、きっとなるちゃんの方が苦労と振り回されてるんだと思うんだけど……。
「なるちゃん、そんな感じしないけど……」
「ママより口うるさくてぇ~、ママよりよっぽどお姉ちゃんの方がちょーMMって感じ」
この流れだとちょーマジでママっぽいって意味みたい。
「本当、ちょーMM(ちょーマジ卍)」
きっとなるちゃんが叫びたいと思う。
学校ではうさぎに振り回されて、家ではギャル語を乱発する妹の言動に悩まされ……。多大なるストレスがかかっているのが目に浮かぶ。
「きっと今回のテストの点数見て鬼って来るんだよ……」
そう言ってテストの答案用紙を見せてきた。
「20点。お願いだからもっと勉強して、って先生に泣かれてメッセージ書かれてるじゃん」
こりゃあ酷い有様だわ。うさぎで慣れてるとは言え、インパクトある。
「こりゃあ最高だぜ!ぐりと合わせりゃ、丁度100点。なるるの答案用紙持って帰ってやれよ」
「空野っちぃ、マジこれあげるぅ~」
「いりませんよ!ちゃんと現実を受け入れて責任持って、ご自分で持って帰ってください」
「ちょーMM(ちょーマジ無理)」
「まぁまぁ、私が勉強教えてあげるから。ぐりぐりと一緒に」
「は?何で僕まで?」
「足して100点の片割れとして」
「何ですかそれ?完全なる道ずれじゃないですか?」
「嫌なの?教える事も勉強になると思うけど」
「まぁ、それなら……仕方ないですね」
「う、ほたるんにぐりぐり~MK5。お姉ちゃん、怖くて……」
ほたるちゃん、本当ナイス!
なるちゃんだって頭いいから教えてくれると思うけど、スパルタみたいだし。
二人いれば今回私はいらないかな?
「お前も80点の事実、受け入れろよ!俺より全然、点数いいんだ。嫌味でしかないからな!」
そう言って九助が見せてきた答案用紙には「60点」と書かれてあった。
確かに空野の方が点数は勿論いいけど、九助も決して悪くない点数だと思う。
「さんすーなんて、しょーらいカンケーない仕事に就くからいいもん!」
「いや、流石に良くねぇだろ?お前、次女とは言え、あのでっかい宝石店の令嬢だろ?売り上げやら仕入れ云々、何かしら手伝うなら必須だぜ?俺だって跡取り息子だから算数は頑張らないといけないんだから、お前も頑張れよ!なぁ、桃?」
「う、え、あ、あたし?」
将来の真面目な話になって説教したかと思えば、いきなり桃ちゃんに問いかける九助。
まさか自分に飛び火するとは思わず、ずっと我関せずで傍観していた桃ちゃんは慌てふためいた。
「お前だって他人事じゃねぇだろ?中華料理屋の令嬢なんだから。算数、それにお前は日本語と中国語必須だろ?親からプレッシャーかかってるだろ?ぐり、お前だって貿易会社の跡取り息子なんだ。当然、小さい頃から英才教育受けて育ったから、80点で凹んでんだろ?」
驚いた。馬鹿だと思ってた九助が、将来の事、こんなに考えてるなんて……。
私もうかうかしてられないわ。
「まだ私たち、九歳よ、九助!」
「そーよ、そーよ!MK5!」
みんなはまだ九歳。確かに将来なんてまだまだ先の話で。先の事は分からないよね。
私は小さいまま、900年生きてきて、パパとママに国の事は任せっきりで。とっくに引退して隠居生活送りたいだろうに、成長出来ずに苦労かけちゃってるな。
「で、桃、お前の点数は?」
いつから点数の結果見せ合う会になってたんだろう……。
この流れだと私とほたるちゃんも見せることになるんだろうな。別にいいけど。
「……」
無言のまま桃ちゃんは答案用紙を見せてきた。
「40点か、ふーん」
「算数苦手なんだもん!絶対、そんな感じだと思ったから教えるの嫌だったのに」
みんな20点ずつ違うのね。
九助と桃ちゃんも、空野となるると一緒で2人の点数足せば100点になるな。仲良いじゃんって思ったけど、そんな野暮な事は言わないでいた。
「九助さん、あなた達も足せば100点ですよ。相変わらず仲良しですね」
余計なお世話しちゃったよ、空野。
散々いじられたから反撃したい気持ちも分からなくはないけど。
「持って帰らないからな」
「別に持って帰って欲しいなんて思ってないわよ!」
だから言わないこっちゃない。
いつもの喧嘩が展開される流れになった。
「ちびうさちゃんとほたるさんは何点だったんですか?」
来たよ、この質問。別にいいけどさ。
「はい、これ」
「私のも!」
2人同時に見せた答案用紙の点数は輝かしいほどの“100点”の文字。
そう、私たち、秀才なの。所謂、才女って奴。
「やはり満点でしたか。分かってました。あなた達は僕が認めたライバルですから。そして今回は完敗です」
「流石だな!だから余裕でこの場にいたんだな」
と言うか、私が空野に話しかけたのがきっかけだしね。この場を仕切るくらいの事はしといた方がいいと思っただけよ。
「ちびうさちゃん所にもお姉さんいらっしゃるのに、いつもブレずに高得点取れるなんて本当、羨ましいです」
「確かにな。姉貴に振り回されたりしねぇのかよ?」
その話に戻すのね。別にいいけど。
私の場合、姉ではないけどね。
「慣れたわよ。振り回されたりしないように無になる事を覚えたの」
「は?お前、なんかの超能力でもあんのかよ?」
「んなわけないでしょ!九助、お姉さんの影響受け過ぎじゃない?」
まぁ超能力は無いけど、普通の人間でも無いのは認めるわ。
ピンクムーンクリスタルの持ち主だし、将来はみんなより上の立場になってこの国を治めなきゃいけないし。
だからうさぎのペースに乗せられてる場合じゃないのよ。
「げっ!いつの間にか情操教育受けてたのか……」
「結局はお姉さんの事、大好きなんだね?」
無邪気にそうほたるちゃんが九助に質問すると、九助は顔を赤くした。
「ま、まぁ、な。何だかんだ血を分けた姉弟だからな」
「ふふふ」
「なるるは?なるちゃんの事、嫌い?」
「口うるさく説教して来るけど、私の事チョベリグって思ってくれてるって分かるから、大好きだよ!パーペキで素敵なお姉ちゃんだよ」
「ちびうさちゃんは?」
「私もうさぎの事、大好きだよ。理想の人だもん。あんな素敵なレディになりたいんだ」
「最後、ぐりぐりは?」
「勿論、大事な肉親ですから。可愛い人ですよ」
この中で唯一、兄弟(姉)のいないほたるちゃんが最後はトークを回してくれた。
何だかんだ文句言っても、やっぱりみんなお姉さんの事、大切に思ってるんだね。
私は実際は一人っ子だけど、みんなのお姉さん想いの話が聞けて有意義な時間だった。姉弟や姉妹っていいな、なんて羨ましく思った日だった。
みんなこれからもお姉さんを大切にね♪
おわり